系外惑星探査~アイボール・アース~

暗黒星雲

アイボール・アース

 タンデムツイン型の核融合エンジンを搭載した大型探査船アキツシマ。全長は200mほどであろうか。今は月の外側ラグランジュ・ポイントに停泊している。

 小型のシャトルはゆっくりと接近し着艦した。


 艦内に入った途端艦長に呼ばれた。

「三笠少尉。ご苦労。早速だが哨戒任務にあたってくれ」

 滝沢艦長は渋い顔をしている。

「着任早々申し訳ありません。私が戦闘機でバックアップします」

 女性副長の斉藤中尉は顔見知りだ。戦闘機乗りがなぜここにいる?いや、戦闘機乗りなら着陸用シャトルの扱いは慣れっこだろう。俺は何なんだ?人型機動兵器バリオンの操縦士だ。惑星探査には縁がないと思っていた。


 バリオンに搭乗し艦外へ出る。後ろからはマルチロール機雷光がついてくる。胴体に巨大なレーザー砲を抱えた新鋭機だ。雷光は俺にすーっと近寄ってきて翼を振る。何かと思えば近距離レーザー通信を接続してきた。

「何ですか?愛の告白でしたら歓迎しますけど?」

「あらごめんなさい。貴方は趣味じゃないのよ」

「ハッキリ言いますね。傷つくじゃないですか」

「うふふ。でも、大事な用なの」

「何ですか?」

「実はね。テロ予告があったのよ」

「テロですか」

「ええ。この度は実行される確率が高いと判断されたわ」

「それで俺が呼ばれたんですか」

「そうです。私が呼びました」

「俺は惑星探査なんて似合わないって思ってたんですよね」

「私もですよ」

「中尉は違うでしょう」

「違いません」


 この人は美貌と才能を併せ持った高根の花。しかも、政府高官のご息女で俺なんかが付き合える相手ではない。しかし、何故か俺には絡んでくる。


「俺は、昨日一夜漬けなんですが、一応行先のプロキシマ・ケンタウリについて勉強しましたよ」

「聞かせて」

「えーっとですね。距離は約4.2光年。三重星のケンタウルス座α星の中の一つ、赤色矮星です。太陽質量の12.3%。恒星としてはかなり小さいです。2016年に惑星が発見されました。プロキシマ・ケンタウリbと呼ばれています。質量は地球の1.3倍程度。この惑星は主星にかなり近く太陽と水星よりも近い位置になります。よって、潮汐力により、月のように常に同じ方向を主星に向けていると考えられています。しかし、主星は太陽光度の約0.0015倍と非常に暗い為、この距離でも惑星の平均温度は摂氏−39度です。主星に向かっている部分は液体の水、その他は氷だと思われます。その様子が目玉のように見えるのではないかと言われていて、『アイボール・アース』とも呼ばれています」

「よく調べたわね。ハビタブルゾーン。水が液体で存在する生命が誕生可能な領域にある惑星だわ」

「生命が発見されますかね」

「さあ、でもね。地球から一番近い恒星にハビタブル惑星があったんだから調査しないわけにはいかないわ」

「ですよね。で、何故テロが?この計画ジャマしたいんですかね」

「そうみたいよ。私は狂信者による特権意識だと解釈してるけど」

「意味わかんねっすよ」

「人が知識を増やし認識を広げることは神に近づく事。しかし、それは信仰によってのみ為されるべきだという主張ね」

「エロ画像を規制する倫理委員会みたいな?」

「違うわよ。馬鹿!」


 その時アラームが鳴り響く。


「いて座の方角から母船に接近する物体があるわ。こっちと反対。不味いわね」

「戻りますか?」

「ええ。私が先行します。貴方はついてきて。指示したら即発砲してください」

「了解」


 プラズマロケットを吹かし方向転換をする。

 AIがコース設定をするが無視して勘で方向を決める。微調整をAIに任せる。


「接近する物体は輸送艦用の汎用カーゴと思われます。アキツシマとの衝突コースに入っています。衝突まで600秒」


 AIが報告する。


「撃ち落とすより母船が避けた方が安全なのでは?」

「あのでかいのすぐに動かすのは無理よ。貴方の武装は?」

「120ミリ砲とバズーカですよ。外板に穴は空きますけど方向変えるのは無理だと思います」

「こっちのレーザー砲も似たような物ね」

「どうしますか?」

「取りついて方向変えるしか……でも時間が無い」


 その時再びアラームが鳴った。


「北極星方向より高速の移動物体接近します。秒速約250㎞。カーゴに命中します」


 前方に閃光が見えた。大型の輸送用カーゴは何か他の大きい物体と衝突したらしい。


「今のは何だ?」

「わからないわ。記録はしてる?」

「大丈夫です」


 わけの分からぬまま、俺たちはアキツシマへ戻る。


 その後すぐに系外惑星の探査は中止となった。


 テロリストの放ったカーゴに衝突した物体は小惑星だった。命中したのは偶然。しかし、その後の調査で大変な事実が判明した。

 その小惑星は太陽系外から飛来した。そして飛来した方向を調査した結果、直径1パーセク(3.26光年)の範囲に数億もの小惑星が存在し、それらが太陽系に向かって飛来していたのだ。


 地球は今後数十年の間、天体衝突の恐怖に怯えることとなる。

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