【1】-1 後編 「ギミック」
~ここで、簡単なイキサツを説明しよう。~
俺…清水敬也(しみず けいや)は、下山綾香(しもの さやか)が好きで仕方がない。
キッカケは、出会った時。一目惚れだった。それから何度か告白するも、フラれ続ける。
つい二年前に、最後の告白をした。最後になった理由は単純、俺と彩香が知り合う前に、別の男と付き合い続け、既に四年が経過しているタイミングで最後の告白をしたのだった。
逆算すると、俺と出会う前から、別の男と付き合っていたワケだ。明らかに詰んでいる。
その上、彩香はおしとやかで元気な顔も持つが、責任感が強い、元.先輩だった。
「元.」と付けるのは、至って単純、俺が高校を半年で辞め、通信制高校で堕落生活を送っていたからだ。
ここまで明確な優劣の差を付けられている中、優等生である彩香が選んでいる彼氏がいる。劣等な僕が勝るような彼氏など、彩香が選ぶハズない。
それでも、心のどこかで、逆転できるんじゃないかと思っていた。彩香を寝取り奪うことだけは考えたくなかったが、彼氏と不仲になったときに、間に入って優しく振舞おうとした。だが、彩香は俺に大した気がなく、そもそも他人につき合っていることを公表しない人間。いつ、どこで彼氏と不仲の情報を手に入れるのか。
結局、堕落路線を走りつづけ、好きなコトだけを考える生活を送り続けたまま(それでも、彩香のコトだけは、いくら考えてもどうしようもないまま)、大きな差を埋められないまま、現在に至る。
「なんで知ってる情報をもう一度教えられるんですか、私は…」
「うるせぇ、俺の堕落人生を好き好んで読んでる変態・変人共に向けて、説明してやってんだよ!」
「誰について言ってるのかよく分かりませんが、やたらめったらに他人の悪口を言うものではありませんよ。私の父も同じことを言ってましたよ。」
「俺の父も同じコトを言ってたよ。でも、結局、教育の一環として、俺に向けて、自分の後輩のヘマ話を一方的にしゃべり続ける。嫌な父だったよ。」
「そんな話、私にされても困るんですが…」
「ああはい、そうですね。なんでそう固くノリが悪いかなぁ…。」
「仕方ないじゃないですか、神なんですから。」
「ああはい、そうかい」
…ふと思った。
何を居酒屋で茶番劇やってるのか。どれだけ歳を取った志村けんでも、こんな雑なコントしない。小学生の頃にYouTubeで見てたドリフターズのメンバーに、申し訳が立たないわ!
「んで、神さんは、私の願望をかなえてくれるのかね?」
「やっとその話に食いつきましたね…。」
待ってました、と言わんばかりに、ネクタイを少し締めた。まるで会議室のように引き締まっていて、かつ自慢話をする空気を作り上げた。
「私には、1つ、出来ることがあります。」
「と、言うと、何だ?」
「タイムマシンで、あなたを過去に飛ばします。」
「…タイムマシン?なんか急に青いネズミ型ロボットの話が入って来てないか?」
「よしてください、それに彼は猫型ロボットです。」
「…んで、タイムマシンで過去に飛ばして、どうするんだ?」
「少しは足りないオツムでも、考えてくださいよ。」
「あ?なんつった?」
「これだからDQNは嫌なんですよ…。要するに、あなたが、片思い相手さんと出逢うんですよ。」
「出逢って、どうするんだよ?」
「分らないんですか?出逢う、と一言で言っても、今の彼氏さんよりも先回りして、彩香さんと出会うんです。」
「…ナルホド。」
「あなたなら、その彩香さんの手助けが出来る。それは、彩香さんの今と、今後にも響く。大きな救いの手となれるのです。」
「…やっと少し理解出来た。要は、過去に飛んで、彩香の救いの手となって、彼氏面出来るまでに好印象を植え付ければいいんだな?」
「…言い方が何か突くというか、何か生々しいですが、簡略して言うと、そうなります。」
「よし…彩香を救ってやろうじゃないか!」
オッサン…いや、神が、そっと俺に微笑んだ。
「キモいなぁ、なんだよ?」
「いいえ。さぁ、その決心がついたなら、そのアツい気持ちが冷めない、早いうちに、過去に飛ばして見せましょう。」
「お、もう、なのか」
「…おっと、その前に。」
急に冷静な顔になって、俺と顔を近づけた。
「や、やめろ、俺にホモの趣味はないんだ!」
「違います。これから、貴方を過去に飛ばします。ですが、そこに、あなたの時系列的に見て、本来の姿である貴方も居ます。」
「お、おう。…それで?」
「貴方は、母にも、父にも、兄にも、今仲良くしている人とは、絶対に仲良くしてはいけません。いずれ、その時代のあなたと、成長した今のあなた、勘繰られてしまった時には…」
「…なんだよ?」
「貴方の存在は…消えてしまいます。」
「Oh…」
何気に恐ろしい事を言われた。
元の時代に戻されるワケではなく、気付かれたら即死イベントへ直行、というわけか。
「つまり、あなたは、誰とも仲良くできない、孤独な中、彼女を救わなければなりません。できますか?」
何言ってるんだコイツ、と落ち着いて言い返す。
「余裕に決まってるだろ。俺も、もうハタチなんだ。親にも兄にも、友達に頼らなくたって、生きていけるさ!」
言い切ると、全てを悟った顔で、神が言った。
「…その瑞々しくも屈強の勇気ある心。永久に、幸あれ。」
まるで唱えるかのように、俺に讃辞を送る。それと同時に、神の両手が、それぞれ俺の両手を握った。
いつの間にか、居酒屋からは、誰も居なくなっていたのだった。
2020年8月24日、午前4時23分。
俺は、神と出会った。
Lという名の衝動 高橋陽向 - たかはし ひなた @music_shimizu
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