金髪は永遠の憧れ【挿絵あり】
ブロンドヘアに憧れたことはあるだろうか。
金色に輝く髪は大昔から太陽、神、光などのイメージと結び付けられ、美や非凡さのシンボルとされてきた。
古代のギリシャでは現代と同じく、ほとんどの人が黒髪だったとされる。けれどもホメロスの叙事詩『イーリアス』(紀元前8世紀頃に成立)では主人公をはじめ複数のキャラクターが金髪で、神や半神、英雄、美女など、凡人より優れた特質を備える人物として描かれている。
高貴なイメージは時代が下っても受け継がれる。15世紀イタリアで活躍した文学者アーニョロ・フィレンツオーラによると、「髪の毛にふさわしい色彩はブロンドであることは言うまでもなく」、完璧な美しさを備えた理想の女性の髪とは次のようなものでなければならなかった。
「たおやかなブロンド髪、それもあるときは黄金や蜂蜜のような、またあるときは明るく照った太陽の光線のような、長く豊かな巻き毛の髪」
「金髪で細くきちんとした巻き毛で、豊かで長く手入れのゆきとどいた輝くような髪」
美の基準は時と場所で変化しうるのに、ホメロスの時代から二千年以上たっても金髪は依然として特権的な地位を保っているのだ。
男性の場合でも金髪は美男の一条件だったようで、16世紀にイタリア北部で活躍した女流詩人のガスパラ・スタンパの詩からそれがうかがえる。
私の恋人がどんな人かを知りたいなら
優美で柔和な顔の男性を想像して。
歳は若いけど思慮深く聡明で
栄光と武勇の化身のよう。
金髪で胸はたくましく
とにかくすべてが完璧。
少し(ああ!)恋に冷淡なことをのぞけば。
金髪はヨーロッパではスウェーデンやフィンランドなど北部に多く、南欧のイタリアでは、19世紀に徴兵された兵士全体のおよそ8.2パーセントが金髪だったという統計があるらしい。割合が時代によって変わらないなら、約9割の人は昔も今も黒か、それに近い褐色である。実は子供の時に金色でも、思春期を迎える頃には濃い色に変わる。金髪のまま大人になる人は世界でも珍しく、地球の人口の2パーセントに満たないのだそうである。
絵画や文学で神々や「理想の女性」がいつも金髪で表現されるのは、古くからのイメージに加え、その希少性も多少は貢献しているのだろう。
金髪に生まれなかった大多数の女性は理想の美を求め、あるいは「美女の条件」のプレッシャーにさらされて、髪を染めたがった。そのために様々な染髪剤のレシピが考案された。
よくある方法では灰に熱湯をかけて抽出した
簡単なものでは白ワインのかすにオリーブオイルを混ぜて髪に塗り、陽にあてる。効果は確実で1回で金髪になり、キヅタの葉と灰で作った液は2ケ月も染髪効果が持続したという。
「女性を美しくするために最初に研究すべきは顔ではなく、第一に髪である。髪は最大の装飾品であり、より黄色く輝くほど美しい、と女性たちは考えているからである」
科学者で哲学者のジャンバティスタ・デッラ・ポルタは自著『自然魔術』でこう述べ、効果は高いが髪にはあまりよくなさそうな次の3種類の染髪法を紹介した。
【方法1】
白ワインのかすに蜂蜜を加えたものを髪に塗り、一晩放置する。クサノオウとアカネの根をつぶして油を加えて混ぜ、ヒメウイキョウの種、ツゲ材の削りくず、サフランを混ぜたものを髪に塗って24時間おき、キャベツの灰と大麦の灰汁で洗う。
【方法2】
蜂蜜から油を抽出すると金色の液ができあがる。それをスポンジに染み込ませて髪に塗る。頭皮には塗らないようにすること。
【方法3】
オークの木から灰を作り、煙草と、同量の空豆、大麦とコロハ(ハーブの一種)を入れる。さらにオレンジの皮、ユソウボク(常緑樹の一種)をこすったもの、サフランとカンゾウ(マメ科の多年草)を土製の壺に入れて3本の指が水に隠れるまで水を注ぎ、沸騰させる。この液で髪を洗い、陽で乾かし、石炭の上に硫黄をばらまいて髪を燻蒸する。燃やしている間に出てくる煙を頭にかけて布で頭髪を覆う。
髪染めには暑い夏が最適だった。先端に海綿をつけた専用の棒で、日差しの強い時間帯に液を髪にのばし、顔の日焼けを防ぐためにソラーレと呼ばれるつばだけの帽子をかぶり、何時間も日光にさらして脱色させる。
ヘアサロンに長時間いたことのある人には分かるように、髪を思い通りにするためだけに数時間も動かずただ座っているというのは想像以上にきつい。
ましてやイタリアの強烈な太陽の下である。バルコニーで暑さに耐えながら髪を日にあてるのは忍耐と体力を要する苦行だったにちがいない。
【挿絵】デッラ・ポルタ先生presents「金髪に染める方法」
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