槌頭

安良巻祐介

 

 槌頭つちあたまが出て、町内から人がいなくなってしまった。みんな逃げてしまったのだ。

 奴ときたら恐ろしい奴で、名前通りの物騒なその頭でとにかくやたらめったらに破壊の限りを尽くしていく。そんなものと関わり合いにはなりたくないから、行き遭う者はみんな目をそらす。すると槌頭の動きは激しくなって、いっそう被害が大きくなる。

 一度誰かが腹を割って槌頭と話してみたりすればいいのかもしれないけれども、じゃあ誰がやるのかという段になるとやっぱりみんな目をそらす。だから結局、槌頭のことは誰にも理解できないし、わからない。

 僕にしたって遠くから双眼鏡で、槌頭に壊されてぐちゃぐちゃになっていく僕たちの街を眺めるしかできない。

 家や学校や店が全部、原型のない瓦礫の山になって行くけれど、怒ったり腹を立てたり仕返しをしようという者は誰もいない。

 だってあれは、理解できないものだから。理解しようとしなかったものだから。言葉も交わせない、交わそうとしてこなかった、そんな存在だから。

 そんなものに対して、僕たちは、怒りや恨みを抱かない。抱けない。ずっと大昔の僕たちのご先祖が、そうだったように、目を背けるしかできない。

 だから、もしかしたら奴は、そんな頃のことを僕たちに思い出させるために来るのかもしれない。

 或いは、そんな意図さえどこにもなくて、ただ悲しいだけの、もうずっと哀しいだけの、何とか言う昔話に出て来るような、「鬼」というやつなのかもしれない。

 本当のところは、誰にも解らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

槌頭 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ