神への贈呈※グロ有

閑静な都市から約1時間の郊外に、周りの風景とは一線を画すような学園が在る。そこは古い歴史を持つ女子高で、全学年合わせても200人弱という、少人数の私立ミッションスクール。厳格な規律が存在し、週に一度は聖堂で聖母に礼拝を行う。


この学園のキリスト教解釈は独自のもので、15年に一度、神への贈呈と称し、大きな出来事が訪れる。しかし生徒にはその事は知られていない。何故ならその出来事は、一瞬のうちに始まり、そして一瞬のうちに終わるからである。そして、今年この日が、その日であった。


その日最後の授業を終えるチャイムが鳴り、帰りの会のHRまで時間が空く。この間女生徒達は教室で思い々の事をする。クラスメートと雑談に興じる者、本を読む者、仮眠と称し寝る者、様々である。この喧騒は、一日の学園生活から一時的に解放される前兆を意味していた。


そんな時間が終わりに近づき、HRを迎えようとしたその刹那、


学園の時間が止まった。


そして一瞬とたたぬ内に、再び動き出した。



3年C組の結城尚美は、この一瞬の出来事、そして窓の外に突如あがる火柱に違和感を感じ、ふと辺りを見回して驚愕した。


今の今まで楽しくお喋りをしていた友人が、皆血を流して倒れだしたのだ。よく見てみると、彼女のクラスメート全員がそうであった。


しかもそれだけでなく、出血元を見てみると、頭部が軒並みなくなっている。


この凄惨な状況に口を覆う尚美。頭部を失った身体の数々、不動で床に伏す者、頸の断面から血を噴き出し痙攣する者、痛みに耐えかねたのかのた打ち回り暴れる者、それらを彼女は一度に見てしまった。


腰が抜け、その場に座り込むしか無かった。夢である事を願いたかったが、そうしている間にも、机や黒板、壁等に鮮血が吹き付けられる。


脳が思考を放棄しようとしたその時、一人の教師が教室に入って来た。


「…そう、今回は貴女が残ったのね。」


彼女は3年C組のクラス担任であり、化学教諭の松田リザ。その茶髪を揺らし、赤く染まった教室に一人佇む尚美に近寄り、こう言う。


「…まだ混乱しているわね。無理ないわ、私もそうだったし。ではちょっと一旦落ち着きましょう。」


そして白衣のポケットから薬品を取り出したかと思えば、それを、半開きの生徒の口に流し込んだ。


目が覚めると、尚美は別室に移されていた。ゆっくり起き上がるも、心臓の鼓動をどうしても抑える事が出来ない。扉に目をやると、外で見なれた顔の教師達が次々と女生徒の死体を運んでいるのが見える。そしてそれはやはり、先程見た様に、頭部が失せている。ぐったりと運び手に身をまかせているものもあれば、細かに震えるものまで多様である。


夢では無かったと、希望を打ち砕かれた落胆と恐怖を感じていると、先程現れた担任がまた近寄って来る。


「…おはよう。落ち着いたかしら?」


「…ぇ…ぁ…」


頭の中で何も追いつかず、言葉を発する事が出来ない。


それをさも当然の様に見抜いたリザ。


「まあ、そうなるのも当然ね。お友達が一瞬で、しかも全員亡くなったんですものね。」


「…でも、学園にとっては重大なお祭りだし、また学園の存続の為にも必要なの。」


「…ぇ」


「神への贈呈というんだけどね、学園創立以来、学園内全生徒の命を神様のもとへ捧げるお祭りなの。」


「昔、この地には迫害を逃れた多くのキリシタンが住んでいて…まぁ、今言っても解らないわね、もう少し時が経ったら詳しく教えてあげる。とにかく、この学園から15年に一度、全校生徒を神様に仕える者たちとして送り出すという約束が結ばれているわけ。」


「でもそれじゃあ流石に学校として成り立たないから、毎回一人は残すようにしてもらっているの。」


「はぁ…」


淡々と話すリザ、それを聞く尚美。


多分こうなった理由は分かったが、理解が出来ていなかった。


「そして、残った者にはね、将来ここで教鞭を執り、神様に捧げる命を育てる義務があるの。」


「はぁ…」


「…かわいそうに、きょとんとしているわ。まぁ誰でもそういうものよね。」


リザは事態についていけない尚美の手をとる。


「立てる?」


「…ぇぇ…」


この間もリザは淡々と語る。この学園、そしてその生徒にとって、この大がかりな祭りに神への従者として選ばれる事は光栄だという。あの凄惨な光景によって疑念を覚えつつ、常日頃から教師達の口にしていた事を思い出しながら、尚美の頭は次第に冴えていった。ふと先程火柱のあった所を覗き見る。そこには焦げた地面、その上に炭と化した、頭蓋骨の形をしたものが無数に積み重なっていた。


そして連れられた聖堂。常より訪れる所、そこには常にあった席など無く、ただその代わりに、たった数分前まで彼女と同じように、この学園の生徒として過ごしていた生徒の亡骸が横たわっている。


その数は無数。皆、自分の身に何が起こったか分からぬまま『神に仕える事を強いられた』者達。その大半はまるで自身に降りかかった運命を受け入れられぬという風に震えている。


尚美はただ傍観していた。亡骸の周りには教師一同が突っ立っている。


そこへ、この学園の専属牧師、リチャード・パウエル池田Ⅱ世がやってきた。


「今回の送人は彼女ですか?」


「えぇ、3年C組の結城尚美です。」


リザが即答する。


「そうですか。では松田先生、今回の贈呈に際して、送式の手順は…?」


「まだですわ、牧師様、何しろ随分動転していたもので…」


「…そうですか。まぁいいですが、あまり刻を遅らせては神もお怒りになる。ここで御説明を…」


松田は礼をし、横たわる生徒を凝視する尚美を遮る。


「…さて、これから貴女に、送り出す者としてやっていただく事なのだけれど…」


リザが、神への贈呈に関する儀礼を語り出す。


「さっき言った様に、ここにいる生徒達は皆、これから神様の許へと旅立つの。それを見送ってあげるのが貴女の役目。まず、聖水で口を清めてから、生徒の足に口づけをするの。神に仕える者達の下で現世に留まるのだから、この学園に於いては、人体の最も下に位置する足に口を付ける事で、彼女達に忠誠を誓う事を意味する。だから、秒数はどうあれ手を抜いては駄目よ。そして、心を込めて十字を切りなさい。これを全員にやる事。いい?」


尚美は熟考した後、承諾した。


まず初めに、パウエルから聖杯を貰い、その水で口を清める。


そして改めて、送人として女生徒達を見る。仰向けに横たえられた首無しの死体、その中には尚美の友達も少なからずいる。その死体は胸の前で両手指を組み、所謂祈りの姿をとっている。


パウエルが祈りの言を捧げ、リザ含む教師陣が見守る中、尚美は最初の女生徒の足下に跪く。最初に見た光景とは裏腹に、あるべきであろう血は殆ど拭われている。端正な出で立ちで、肌も透き通っている。ただ一つ異端なのは、首から上が無い事。唯一のアイデンティティともいえる顔が失せた事で、それは半ば非現実的に思われた。


制服に名札が置いてある。彼女は2年A組の三井亜貴奈だった。優しい眼で見、これから接吻をする予定の足に触れる。制服である白いハイソックスに包まれた彼女の足は温かい、そしてそこから僅かながらに振動を感じる。


上履きを脱がす。爪先まで露わになった足は最期の抵抗とばかりに痙攣している。そして口づけをしようと、その足裏を鑑み、顔を近付けた。


その刹那、尚美の鼻に、何か異臭が舞い込んだ。


一瞬怪訝な顔を浮かべるも、その正体を尚美はすぐに察知した。それは亜貴奈の足の匂いであった。一日靴を履いていた足では、この匂いはどうやっても防ぎようがない。初夏の日差しが舞い込む季節とあっては尚更である。そんな生活に、彼女の足は蒸れていた。


日頃であれば躊躇われる匂いである。しかし、尚美はその匂いを避けようとしなかった。頭部が失せても震える足指を含め、こんな姿になっても尚残るただ一つの生の証を感じ取れるのが、彼女にとっては喜びだった。


尚美は亜貴奈の足の匂いを、気の済むまで嗅ぎ、そして接吻をした。


そして足を静かに置き、十字を切り、亜貴奈を神の許へ送り出した。


二人目は、3年B組の加藤美紗。すらりとした下肢から伸びる彼女の足裏は、一見汚れていない様に見えたが、そこからは先程と同様の匂いが放たれる。尚美は同様に足の匂いを嗅ぎ、そして口づけをし、神へ送った。


3人目は3年C組の秦浦安子。尚美のクラスメートであるが絡みはあまり無かった。彼女の足の匂いは少し濃厚で、先の二人よりは若干長く嗅いでいられた。


そして続く他の生徒にも、尚美は同じ事をした。嗅いでいる内に、尚美の中でなにか特別な感情が湧き起こる。仮にも同性、しかも相手は首無しの骸。だが尚美は、リザから言われた忠誠より、死して尚残る生を吸い込む事で、彼女達を送る儀礼としていた。


そして何人目になったか、1年A組の園崎優の番。彼女はこれまで接してきた者達の中で一番痙攣していた。尚美の目の前で踊る足裏。運動もしているらしく、足裏を認識した途端に濃厚な匂いが漂う。


その匂いが愛おしく、鼻を付けて嗅ぐと、また更に蒸れた匂いが入り込む。顔をなでる足指が心地よく、半ば恍惚とする。


ふと見ると、スカートの中から見えるパンツ。それは失禁の小水で濡れていた。そういえば、他の何人かも、同じように濡れていた事を思い出す。そしてそれに包まれ、震える性器が気になってつついてみたら、性器から小水を噴き出した。尚美は驚いた。手を見てみると、そこには白濁の液が付いていた。優の身体は一層痙攣を増していた、それは女が快楽に狂った時の様なものであった。


白濁液が付着した手を眺めていると、不意に横からタオルが差し出される。パウエルだった。そして静かな喝。


「先程も言った様に、これは尊い者達の魂を神の御手に捧げる儀式です。器と言えど弄ぶ事はなりません。」


我に返った尚美はタオルで手を拭いつつ、小さく頷いた。そして快楽に溺れる足裏に口づけをする。相変わらず放たれるこの匂いが尚美は気に入った、もう離れてしまうとは名残惜しいが、まだ他にもそうすべき者は沢山いる。


次の、3年A組の村本麻理子の足裏に手を出す。足指を少し折り曲げており、そのまま固まっていた。


(…ここを嗅いで欲しいのね。)尚美はそこに鼻を入れ、吸い込む。


彼女の足の匂いはやや控えめだった。しかし、中々どうして品が良くも感じられる。温かく包まれた鼻でそれを吸い込み、そして口づけをする。


今更ながら考えた、突然訳の解らぬまま殺され、しかもその肉体をこのような風にされている。足裏など見られるのも恥ずかしい筈だ、それにキス、果ては匂いを嗅がれるなど、彼女達は何と思うだろう。思った所でもうそれを伝える術は無い。そもそもそれを伝える頭部が無い。


愚問だったかと、尚美はまた儀式に戻る。


そうして尚美は100人余の女生徒達を送り出した。それは、その数だけの生の証を鼻で受け止めた事も意味する。それぞれの足の匂い、各々がそれぞれの人生を歩んできた事を意味する匂いを、尚美はもうあと90人分受け止める事になる。


教師達の見守る中、続行する尚美。


2年B組の中野友菜は、他より汚れた上履きに入っていたせいでその足裏からは濃い汗の匂い。


1年A組の森美智枝は、その発展途上の身体を震わせ、足から幾分控えめな匂いを発した。


3年A組の松下蓉子は、バレーボール部部長、その名に違わぬ濃厚な匂い。


1年C組の長谷川紅羅の足裏は少し汚れていた。そこからやや強めの匂い。


3年C組の秋藤まどかは大人し目のクラスメートだった。足指で鼻を撫で、匂いを尚美に送る。


その内、終盤に差し掛かる。


最後の一人。


そこでやっと出会った。


3年C組の井野雅美。彼女の一番の友達である。


首なしの親友を見て今一度、この神への贈呈の理不尽さを思う。雅美の身体は他のどの生徒より痙攣していた。


この少女を、今まで苦楽を共にした友達を、今から天国に送り出さなければならない。


(うん、痛いよね…)少々の憐みを感じつつ、尚美は上履きを脱がす。


彼女の肌は綺麗だった。白い靴下に包まれた足が眼前で踊る。その姿が一層愛おしくて愛でた。そして足裏を目に映す。


途端に漂う微かな匂い。今更これを拒否する理由は無かった。痙攣する足裏に、尚美は鼻を付けて嗅いだ。


その匂いは他のよりも濃厚で甘美なものだった。最もよく知る人物というのも相まって、尚美に絡みつく。足指の痙攣によって、更に匂いの度合が増す。それらを一切逃がす事無く、尚美は丁寧に嗅いだ。


時には二人で過ごした日々を思い出しながら、テスト前にどうしても思い出せない公式の事で泣きついて来た時、自販機の下に100円玉を落として泣いた時、二人だけで遠出した時、それら全てが尚美の中に詰まっていく。


これが終わったら永訣になる。足を嗅ぎながら涙が一筋零れる。雅美も雅美で離れたくなかった様で、あの手この手で、自らの生の証を尚美の鼻に擦り込んでいる。


陽はとっくに落ちている。どれくらいこうしていたか、これを送り出すのには一番時間を要したかもしれない。


痙攣も静かになった頃、尚美の目にまたも涙。悲しく無い様に装う程流れてくる。


(…ずっと忘れないよ)と唱え、あれだけ嗅いだ足裏に口づけをする。


やはり長かった。出来れば一生離れたくなかった。知らずに知らぬ世界へ行ってしまう者への、せめてもの手向け、仄かに口から入り鼻に抜ける匂い、尚美にとって全て意味を孕んでいた。


全員終わった。思えば何人の足に口を付けたか。それらは皆もう神に会えたのだろうか。後ろからリザの声が聞こえる。


「結城さん、お疲れ様。女生徒は全て旅立つ事が出来たわ。」


それを聞いて内心嬉しかった尚美。手にはまだ友人の足を抱えている。所々で拍手の音がする。また今一度涙。


尚美は立ち上がった。そして横たわる死体を一瞥した。皆数時間前まで生きていた、その証が尚美の体内に収められている。彼女は笑った。


贈呈の送人は、将来この学園で教鞭を執り、また次の贈呈に一番に立ち会う義務が在る。尚美はその後名門大に特待で入り、教育を受けてまた戻ってきた。


そして数年後、一瞬だけ止まった時間と外であがる火柱に違和感を覚えた2年A組の松坂百恵が、周囲の凄惨な光景を見て呆然としていると、外から世界史教諭の結城尚美が姿を現す。


「今回は貴女ですね。」

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足フェチ小説集[オリジナル] たなか @tanakanovelist

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