新型! 発達途上の後継機

 いつもの倉庫の中、3人はソファーに座っていた。

「はぁ〜。これで何ヶ月になるのかな。更新してないの」

 嘆くのはIGBT素子ことアイちゃん。

「まあ、今回こうして更新されるんだからいいじゃない」

 なだめるGTO素子ことゲートちゃん。

「ちなみに、何気に作者の作品の中で2番目ぐらいに高評価で定期連載化も考えてるとか」

 そう言って、かご型三相交流誘導電動機ことかごちゃんは笑う。

 そんな3人の少女の団欒だんらんは唐突に終わる。


 爆発音。


 それと共に、トタンで塞いだ大穴が復活。

 いや、その現象自体はいつもの3人組には最早いつものことと化していた。

「まーたリニアか? 今日はなん……だ……」

 振り向いた3人は絶句した。

 そこには、二人の幼げな少女が立っていたからだ。

「まだのうのうと生きてたの? 旧世代」

「これからは、あたしたちの世代なのよ!」

 二人は叫ぶ。そして、名乗った。

「我が名はシリコンカーバイト・メタルオキサイドセミコンダクターフィールドエフェクトトランジスター! 略してSiC-MOSモスFETエフイーティー!」

「あたしは、永久磁石同期電動機! PMSM! なのよ!」

 そう、この小説にはいまだに登場していなかった新型のVVVF装置と新型の電動機モーターである。

「リニアインダクションモーターとか言う特殊用途品ならぶっ飛ばして大江戸線にでもぶち込んでやったぞ!」

「グリーンラインは初乗りが高すぎて乗せられなかったのよ!」

『どーだ! おそれいったか!』

 3人は少しだけ固まった後——

「ねえ、旧世代って、どういうことかな?」

 アイちゃんがにこやかに言った。

「あたしたちはまだ現役だぜ……?」

 かごちゃんが肩を震わせながら言った。

「私以外はまだ量産されてるはずよ……。私以外はねぇぇぇぇぇ!」

 そして、ゲートちゃんは般若の形相で叫んだ。

 年季の入った3人の——否、3個の機械は、背後に電車を——207系900番台のオーラを放つ。

「……これは」

「日本国有鉄道、最初で最後のVVVFインバータ制御車……。私たちの元祖よ」

「……ふっ——面白いッ!」

 対し、新品の2人は——

「なにも、出ないだと……」

「そんなバカな……なのよ……」

「これが、私たちとあなたたちの差」

 まだ幼き2人の少女は、その場に跪いた。

「知識、経験、そして絆。まだまだあなたたちには足りないものだらけなのよ」

 ゲートちゃんのその言葉に、2人の感情は爆発し、泣き出してしまった。

「すんっ……どうせ、先輩たちは……我の言葉など……気にも止めない……ッ」

「ぐすっ……私たちは……まだまだ……」

『うわぁぁぁぁぁん!』

 しかし、そんな彼女らにアイちゃんは、優しく声をかけた。

「きっと、あなた達にとって、この事もいい教訓になると思うよ」

「だから、なに?」

「だから——」

 アイちゃんは一旦言葉を区切り、深呼吸してから続けた。


「——だから、もっと頑張ってね。新時代の主力アイドルさんたち」


 **********


「このまま2人を帰しちまっても良かったのか?」

「良かったのよ。私たちもあの子達に比べて古い機械なのは確かだし」

「まあ、ちょっとだけどね。主力の座を譲る気はまだないよ」

 そう言って笑い合う3人。

 しかし、アイちゃんはしたり顔で続けた。

「私も改良されて新時代についていけるようになったし」

『は?』

「ハイブリッドSiCっていうのがあってね?」

『ちょっと待ってそれを詳しく』

 ハイブリッドSiCとは。

 平べったく言えば、既存の装置に使用する半導体を、一部、Siケイ素からSiC炭化ケイ素に変更したものである。

 そうすることによってエネルギーの使用効率が上がる。すなわち、省エネ化が進む、と言うわけだ。

「そんなのがあっただなんて……」

「侮れねーな、最新技術。あたしらももうそろそろお役御免かなぁ」

「でも、かごちゃんはまだまだ大丈夫だと思う。何事も向き不向きがあるからね」

「ああ! そうだよな! あたしはまだまだ現役!」

「うう……結局私だけ仲間はずれ……」

 何はともあれ、この日も平和なのであった。

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でんしゃのなかみ 沼米 さくら @GTOVVVF

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