第3話
僕の三歩先を行く彼女は、はたと歩みを止めた。何かを思い出そうとしている様子だ。
「最後の日、私たちは何をしたんだっけ」
「僕は最後だって知らなかった」
「そう?」
「最後にするかどうかは君次第だった」
「そうだったかな。」
彼女は考え込む。だってそうだろう。僕には僕の舞台を終わらせる義務がある。辞めることもできたが、その選択は一瞬たりとも頭をかすめたことがなかった。
「話は変わるけど」
唐突に距離を詰める彼女。たじろぎながら、僕は続きを促す。
「あなたは主人公でしょう?あなたにしかできないことがあるの。」
変なことを言いだすなぁ。僕は再び歩き出そうとする。
「どうかな、僕にとってはそうだけど。それが君の役に立つのかはわからないよ。」
微笑む彼女を視界の端に確認して、ふと不安を覚える。今目の前にいるこのうさぎは、文字通り姿形はうさぎであるものの、人間らしい振る舞いをする限りなく人間に近い存在だった。果たして、彼女は僕が知っているあのひとなのか?歩き始めたのは僕なのに、今度は僕が歩みを止めそうだった。
「あなたはわかってないだけ。あなたがどれだけ世間から逸脱しているのかを。」
「それは君の方が」
「でも、それでこそなんだ。気付くのはもっと先でいいの。今は、ただ、助けてくれない?」
わからない。本気で彼女の言った言葉の意味がわからなかった。
いつも通り、いや、記憶通りの彼女を見つめながら、僕が助けることができることについて考えた。そんなものはない。僕は人間で、彼女はうさぎだ。うさぎのいざこざになんか僕を巻き込んだところで解決するわけがなかった。
「とりあえず話だけ聞くよ。まずはここがどこだか教えてもらってもいい?」
Stay 柊花 @idoitknit
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