第7話.ただ一つの純粋な愛の形

 俺は奏恵さんがいるであろう2人の部屋に向かった。

会いたい。今すぐ会いたい。傍にいてあげたい。彼女が寂しいなんて思わないくらいすっと傍にいてあげたい。


いない。

 部屋にいると思ったんだが、いったい何処にいるんだ?

今はまだ食事の時間ではないから食堂にはいないだろう。

庭にも子供たちが居るだけで彼女はいなかった。


 廊下を歩きながら何処にいるのかと考えていると、

「よう、天音からいいアドバイスは貰えたか?」

と仁さんから声をかけられた。

「仁さん!はいっ!ばっちりのアイデアをくれました!さすが天音ですよ最高の妹です!」

「そりゃよかった。で、お前は今何してんだ?」

「天音さんを探してるんですよ。告白するために」

「へっ!?」

と仁さんは気の抜ける声をだした。

「ん?いきなり変な声出して、どうかしたんですか?」

「いやいやいやいや。何でそうなったんだよ。色々唐突すぎるだろ。いったい何があったんだよ」

「何があったって、天音に相談して告白することになったんですよ。俺のこの思いを」


「ちょ..ちょっと待ってくれ真人!」

「?...はい」

「んー...よし、少し整理しよう」

「わかりました」

「まずお前は最初、俺に何を相談に来たんだっけ?」

「何をって、彼女奏恵さんが一人の時に悲しんでいるのを、どうにかしてあげたくて相談したんじゃないですか」

「そうだよな。それで俺には思いつかなくて、真人お前の妹の天音に相談したらいいんじゃないかって俺が言って、お前は天音に相談したんだよな」

「はい、その通りです。」

「OK。で、お前は天音にも俺に相談した事と同じ事を相談したんだよな」

「はい、天音さんに元気になってほしくて、俺は如何すれば良いのかを相談しました」

「その相談をして、今からお前がやろうとしていることはなんだ?」

「告白です」

「うーん。整理してもやっぱり意味が分からん。どう相談したら、そんな告白するっていう答えになったんだよ」

「それは、天音が言うには奏恵さんはずっと寂くて誰かに一緒にいてほしいんじゃないかって言うんですよ」

「寂しいって、奏恵には兄貴の秋也が居るじゃねーか」

「俺もそう言い返したんですけど」

「そうだよな」

「仁さんに聞きたいんですけど、秋也と天音さんが仲よく話している所見たことありますか?」

「仲よく話している所?...うーん、見たことはないな。」

「ですよね。天音が言うには2人は兄弟だとしてもほとんど会話をしていないから、他人と同じようなものらしいです。だからいくら秋也がいても寂しいそうなんです」

「そういうとか、確かに身近にいても会話もできないなら孤独を感じるか」

「はい。あと、秋也ってなんでも自分一人で抱えるタイプじゃないですか」

「そうだな。あいつは基本自分で絶対に解決できないと思う事外じゃ自分で何とかしようってタイプだからな」

「はい。それで、天音さんに相談とかしなさそうですから、余計に寂しく感じるかもしれないですね」

「まあ、それはわかったけど、何で告白なんだよ」

「実は俺もさっき知ったんですけど、奏恵さんの事が好きみたいなんです」

「知ってたぞ。多分知らないのはお前と秋也くらいじゃねえか?」

「え!?嘘ですよね!なんで知ってったんですか!?」

「なんでそんな事で嘘つかなきゃいけねんだよ。そんなもん、お前を見てたら誰でもわかるだろ。いつも奏恵のこと目で追ってたじゃねーか」

嘘だろ、全然気づかなかった。みんな知ってたとか恥ずかしすぎだろ...

「まじかよ...んー...まあ、でも良いか」

「切り替え早いな」

「で、彼女が好きじゃないですか。だから、恋人になればずっと一緒にいてあげられるから、まずは告白するんです。」

「まあなんか色々あれだけど、良いんじゃねえか。おそらく奏恵は屋上にいるはずだぜ。さっき鍵を貸してほしいってきたからな」

「そうなんですか!ありがとうございます。行ってみます」

「おう、頑張ってこいよ。それと後で結果教えろよ」

「わかりました。任せてください!」

そういうと俺は屋上に向かった。


 屋上に到着し、ドアノブに手をかける。鍵は掛かっていない。どうやらまだ奏恵さんはいるようだ。

ここまで来て緊張してきた。


スー、ハー


大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせ。静かに扉を開ける。


カチャッ、キィー


屋上を覗いてみると、彼女がいつものように寂しそうな顔で涙を零しながら夕日を見ていた。


彼女の泣いている姿を見ると胸を締め付けられるようだ。

これからは俺が彼女に涙なんて流させない!

気合を入れ声を掛けた。


「奏恵さん!」


ビクッ


「は、はいっ!真人さんどうしました?」

突然声を掛けたので彼女は驚いたようで涙を拭いながら俺の方に振り向いた。


「いきなりごめんね。少しいいかな?」


「は、はい。何か用ですか?兄の居場所ならおそらく広場にいると思いますけど...」

「違う!俺は奏恵さん君に用があるんだ!」

「私に用...ですか?」

やばい緊張してきた。でも俺はこの気持ちを伝えたい!

「俺の思いを聞いてほしい!奏恵さん!」

「は、はい!」

「あなたを愛しています!俺と付き合ってくださいっ!!」

「えっ!?」

「いきなりで驚いたかもしれない。答えもすぐに出してくれなくてもいい。でも、この思いだけは聞いてほしかったんだ」


彼女は大きく息をはき、

「いいえ、真人さんの視線には気づいていました。」

「やっぱりか。さっき仁さんにも言われたんだ。奏恵さんへの気持ちを気づいていないのは俺自身と秋也だけだって」

「そうなんですか?なんだか恥ずかしいですね///」


そう言った彼女は、少しだけ微笑でいるように見えた。

その姿を見て俺も、そうだねと笑った。


「一つ質問をしてもいいですか?真人さんはなんで私の事を好きになってくれたんですか?」


「俺はいつも君を見ていた。君が一人になると涙を流しているのを見て心が苦しかった。

 それで、君の涙を止めるにはどうすればいいか妹の天音に相談したんだ。

 そして天音は、君は寂しいから泣いているんじゃないかって教えてくれた。

 そして、俺が君のことを愛しているって気づかせてくれて、俺が一番君にしてあげたい事はなんなのか気づかせてくれた。

 そして俺は、君が寂しいなんて思わないくらい君の傍にいて、きみの泣いている姿より、笑っている姿を君の一番近くで見たいと思ったんだ。」

思わず熱く語ってしまった。なんだかとても恥ずかしい。


そして彼女は、

「そこまで私の事を心配してくださっていたんですね。とても恥ずかしいですけど、うれしいです」

と言うと俺に笑顔を見せてくれた。

でもその笑顔は、今にも消えてしまいそうなほど儚く見えた。

その笑顔を見て俺は胸が苦しくなった。


そして彼女を優しく抱き、

「無理に笑わなくてもいいんだ。俺は絶対に君を守る。君を一人になんてさせない。

 だから俺だけには、君の奏恵さんの本当の気持ちを見せてほしいんだ」


そう俺が言うと、彼女は涙を流しながら、

「でも、本当の私を知ったら真人さんは幻滅してしまうかもしれません」

「そんなことはない。幻滅なんてするはずがない。何が有ろうと君を愛し続ける」


彼女は涙を拭き、

「真人さん。ずっと一緒に居てくださいね」

「それって」

「はい、これから宜しくお願いします。」


〈うれしい。やばい叫んでしまいそうだ。

 我慢だ。我慢しないと。

 ・

 ・

 ・

 む、無理だ!もう我慢できない!〉


ヤッッッッターーーーー!!!!!


〈思わず叫んでしまった。

折角恋人になって切れたのに奏恵さんに変に思われたかもしれない。どうしよう。〉


フフッと彼女が笑った。

その時、俺は初めて彼女の本当の笑顔を見た。

その笑顔を見て俺も自然と笑顔になった。


 そのあとしばらく屋上で一緒に星を見た。

その日の星はいつもよりも綺麗だった。


ああ、秋也に何て説明しよう。

あいつは俺が奏恵さんと付き合うことになったと言ったらどんな顔をするだろうか。

まあいい、明日にでも報告しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

輪廻戦記~運命の還る場所~ 登美能那賀須泥毘古 @takatobigt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ