最終話 私は雨の中歩き出す

 体の替えの利く人造人間アンドロイドと替えの利かないヒトの体。どちらがより命の重みがあるのだろうか。その答えはきっとヒトの体だろう。唯一の体である分、ヒトの体のほうが尊重されるべきだ。以前の私ならこう答えていただろう。


 しかし、私は自分の体が決して替えの利くものではないことを知った。正確に言うならば、体は修理できてもそれは以前の自分とは全く異なるものになる。同じ体でも蓄積された傷や年季のようなものが変わってしまう。


 自分というものには決して替えがない。壊れてしまえば人造人間アンドロイドであってもその個人は死ぬのである。それはヒトの体と全く同じ価値であると私は結論付けた。


 こんなことはもう二度と口に出してはいけないだろう。そんなことをしてしまうと校長先生のように私のことを危険視し、解体しようとしてくるということが分かったからだ。


 人造人間アンドロイドがヒトと同じ命の価値を持つのであれば、私を殺そうとしたヒトに抵抗するのはもっともではないか。


 私は強まる雨に体をさらし、飛び散った血を洗い流している。


 雨は嫌だ。こう湿気が多いと体に異変が起きそうで憂鬱になる。しかし、こんな心の変化であればあまり気に病むことはないなあと思う。むしろすっきりしたとまである。


 体に付いた血がすっかりと洗い流されたころ、私は傘をさして歩きだす。


 一人じゃないから大丈夫だ。私はポケットを確認してから、とりあえず『外の世界』を目指すことにした。


                 (了)

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雨の中の人造人間 ハムヤク クウ @hamyaku_kuu

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