第5話 識別コード『G49KR4T』

「やあ、君の昨日の行動ログ、そして昨日からの思考回路、記憶を見させてもらった。なんだか、腑に落ちないと悩んでいるようだね」


 校長先生は私のことをすべてお見通しなようだ。


 ちなみに校長先生とは私たち人造人間アンドロイドの製造、管理の責任を一手に任された研究者のことで、ここにいる校長はまだ二十代の若者である。


「そう……ですね。私たちとヒトは何が違うのか。その答えが頭では分かっているんですが、心にすとんと落ちてこないというか」

「違うも何も、君たちは体の替えが利く。事故を起こしても君たち人造人間アンドロイドは直すことができるけど、ヒトの欠損した箇所は戻らない。ここにいる識別コード『G49KR4T』を見てみなさい。ちゃんと元通りになっているだろう?」


 彼の言った識別コード『G49KR4T』は田中いろはのことである。名前で呼んでいるのは私たち人造人間アンドロイドの間だけで、ヒトからはコードで呼ばれるのが普通だ。


 私はそんな認識コード『G49KR4T』、通称田中いろはをまじまじと見てみる。


 体格、顔のパーツ、細かな肌の感じ。すべて元通りだ。特に彼女の青緑色の瞳がちゃんと付いている。


 それなのに、なんだか目の前にいるこの人造人間アンドロイドをいろはだとは感じられない。瞳にエメラルドのような輝きが前ほど感じられないのだ。これなら私のポケットに入っているもののほうがよっぽどいろはであると感じられる。


 色が微妙に違うのか、それとも全く一緒だが私の感じ方が変わったのか。とにかく片目ではあるが前とは違う瞳を持ったコレを田中いろはであるとは感じられない。


 私はポケットのものをギュッと握りしめた。もう田中いろはは戻ってこない。私は急に壊れることが怖くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る