第4話 雨脚が強まる

 私は昨日より強い雨脚あまあしの中、急ぎ気味で学校へ向かう。すると途中、例のT字路を銀色の車がスピードを落とさずにかっ飛ばしているのを目撃した。


 昨日見た映像と照らし合わせる。いろはと事故った車だ。もうへこんだ車体が直っている。


 人造人間アンドロイドが製造されるようになった現代、車はほとんどが自動運転の車になり、みな専用の道路を走っている。こんな通学路のような狭いところを通るはずがない。


 きっと車の運転手である男は古い車が好みなのだろう。いわゆるアンティーク趣味というやつだ。好きな道を好きなようにかっ飛ばすのは勝手だが、他人を巻き込むのはいささかどうなのだろうかなどと思う。


 そういえば、その男の左肩にドクロのタトゥーが彫ってあったのを思い出した。そんなもの今では全く流行っていない。


 どうして唯一の体であるはずなのに自ら傷つけるのだろうか。替えの利く私たち人造人間アンドロイドよりも尊い肉体であるはずなのに、それを傷つけて楽しんでいる。もうなんだか分からなくなってきた。


◆◆◆


 昨日と違って学校には遅刻しなかったので、始業には間に合った。


 私は教室を見渡してみたが、いろはの姿がない。一日もあればあれくらいの故障治せそうなものだが、案外と時間がかかっているのだろう。確かに車のへこみを直すよりは時間がかかりそうだ。


「いろは、学校に来てないな」

「修理ついでに向こうで点検でもしてもらってるんじゃない?」


 ああ、だから遅れているのか。私たちが一時限目に行った思考回路の点検を修理工場で行ったのかもしれない。じゃあもうすぐ戻ってくるか。


 そんなことを想いながら、私はポケットのものをまさぐった。


「そういえば先生から呼び出しされてたよ?」

「ん? なんだろう?」


 何か先生に呼び出されるようなことをしただろうか。私は時雨に教えてもらった通り校長室へ向かった。


 真っ白な扉の横。認証システムに手を合わせ、いく万もの認証コードを入力してゆく。最後のコードを入力し終えると、ピッという音とともに無機質に扉が開いた。


 扉の奥には校長先生。そして横には田中いろはが立っている。


 どうしていろはがここにいるのだろう。私はよく分からなかったがとりあえず部屋の中に入った。

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