なぜ前に聞かなかったのか? 13

 ここは3棟の一番端にある木工室。その辺から拾ってきた厚紙に下書きをする。鉛筆も木工室にあったものを拝借している。一応増田教頭先生には許可をもらっておいた。

「ねえ、明日からずっと休みってホント?」

「分かんないよ。今日だって休みとか言ってたのにあったじゃん」

「前も休みって言われたのに来なくて結局怒られたことあったよ。自主練くらいしろよとか」

「明日も来たほうがいいんじゃない?」

 走ってくる生徒の人数を数える。8人。また走ってくるのがいた。内線で連絡を入れる。

 木工室にいる理由は本来はポストをつくるためではない。万が一帰宅していないバスケ部を見かけたら連絡を入れるよう指示されているのだ。

 冬樹先輩はこう助言した。家に帰ったら学校に電話を入れるようにしてもらったほうがいいですよ、と。おそらく彼の目論見は的中した。体育館の周りを走り込みしている部員がかれこれ10人はいた。きっとまだ校舎内にうろついている部員がかなりいるはずだ。

 研究部はバスケ部員らしき生徒を見かけたら近くの内線から職員室へ連絡する。職員室に待機している先生が家からかけてきた部員からの電話番と、研究部の電話待ちだ。

”お伝えします。校内にいるバスケットボール部、今すぐ自宅へ帰りなさい”

 あまりに多かったのか校内放送がかかる。ちょっとちょっとやばいって、と焦った声が聞こえた。

 彼らの会話をまとめると、休みと伝えられたはずの日でも練習があったりする、ということだ。先生が休みと言っても自主練しに来て誠意を見せろ、とか休みでも先輩が来いと言うから結局みんなで練習していた、とか。そんなことが積み重なれば信用しなくなるのは当たり前だろう。一体この部はどこまでねじ曲がっているんだ?

 心の中で毒づいても、ぐっとこらえた。バスケ部と対面しないように、こういう方式にしたのだろうから。

 下書きの通りに文字だけは入れてしまう。後で色を塗ってもらったりして見栄えをよくしてもらおう。俺はその手のセンスは壊滅的にない。

「何作ってんだ?」

 篤志が後ろから覗き込んできた。

「プレート。相談者の方から来てもらうこともあるだろうから」

 篤志に厚紙を渡す。

「これどうするの?」

「色塗ったり絵を描いたりして、この上の端っこに穴を開けて、スズランテープを通して持ち手っぽくする」

「活動中は講義室のとこのプレートにひっかけておくわけか」

 見張りの最中、ずっと窓の外を眺めていたら不審者になる。何かをするふりをして見張るよう言われたので、試しに作ってみたのだ。

「そしたら手紙入れるポストも買ってもらうか? 手紙を入れてもらって相談も受け付けられるようになるし、部活動後援会費も使わなきゃならないし」

「それもありだな」

「話は済んだし、校内放送のおかげでだいぶ駐輪場に駆け込んだらしいから撤収するか」

 篤志が来たのは撤収命令をかけに来たのか。鍵をかけて職員室に向かう。途中で卓球部の2年生たちとすれ違った。

「迎え頼めた?」

「うん」

 井ノ上先輩は肩をなでおろした。

「でもほんまに心配したで。高瀬君たちおらんかったらヨウ、1人で囲まれとったんだから」

「義堂、それマジ?」

「ちょっとマジ」

「ヨウに変な日本語教えたの誰?」

「絹ちゃん、怖いから」

 5人で他愛もない会話をしながら靴を履き替えている。

「もも子」

 ヨウ先輩が声をかける。

「やっぱり団体戦だけ、言われた」

 4人は立ち止まる。もしかして卓球界のホープなのに県大会に出場しなかったのは、スクールを優先させなければならなかったせいかもしれない。

「充分だよ。私たち一緒に練習してきた仲間なんだから」

 5人は連れ立って昇降口の階段を駆け下りていく。

 彼らを見送りながら、俺たちは階段を駆け上がっていった。

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なぜ前に聞かなかったのか? 平野真咲 @HiranoShinnsaku

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