新たなる目標(ご主人様/作者/創造主編)

「乾杯~」


 毛利さんの音頭で飲み会が始まる。

 なんと3度目のオフ会でもある。

 集まったのは、毛利Oh Guyこと森嶋タロウ、ハイシュウこと北田モリオ、成田ヤスハタこと川部のりたの3人だ。

 物書き仲間は全員で4人。だから本当は後1人――星野セレスこと筆山リコがいる。しかし高校生ということで遠慮してもらった。本人はお酒飲まないから参加したいと駄々をこねていたが、俺達が却下した。

 40代から20代の男4人に混ざる10代の女の子。

 本人は構わないだろうが、俺達は下手したら通報されるかもしれない。そう危惧して丁重に断った。

 因みに第2回オフ会も高校生はダメという理由で、星野セレスの参加を俺達は却下した。多分この先も彼女を混ぜてオフ会は出来ないだろう。

 物書きの性なのか、それと俺たちの性格なのか、酒が入るまで会話が弾むことがない俺達のオフ会。

 今回も沈黙の中、ちびちびと飲み続け、お酒が周り始めた40分後。

 過去の2回同様、酒に酔ったハイシュウが皆に質問し始め、賑やかになってきた。


「毛利さん。毛利さんは公募とかしないの?」


 ずかっとため口でハイシュウは質問する。

 彼は20歳くらいで、40歳くらいの毛利さんとは親子くらいの差だ。でもにこにこと笑顔を湛え、ため口だ。

 毛利さんが気にする様子がないので、俺も下手に突っ込みを入れられない。

 まあ、親しくないから。気にしなくてもいいんだろうとスルーして、毛利さんの話に聞き入る。

 公募なんて考えたことがないが、他の人の経験など聞いておいたら何かに役に立つかも知れない。


「公募かあ。昔はしてたなぁ。ここ10年、オンラインに作品を乗せるようになってしなくなったな」

「え、何で?」

「うーん。公募の意味がないというか、面倒臭いのかなあ。オンラインに乗せりゃ、誰か読んでくれる。感想とかも貰えるだろう?が、公募となりゃ違う。選考に残らなきゃ、評価もわからない。俺はやはり書いたからには評価や感想を貰いたいからなぁ」

「そうか。そう言われてみればそうですよね」


 うーんとハイシュウは唸る。


「そう言うハイシュウくんは公募してるのか?」


 毛利さんがそう切り返すとハイシュウは一瞬迷った後、頷いた。


「ほお。小説家を目指してるのか?」

「え、まあ」


 毛利さんの続けざまの質問に、酔いのせいではないだろう、ハイシュウは少し照れた様子で前髪を書き上げた。

 凄いなあ。

 小説家志望か。

 俺は一度も考えたことがない。

 大体俺の場合、書いてる理由も他の人と違うしな。

 るほーが夢に現れなきゃ、もうとっくに物書きなんかやめてたかもしれない。


「へぇ。ハイシュウは小説家を目指しているんだ」


 オレンジ色のカクテルを片手ににやにや笑いながら、声を上げたのは、もやしっこじゃなくて、成田ヤスハタだ。

 いつものようにアルコール度数少なめのカクテルを注文して、ちびちびと飲んでいた。

 彼はこの中じゃ1番、読まれている小説を書いている。読者の採点とブックマークからなるランキングで、たまに上位に食い込んでいる強者だ。

 公募とか考えてないのかな、1番小説家になる可能性が高いんだけど。


「公募なんてさ、無駄だよ。それよりもランキングにぐいぐい食い込んで、出版社に目を付けてもらうんだ。最近、ランキングに載ってる作品ががんがん書籍化してるじゃないか。俺はその方法をとるな。ちまちま1人で書いて、書きあげてから公募なんて、全然合理的じゃない」


 ――合理的?

 その使い方はあってるのか、そんなことを思いながら、俺はヤスハタを眺める。

 彼はふふんと自信たっぷりに笑い、再び口を開いた。


「後は、オンライン小説を登録するサイトもお勧めだ。登録して定期的に開催される賞に応募すればいいんだ。わざわざ書き下ろす必要もないし、サイトで人気が出れば書籍化される可能性が高い」


 ヤスハタは目を輝かせてそう語っていた。

 彼もやっぱり小説家を目指しているのか。

 そうだよな。

 ポイントとか俺の1000倍だし。目指してもおかしくない。


「まあ、ハイシュウくん。やり方はいろいろだ。成田くん。公募だって侮れないぞ。公募作品の方が大手出版社だから、本物の小説家になるなら、そちらのほうが近道だと思うぞ」

「本物?本物ってあるんですか?出版社に関係なく本を出せればもう小説家でしょ?」

「まあ。そうだけど」


 他人の意見があまり聞きたがらないらしい。

 ヤスハタは毛利さんの意見に不満そうな様子を見せる。


「ところで、ようまくんは公募とかしてないのか?小説家になる夢とかあるのか?」

「えっと、」


 自分にこの話題を振られるのは時間の問題だった。

 それなのに俺はどもってしまった。


「俺は、公募なんてしたことないですね。小説家になりたいと思ったこともないですし」


 俺は正直な気持ちを述べる。

 するとハイシュウとヤスハタが目を見開いて俺を見た。


「まじで?」

「そうなんだ?」


 俺の答えに2人は驚いていた。

 驚くことか?

 確かに小説書いてるなら、小説家になりたいからだと思うの普通かもしれないけど。

 俺の場合、特殊だからな。


「じゃあ、君の場合は完全に趣味なんだ」

「は……い」


 趣味と言うか脅迫されて書いてる?

 誰にも理解できない俺の状況。


「俺と一緒か。まあ、俺の場合、昔は目指していたからな」

「え、なんで今は目指さないですか?」


ハイシュウが何か問題があったのかと、心配げに質問する。


「小説家って大変だろう?読者が好むような小説を書かないといけないし。編集者ががんがん要求を言って来るらしいじゃないか。確かに小説を書いて暮らせるのは楽しいかもしれないが、書く自由が無くなるのは嫌だな」

「自由……そうか。仕事ですもんね。売れないとやばいだろうし」


 ハイシュウは少し落ち込んだように顔を曇らせた。


「ハイシュウくん。すまん。これは想像にすぎない。もし、本当に小説家になりたいなら目指してみるといいよ。実際は違うかもしれないし」

「ハイシュウ。公募だからそうなんだよ。俺みたいに公募じゃなくて、オンラインから書籍化を目指せばいいんだよ」


 どうしても自分の意見を通したいヤスハタは、一気に落ち込んだハイシュウに畳みかける。

 毛利さんはとりあえず、ヤスハタに何か言うのはやめたらしい。

 苦笑しながら見守っていた。


 小説家か……。


 飲み会はそんな感じで10時には終わり、俺達は別れた。

 誰も2次会と言いださないのが、盛り上がりに欠けてる証拠だろうか。

 でも参加するとそれぞれの考えが分かって楽しかった。


 今日は皆が小説家を目指している、目指していた、ということがわかった。


 俺みたいにぼんやりと書いてる奴はやっぱり少ないのかな。

 駅が向かいながらそんなことを考えた。


 家に帰り、電気を付け、いつもの通りパソコンの電源を入れた。

 遅く帰ってもやっぱりパソコンを開けてしまう。


「おい、作者」


 30分後シャワーを浴びて、部屋に戻ってきたら、るほーが現れた。


「今日はどうするんだ?」


 書くのか、書かないのか。

 るほーは俺が書かなくなると現れる。

 今日は書かなくなって1週間目だ。


 昔と違って、数日書かなくてもるほーは現れない。

 1週間とかほったらかすとふと現れる。

 でもそれも前と違って、脅す感じじゃなくて。


 思ってみれば、るほーも随分丸くなったもんだ。


「今日は悪いけど、」

「そうか。明日は書くんだな」


 ほらこの通り。

 るほーは本当に丸くなった。

 でも、強く催促されないのはなんだかさびしい。


 俺の作品は「勇者ライアンシリーズ」しかない。

 だからこうして、るほーが催促してくれないと、なんかどうでもいいのかなって思ってしまう。

 大体読者数にも換算されるといっても過言じゃない、ブックマークの数も一桁だ。

 しかも、全部が小説仲間からのブクマだ。

 

 どうせ付き合いだから、続きなんかも期待してないんだろうな。

 そういえば催促もされたこともない。


「寝るのか?」


 まだいたらしい……。

 パソコンの電源を消した俺にるほーがそう問いかけた。


「うん」

「じゃあな」


 『お休み』なんて可愛いことはいわないのが大魔神るほーだ。

  俺にしか見えないるほーは、空気に解けるようにして消えて行った。



「こんにちは。あ、こんばんかな。作者さん」


 夢を見ていた。

 夢の中で意識がはっきりしてきて、緑色の大地が足元に広がっていた。

 男、俺と同じくらいの男が笑顔で現れた。


「ら、ライアン?」


 それは見知った顔だった。

 いや、その表現は正しくない。

 俺の書いている小説の主役で、俺の脳裏で動き回ってくれる主役がそのままの姿でそこにいた。


「あ、俺のことわかる?」

「当たり前だろ」


 そんなの当然。

 っていうか、ライアン?

 るほー以外のキャラがこうやってひょっこり現れるのは珍しい。

 るほーに何かあったのか?


「もしかしてるほー探してる?」

「あ、うん」


 俺の挙動不審の行動が、そう想像させたらしい。


「るほーはドリームランドに行ってる」

「え? ドリームランド?  なんで?俺あきらめてないけど」

「ええ。わかってます。今書けてないだけですよね?」


 ライアンの言葉に微妙な棘を感じた。

 だが、社会人になり2年、スルーすることを覚えた俺は疑問を口にする。


「じゃ。なんでるほーはドリームランドに行ってるんだ? 大体ライアン、君が現れるなんて、いったい」

「こほん。実はお願いがあるんですよ」


 ランアンは似合わない口調で、かしこまった様子で俺を窺う。

 えっと、ライアンって……こういうキャラじゃなかったよな??

 俺は違和感をたっぷりに、ライアンを眺めた。


「はは。ちょっとおかしいですか?なんかお願いごとをするときは、下出に、しかも丁寧な口調って、アリアに言われちゃって」


 ……ライアン、しっかりしろよ。

 勇者だろう。

 すっかり尻に敷かれてるな。

 こんなエピソード今度付け加えるか。

 受けるかは別だけど。

 そんなことを考えていると、ライアンが口火を切った。


「作者さん!俺からいや俺たちからお願いがあります。「小説家になってください」」

「え??」


 今なんていった?

 なんか小説家になれって聞こえたけど。


「作者が小説家になると。俺たちグレードアップできるらしいです。ドリームランドに迷い込んだ奴が言ってました」

「ぐ、グレードアップ?」

「着ている服の材質や、配色が鮮やかになるんです」

「本当かよ」


 なんだよ。それ。意味がわからない。


「本当だ。迷いこんできた奴ら、すごくきれいな色してて、しっかりした材質の服を着てたんだよ!」

「……本当か?」

「ああ。だからどうして俺たちと違うのか聞いてみたら、作者が小説家だって答えたんだ。そいつ曰く、作者が小説家になってから、どんどん材質がよくなっていったらしいです。だからお願いします。ぜひ小説家になってください」


 俺の両手をがしっと掴み、ライアンは頭を下げる。


「え、いや。それは難しいと思うよ。小説家ってなりたいって言ってなれるもんじゃないし。応募とかで選ばれないといけないし。俺は無理。そういうのは」

「え?だったら、このまま俺たちはこの安っぽい服、壊れやすい建物、ザラザラな砂の上で過ごさないといけないのか?」


 怒ってる?

 なんだ。それ。 

 そんなの俺に言われて困るんだよ。


「ライアン。このあほ野郎め!」


 あまり貫禄のない、高めの声がして、金髪の美青年が現れた。

 大魔神だったるほーだ。

 最近はめっきり牛のほうの姿に戻ることがなくなったるほー。

 だって、部屋にいきなり化け物が現れたら心臓に悪くて、俺はどうもるほーを牛の姿に戻す気になれなくている。

 そのるほーは華麗にステップを踏み、俺とライアンの間に立った。


「なんだよ。るほー。お前もさんざん言ってたじゃないか。もっとバリエーションのある食べ物が食いたいとか」

「黙れ。わしがドリームランドに行ってる間にお前は作者の邪魔をしおって」

「邪魔、邪魔なんかしてないぞ。俺はみんなの意見を代表して、創造主に直訴に来たんだ」

「それが邪魔だというのだ。そんなことしても、効果はない」

「効果がないって。お前はいつもしてるだろう?」

「してる。だが、やり方が違うのだ」

「なんだよ。それ」


 2人のやり取りに俺は完全に置き去りにされる。

 っていうか、2人ってこんなキャラだっけ。

 いつの間にかキャラ崩壊してるのか?


「ライアン。そもそも。お前の考えは間違ってる。グレードアップするのは作者が小説家になったからではないのだ」

「え?だって、奴らはそう言っていたじゃないか」

「確かにそう言ってた。だが、わしは今日ほかの奴らとも話した。そしてわかったことがある。職業は関係ない。文章の書き方が問題らしい」

「書き方?」

「そうだ。わしたちの作者は書き方が適当だ。だから、わしたちの服とか、物とかが曖昧なのだ。後は誤字脱字の問題だ。これによって、建物に穴が開いたり、わしたちの行動がおかしくなったりするらしい」

「え、そんなこと!」


 胸がちくりと痛むような指摘を受け、俺は声を上げてしまう。

 確かに書き方とか、適当だし。誤字脱字も多い。

 だけど影響があるなんて知らなかったし、信じられなかった。


「……作者。お前は信じられないかもしれないが、事実だ」


 るほーは腕を組み、淡々と述べる。

 俺に視線を合わせないようにしているのは、俺が傷ついているのを知っているからか。


「だったら、創造主。もうちょっと頑張ってくれないか。俺はほかの奴らみたいに色彩がきれいで、繊細な服を着てみたい。なあ。だから」

「ライアン。やめないか。見苦しいぞ。今のままで十分じゃないか。わしはそんなことより元の姿に戻りたいぞ。作者、ライアンのことなど無視しろ。わしを元に戻すことに集中しろ!」

「なんだよ。るほー。お前。それはないぞ。自分のことばかり考えやがって」

「悪いか。わしは大魔神だ。ほかの奴ら等どうでもいいのだ」

「くそ。やはりここで成敗してやる!」

「ふん。やれるものならやってみろ!」


 剣を抜いたライアンに対して、るほーも負けじと剣の柄を掴み、刀身を閃かせる。


「止めろよ!」


 馬鹿馬鹿しい。

 そんな事で争う2人を俺は止めた。

 要は俺の努力なんだよな。

 もうちょっと設定をキチンとすれば、事細かく書けるはずだ。後はるほーか。

 まあ、随分元に戻してないから元に戻してやろう。

 後は誤字脱字か。まさか影響があるなんて思わなかったけど、それも見直しを重ねれば解決できるはずだ。


「2人とも。お前たちの希望を叶えてやる。だから喧嘩すんなよな」

「本当か?」

「本当なのか?」


 2人の表情はキラキラと明るい。

 ……頑張ろう。

 俺は奴らの創造主なんだから。


「あ、時間はかかるかもしれないけど。やってみる!」

「いえーい!やった!ありがとう!」


 熱血漢のライアンは歓声を上げると俺を抱きしめた。

 体が潰される思いをして俺は悲鳴を上げる。


「やめんか!」


 るほーがライアンを引き離して俺は一命を取り留める。


 ジリリーン

 遠くから目覚ましの音が聞こえてきた。


 ああ、もう朝か。

 早ぇーよ。


「創造主頼んだぜ。俺は待ってるから」


 消えていく俺の手をライアンが握る。

 手加減を知らないのか、痛みが走り俺はまた悲鳴を上げた。


「止めんか!」


 バシッとるほーがライアンを叩いてくれて、俺の手は救われた。

 るほーは、俺を見ていた。

 それは気遣うような表情を浮かべており、らしくなかった。

 大魔神なのに心配してる。


「大丈夫。俺もちょっと頑張ってみるから」


 るほーは俺をずっと見守ってくれてた。だから俺の悩みとか全て見通している。

 頑張るぜ。

 これまで余りにも適当過ぎた。

 少しは頑張る時がやってきたんだ。


「じゃあまたな。期待してろよ」


 俺は2人に手を振り、目覚めた。

 その日は休日だった。

 先ずは前の作品を見直す事から始める。

 それは辛い作業だった。誤字脱字のオンパレード。

 休み休み、1作目を読み直した頃は既に日が傾き始めていた。


「疲れた」


 目がちかちかして、パソコンの画面が擦れて見えた。


「限界……」


 体力を使った覚えはまったくない。が、全身がどっと疲れていた。俺はゾンビのような動きで、のっそりと椅子から立ち上がり、ベッドに倒れ込んだ。


「来た、来た!」


 寝たつもりはない。

 だが、俺は寝ていた。またあいつらの世界にきていたようだった。

 出迎えたのはライアンだ。

 目を輝かせて俺を見ていた。


「創造主! ありがとう。建物や地面の穴がなくなったよ! よくわかないものとかもなくなったし。感謝してる!」


 また抱きしめられそうになり、俺は一生懸命避けた。

 ライアン、やっぱり性格が変わったか?

 こんな性格にしてたっけな。 

 読み直そう……まじで。


「るほー!るほーも来いよ!お前の城もきれいに直っていたんだろう?」


 ライアンは後ろを振り向くと、金髪の美青年が浮かない顔をして現れた。

 いや、浮かないっていうよりも照れてるのか?


「ふん。無理しやがって。それよりもわしは元に戻してほしいんだが」

「何言ってるんだよ。るほー。まだこれから、もうちょっと頑張ってもらって、それから次作だろう」

「ふん。だが、頑張りすぎると投げ出す可能性があるだろう。無理はいかんぞ」


 投げ出すって……。

 失礼だな。

 いや、でも過去に何度もくじけてるからな。


「大丈夫。俺は頑張るからさ。時間はかかるけど。でもやっぱり誤字脱字の影響はすごかったんだな」

「……ああ」

 

 夢はそこで終わった。

 じゃ、頑張ってとライアンは消えてしまい、るほーもじゃあなと姿を消したからだ。

 取り残された俺はそのまま、深い眠りに落ちたようだ。


 それから、俺は時間を見て書き直したり、表現を変えたりした。

 その度に夢でライアンが喜んでくれて、るほーは仏頂面だったが喜んでいたようだ。

 俺は2人に励まされて、何とか読み直しを完了した。


 そんなある日、俺は間違って小説情報をクリックしてしまった。

 普段はへこむからと小説情報見ないようにしてる。

 あちゃーと思ったが点数の欄を見てしまった。


 すると、20点だったはずなのだが、30点になっていた。

 しかもブクマが5人ほど増えていた。

 小説仲間じゃない。

 俺はなんだか感動してしまった。

 そして見直してよかったと心底思った。


「おい、作者」


 パソコンの電源を消したとき、背後から声がかかった。

 久々に現実の世界に現れたるほーだ。


「めずらしいな。続きはもうちょっと待ってくれよ。読み直しで疲れたからさ」

「わかってる。今日はそんなことできたわけじゃない」

「だったら何?」


 それ以外で奴が来ることなんてありえない。

 俺は不思議な思いでるほーを見た。

 るほーは何かもじもじとしてて、様子がおかしかった。


「何かあったのか?」

「なんでもない。わしは礼を言うためにきたのだ」

「お礼?」


 なんで?

 なんかしたっけ?るほーはまだ王子様のままだけど。

 首をかしげてる俺に、るほーは顔を赤らめた。


「お前が誤字脱字を直してくれたおかげで、わしの城はかなり修復された。家来どものおかしな部分も直った。ありがとうな」


 あ、ありがとう?

 るほーからそんな言葉を聞いたのは初めてだった。


「ふん。わしだって礼くらいはいう。全作読み直すのは大変だっただろう。だから。お前に猶予をやる。しばらく続きは書かなくていい。この恰好も随分長いことやってるしな。最近は剣の使い方も覚えたし。まあ、なんとかなる」

「え。いいの?」


 最近仕事が忙しくなっており、帰りが遅くなっていた。

 書き直しが早く終わったのが奇跡だったくらいだ。


「ああ、でも。このままでいいとかは思うな。わしの姿を絶対に戻すようにしろ」

「はいはい」


 約束はできない。 

 だって、この王子様の恰好のるほーのほうがもうなんか頭の中で定着してる。


「じゃあな。わしの用はそれだけだ」


 るほーは俺に背を向けると消えてしまった。


「……寝よ」


 数日間、ずっと寝不足で読み直し作業をしていた。

 さすがに疲れた。

 

 その夜。夢の中でライアンが現れることはなかった。

 しかし、るほーの夢は見た。

 煉瓦がきちん積まれた城の見晴しいのいい展望台のようなところで、るほーが立っていた。風に吹かれて、そのマントがひらめき、映画の一シーンのようだった。

 るほーは満足そうに微笑み、彼方に視線を向けていた。

 

 ああ、嬉しそうだ。

 部屋に現れた時も、照れながらお礼をいった。

 本当に嬉しかったんだな。

 

 小説を書く者として誤字脱字は当然してはならない。

 そんな基本が抜けていた俺だが、こうしてるほー達に教えてもらい、なんとか修正できた。

 そのおかげかちょっとブクマが増えてて、俺もうれしかった。


 これからも頑張ろう。

 俺はるほーの満足そうな笑みを思い出しながら、そう自分自身に言い聞かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドリームランド ~書き続けるための癒しの書~ ありま氷炎 @arimahien

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ