アポロは月に行ったのか?

暗黒星雲

2018年4月1日

赤城涼あかぎりょう以下涼、天文オタク。

綾瀬睦月あやせむつき以下睦月、機械オタク。ピストンエンジンを溺愛している。

西村五月にしむらさつき以下五月、恋に恋する乙女だが武闘派。コンピューターには強い。

幼馴染中学三年生の会話です。


五月:ねえねえ、知ってる?

涼:なに?

五月:アポロ11号が月まで行ったなんて嘘なんだって。

睦月:プッ!

五月:笑うな!

涼:五月ってさ。時々面白いこと言うよね。

五月:何よ。今の面白かったの?

睦月:まあアレだ。『地球平面協会』(注1)の主張と大差ない。超笑える。

五月:うるさいわね。まず、私から言わせてもらうわ。根拠はこの本よ。


『アポロは月になど行ってはいない(著:暗黒星雲)』


涼:うさん臭い本だね。B6判だけどペラペラじゃないか。製本も雑だし。

五月:絶対大丈夫なんだから。正蔵(注2)さんご推薦だから間違いないわ。

睦月:内容はどうなんだ?

五月:えーっとね。写真とか映像とか、全てハリウッドのスタジオで撮影されたの。証拠はここよ。①月面で撮影された写真なのに星が映っていない。②真空なのに旗がはためいている。③影の方向がバラバラ。太陽光ではなく複数の光源があるハズ。他にも沢山の事実が挙げられてるわ。

睦月:ああそれね。

五月:何よ。驚かないの?

睦月:驚かない。

涼:なあ五月。アポロ計画って、11号だけじゃないんだよ。1966年のアポロ1号から1972年の17号まで無人の実験が6回、有人飛行が11回、そのうち月面に着陸したのは6回なんだ。月着陸の前に月周回は2回もやってる。これだけ計画的に試行錯誤を繰り返しているのにそれを捏造だと言い張るのはおかしいよ。13号の事故の事は知ってる?酸素タンクが爆発して大変な事になったんだよ。

睦月:そうだ。司令船から月着陸船へ避難したり二酸化炭素の除去フィルターを船内で作成したり、電力不足の司令船の再起動で失敗しないように地上で入念なシミュレーションしたり、そりゃ皆の必死の努力で奇跡的に生還したんだ。あのドラマをでっちあげるなんて不可能だぞ。

五月:そんなことは、書かれてないわね。

睦月:だろ。素人が疑問に思いそうな部分をそれっぽく書いてるだけ。

涼:例えば①は露出の関係で星は映らない。明るいところに合わせてるから。②は空気がある方が抵抗が大きくてはためかない。真空だと反動でいつまでも揺れる。③は斜面だから。上から見れば同じ方向になってるんだよ。

五月:嘘よ。信じられないわ。

睦月:それにな。アポロ11号が残した着陸点の画像もあるんだぜ。

五月:望遠鏡でそんなの見えるわけないでしょ。

涼:衛星だよ。月面を周回する衛星、NASAのLRO(Lunar Reconnaissance Orbiter:ルナー・リコネサンス・オービター)が撮影に成功してるんだ。着陸船から宇宙飛行士の足跡に至るまでくっきりと写ってるよ。

五月:ほんとに?

睦月:ほんと。月面は水も空気もないからね。隕石落下して新しいクレーターができるまでそのまんまなんだ。

五月:私、もしかして、騙されたの?もてあそばれたの?そうなの?

涼:そうです。間違いなく。

睦月:俺たちもその本持ってんだ。

涼:ほら。


ゴキッ!

バキッ!


睦月:痛いじゃないか。

涼:暴力反対!


五月:ぐぬぬぬぬ。


睦月:あの五月さん。落ち着いて。今日は四月一日、エイプリルフールだから。

涼:正蔵兄ちゃんが五月と遊んでやれって。暗黒星雲って正蔵兄ちゃんのペンネームだって。この本自作だと思う。


五月:正蔵許すまじ。一本背負いの刑(注3)確定じゃ!!


涼:ああ、出て行っちゃった。

睦月:南無。でも自業自得だよな。


おしまい


注1:地球が平面だと信じている人たちの団体。実在してる。マジです。

注2:綾瀬正蔵。睦月の従兄で23歳独身。社会人2年生。五月の憧れの男性

注3:五月は柔道初段です。中三女子としては滅法強い。

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