第6話「このまま日田に」

伊田家はもはやヒロ子がいないと治まらないようになっていた

そんな中の妊娠であった


富美雄は自分の身の回りの事などは何とかしていたし弟の孝次郎も勝雄も就職していた

しかし女性陣がまったくと言って良い程頼りにならなかった


義母の雪子は長唄の稽古やら何やらで家にはほとんどいなかった

また光君親子も新居が決まり出て行ってしまい残るは久美子と圭子であった


この久美子と圭子の二人には難病があったがこの時から久美子は食っちゃ寝と言った体で圭子もテレビの前に座ると平気で4〜5時間動かない状態であった


また久美子が連れてきた伊佐山も働かずブラブラしていて時に何か用事があるとヒロ子に馴れ馴れしく

「姉さ〜ん、電車賃貸してもらえんじゃろか」


別に仕事に行く訳でもなかったらしくまた貸してと言っても返す事はまずなかったがヒロ子は黙って電車賃と称した小遣いに毎度千円〜二千円を渡していた

こんな中ヒロ子は臨月を迎え日田に久々に里帰りした


兄も妹たちも既に結婚してそれぞれ家庭を持っていた

日田に居るのは父の長次と母のシマエ

兄の文隆も結婚し妹のキヨ子は念願叶い宝屋の寛雄と一緒になり五女のミナ子は銀行に就職して同級生の桜多加生と一緒になった

この二人が後々銀行を辞めて宝屋に就職する事になる


三女のはマイ子は営林署に勤める坂上伸和と一緒になって熊本に行ったがマイ子は十歳年上の伸和と意見が会わず後々思いもよらない事を繰り返しヒロ子を困らす事にもなりまた手助けにもなるがこれは後々…


四女のカヨ子は広島の斎藤裕と一緒になるがこれ以後、広島から離れる事がないので母のシマエも

「カヨ子は島流し同然…」

と、ぼやいていた


昭和三十五年夏、ヒロ子は玉のような男の子を産み恵一(けいいち)と命名した

ヒロ子は恵一が笑うようになるまで日田でゆっくり静養したがいつまでも久留米の伊田家を放っておく訳にはいかず富美雄が迎えにきて恵一と三人で久留米に帰った


久留米に帰る道中

伊田家の家族の事で心配なのは頼りない富美雄の妹たちと家事が溜まっている事で、ヒロ子の目に浮かぶのはおそらく洗い物だらけになっているだろう台所と洗濯物の山しか浮かばなかった


結婚式の時同様にこのまま日田に引き返したい気持ちだった


久留米に帰るとヒロ子が心配した通り台所はめちゃくちゃになってはいたが洗濯物だけは以外に少なかった

これは電化製品好きの富美雄がいち早く洗濯機を取り入れていたのもあった

当事、家事の中でも洗濯(手洗い)が一番大変であったので誰しもが発売されたばかりの洗濯機をこぞって買っていた時代で洗濯機自体品不足であったが富雄が電気屋であったのもあり新し物好きの富雄はいち早くテレビ、冷蔵庫、洗濯機は購入していた

伊田家にも長男が出来てめでたい事であった


ある時、恵一がやっと歩くようになった時に事件がおきた

家事に追われるヒロ子と裏腹に久美子も圭子もテレビに釘付けであった

恵一を見ていてくれるよう二人に頼んで台所に立っていたが恵一の声がしなくなったので手を止めて茶の間に行くと茶の間に居るのは久美子と圭子だけで恵一がいなくなっていた

おそらく久美子も圭子もテレビに夢中で恵一が襖を開けて一人で外に出て行った事がわからなかったのであろう

ヒロ子は慌てて外に飛び出したら幸い恵一は家の裏で一人で遊んでいた

当事、伊田家前の国道3号線は片側一車線で家の玄関を出るとわずかな歩道しかなく大型トラックなどが家の目の前を走っていた

また朝、夕の通勤渋滞もひどく当事のドライバーからも

「日本で一番通りたくない道路」

の一つに言われていた


声を荒げて久美子と圭子を怒りつけたい気持ちだったがこの時から久美子の容態がおかしかったのにヒロ子はいち早く気づいていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょっとよらんの 東とおる @renpa0607

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ