サトノハズキ

第1話

 カラスが大きくて黒い嘴で、地面をついばんでいる。


 視界の端にそれが映った僕は、何故か足を止めていた。


 陽光を反射した正に濡れ羽色の羽をしたカラスをじっと見つめる。それはとても艶やかで、僕の心を掴んでしまった。


 絵を描きたいと無性に思った。




 普段、絵など描かない僕には、そもそも絵心というものが無いのだが。




 カラスの目が僕を捉える。


 真っ黒な全身のカラスの真っ黒な瞳。きらりと輝いたその瞳が次の瞬間には宙を睨むと、大きな羽を広げ、地面を蹴って飛んで行ってしまう。




―あ。




 声にならない声を漏らす。




 空は青く澄んでいた。ふんわりとした雲がゆったりと流れている。


 飛んで行き、遠ざかって行くカラスを見上げるしかない僕。どんなに願ってみた所で、空は飛べない。道端で、腕をバタバタと振り、地面を蹴ってみた所で、ただの変人だ。分り切っているので、そんな真似は絶対にしないが、空を飛んでみたいと心から思う。




 カア。




 そんな僕を、カラスが嗤う。

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サトノハズキ @satonoha

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