17話 ギルド許可証を求めて

『DFA』4日目


 ゲスト用ルームで目が覚めた僕は、井戸で顔を洗い、冒険に出る準備をする。 といっても、イベントリの中の依頼書の有無と、窓の外に干していたハンカチは乾いているか、確認しただけだったけど。


 ハンカチは、乾いていたので、イベントリに収納する。 空を見上げると雲一つない快晴。 絶好の冒険者日和というやつなんだろうね。



 準備が整い、ハウスの外に出ようとしたところで、ミカさん、リアさん、なっちゃんが僕の見送りのため一時的に「再参加(ログイン)」してくれた。 とても感動した。


 シャドさんと天使さんは、まだ「再参加(ログイン)」しておらず、会えないことは心残りだったが、待っていても仕方がない。


 僕は、3人に送り出され、「始まりの街」の西側にある隣街「ウエストゲートタウン」を目指して、午前 8時12分 ギルドハウスを出発。


 今日の目標は、『ギルド許可証』と『通行許可書』を「試験管」に発行してもらう! だね。


 *****


 噴水広場に入り、オレンジ屋のおじさんから、オレンジを2つ購入した。


 今回は、きっちり6銅貨を要求された。 世間話もそこそこに別れ、オレンジを食べながら、足早に街の出入り口を目指す。


 

 途中、ギルド通りの賭けに参加していたという冒険者さんに出会い、「今日は何をやらかすんだ?」 と茶化される。


「試験管」に会いに行くだけだと告げると、「あんちゃんもギルドデビューか、がんばれよ」 と激励をもらう。 お礼を述べ、出入り口へ。



 彼女は、どこにもいなかった。


 *****


 草原には、相変わらずクレーターが2つあった。 『魔物召喚(サモンモンスター)』を使って、埋めてから行こうとも思ったが、やるべきことを優先することにする。



 移動系スキルの効果もあり、10時前に「ウエストゲートタウン」の東側門に到着する。


 門番に『冒険者協会』からの依頼書を見せると、街の中へ通してもらえた。 ここまでの道中は、なんら問題なく、少し拍子抜けする。



 早めの昼食をとるため、小さな宿屋を訪れる。


 宿屋の1階は、食堂や酒場として、宿泊客以外にも開放されていることが多く、この宿も例に漏れず、冒険者向けの食堂となっていた。


 あたりを見回すと、同じように「試験管」に会いに行くのだろうか、初心者と思わしきソロプレイヤーや、数人でパーティーを組んでいる同業者がちらほらと見受けられた。 早い時間だからだろう、席にはまだ空きが目立った。


 ここにも、あの子はいなかった。


 *****


 一番安いランチメニューを頼むと、5銅貨とのこと。 おじさんのオレンジが少し割高に感じたので、次に買うときは、値下げ交渉を行うことを決める。



 運ばれてきた料理は、ウサギの肉を串に刺して焼き、オレンジソースを絡めた、焼きウサギ串が2本と、焼きたてのバターロールが2つ。 串肉の数は少なかったが、1つ1つが大きかったので、男性でも満足できる量だと感じた。


 運んできた女中さんが、1銅貨で大根サラダも追加可能だといってきたので、それも注文することにした。 

 大きめのウサギ肉は噛み応えがあり、ジューシー。 続いて、バターロールをかじっていると、大根サラダを持ってきた女中さんが、串焼きのソースに付けて食べるよう勧めてきたので、それにならう。


 バターの風味とオレンジソースの酸味が合わさり、そのまま食べるのとは、また違ったおいしさがあった。 シャドさんに今度作ってもらえないか聞いてみよう。


 大根サラダにもオレンジソースがかかっていた。 おいしいのではあるが、味が変わらないため、串焼きやバターロールほどの感動はない。 すると先ほどの女中さんが白い液体の入ったジョッキとグラスを複数持ち、それぞれのテーブルを回っている。


 僕のところにも来ると、少し甘めのヨーグルトドリンクを2銅貨で注文可能といった。 なるほど、そういうことか。


 僕は、それも注文すると、グラスを受け取り、大根サラダを口に入れてから、ヨーグルトドリンクを口の中に流し込む。 大根の触感と酸味のあるオレンジソース、そこに甘めのヨーグルトが混ざることで、別の果物を食べているように感じた。


 僕は、すべてを食べ終えると、合計8銅貨を女中さんに渡す。 おいしかっただろ?との問いに笑顔で答え、この街に寄る際は、ひいきにさせてもらうと伝えて、宿を後にした。


『移動器』を見ると10時半を少し回ったところ。 「試験管」にあって、順調に進めば、12時前には、ギルドハウスに戻れそうだ、と思った。


 その後、街の南門へ到着。 門番に「試験管」のところに行くにはどうすればよいか聞くと道なりに進み、分かれ道を左、と教えられる。 謝辞を述べ、街道を進む。


 途中、巨大蜘蛛(ジャイアントスパイダー)・大トカゲ・赤蜂(レッドビー)に遭遇するも、難なく撃破。 LVが6になる。


 そして、午前 11時7分 湖の畔にある「試験管」の家に到着したのだった。 


 *****


 木で建てられた家は平屋で、一般的な家屋という感じだ。 唯一、気になるのは、そこに不釣り合いな、レンガで組まれた部屋が増築されていること。 庭には、野菜畑、そして鶏が、放し飼いになっていて、自給自足をしていることが見て取れた。


 入口の扉をノックすると、中から「入りなさい」 とおじさんの声。 僕は、「失礼します」と一言、断りを入れて、扉を開ける。


 中に入ると、先客が二人いた。 残念ながら男の人だ。 あの子はここにもいなかった。


 *****


「君も依頼書を持ってきたんだね?」 おじさんは、僕に尋ねた。


 僕は、そうです、と答えながら、二人の冒険者さんを警戒する。 スキル『敵意感知』に反応があったからだ。



 一人は、剣士。 身長は僕より少し高いから175cm前後。 SSRと思われる派手な大剣を背中に。 鎧もSSRかな。 キマイラコーデというやつで、アバター装備は、変更していないみたい。 ガキ大将がそのまま大きくなりました、というイメージがピッタリで、目つきが少し鋭いのは、僕を警戒してだろうか?


 もう一人は、おそらく魔術師。 僕と同じ星屑の杖を両手に持ち、少し緊張しているみたいだ。 僕と同じぐらいの身長だから170cm前後。 防具は、店売りの魔術師セットといったところか。 少し神経質な印象だった。


 はて? 僕は、新人冒険者さんに敵意を向けられるようなことしていたのだろうか…… 『DFA』を始めてから今までの、冒険者さんがらみの出来事を足早に思い出す。



 ①「装備ガチャ」を引くための中堅冒険者さんへの生贄 ②草原でのLV上げ時の試験的魔法誤射の犠牲者 ③なっちゃんとの手紙争奪戦時の賭けで負けた人


 恨みを買うとしたら、このあたりだろう。



「お前、あの時のやつだよな!」 そういって剣士さんは、僕を指さす。 魔術師さんが「そうだよ。 装備は変わってるけど、あの黒髪、覚えてる!」 と続く。


 んー、やっぱり、恨みを買ってるみたい。 装備が変わってるとなると、③は消えたね。 あの時は、今と同じ装備だし。 ①②のどちらだろう?


「あー、私を無視して盛り上がらないでくれると助かるんだが……」 おじさんが二人に話しかける。 まあ、そうだよね。 僕も同じ立場だったら、そう思うもん。



「おっさん、実力試験の相手は、こいつでいいんだよな?」 剣士さんがおじさんに話しかける。


 おじさんの装いは、中堅冒険さんのそれだった。 部屋の壁には、長剣(ロングソード)と丸盾(ラウンドシールド)がかかっているので、剣士か盾騎士という設定なのだろう。


「なにやら、因縁のある相手の様子だね。 心配せずとも、もう一人、参加者が来れば、君の希望どおりの状況になるよ」


 実力試験、もう一人の参加者、となると、2対2の模擬戦ってところかな? でも、戦う前に、試験の説明と、できたら恨みを買った理由を確認しておきたいんですけど……



「お前は、手を出すなよ! こいつは俺がやる」 勝手に盛り上がってる剣士さん。 あ、魔術師さん、少し不満そうだ。


「あの、先に実力試験の説明、受けたいんですけど、いいですか?」 僕は、手をあげ、おじさんのほうをみる。


 剣士さんが「そんなこといいから、さっさとそいつとやらせろ!」 と吠える。 んー、血の気が多い。 試験のルールぐらい聞かせてよ。


 外野を無視して試験管のおじさんから聞いた内容は、以下のとおり。


 ① 冒険者同士で模擬戦をしてもらう。 ② 装備は、おじさんが指定したものを使う。 ③ 冒険者間で、ダメージは発生しない。 ただし、システムの制御変更は可能。 ④ 相手を倒しても不合格になることはない。 ⑤ 試験参加者が、複数人の場合、双方合意のうえ、多 対 少も可能。 ⑥ 勝敗により合否が決定するわけではない。



 ふむふむ。 装備指定は、装備ガチャの差をなくすため。 ダメージ発生なし、システム制御可ってことは、なっちゃんが操作した「フレンドリーファイア」設定が強制でオンになるけど、自分でオフにすることもできるよ。 で、倒しちゃっても問題ないよ。 負けても合格することあるよ。


 こんなところかな? ルールは、わかった。 あとは、恨まれる理由だね。 さて、どうやって聞き出そう?



 僕は、キャンキャンと吠える剣士さんと恨みがましい目で見つめている魔術師さんを尻目に、なるべく穏便な方法を思案するのでした。

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生きる屍だった僕は、最後の活路をVRMMOに求めた -三重苦青年の奮闘記- はにゃ助 @hanyasuke

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