家族

僕は旅をする上でのルールを作った。

1ホテルは使わず地元の人に泊めてもらうこと。(やむ終えない場合は野宿)


2たくさんの人と話すこと


3弱音を吐かず、辛くても笑うこと


4感謝の気持ちを忘れないこと


5楽しむこと


これが僕の作った自分ルール

山道を歩きながら気づいたことがたくさんあった。

空がこんなにも青いこと。

ただの道にもたくさんの花が咲いていること

そこにたくさんの昆虫たちが暮らして懸命に生きてること。

今まで気づかなかったことが沢山あった。旅はこんなにも良いものだったのを今、実感していた。

ん?なぜ歩いているのか?

そう。それは、バイクが壊れたからである。

3年間車庫で埃を被っていた僕の愛車は、山道の途中で黒い煙を上げ止まってしまった。

だけど僕は引き返さなかった。

ここまで来たからにはヒッチハイクをしてでも、僕は旅を続けよう。そう思った。

だが、一つ大きな問題があった。

車が全然通らない。周りを見渡すも、大きく開けた畑ばかりで、人もいない。

弱音を吐かないと決めていた僕は、ひたすら重い荷物を背負って歩き続けた。

何時間か歩いた頃、軽トラックが一台前方から向かってくるのが見えた。

僕はすかさずグットサインを出して笑顔で合図をしたが、軽トラックはそのまま通り過ぎてしまった。ため息をつきそうになった自分を殴り、歩いていると後ろから先ほどの軽トラックが来て僕の前で止まった。ドアが開き降りて来たのは、手ぬぐいを頭に巻いた、60代くらいのおじさんだった。


「お兄ちゃん!こんなとこで何しとんじゃ?」


「あの…今バイクで旅をしてたんですけど、壊れちゃって」


「あちゃ、そりゃ災難だったね。そんで、目的地はどこよ?」


「全然決めてないんです…」


少し考えたあとおじいさんが笑顔で言った。


「うち来るか!?」


こんな何処の馬の骨かもわからない人をうちに招いてくれるなんて、なんて良い人なんだろうか。僕は少しためらったが、ほぼ強引に軽トラックに乗せられた。


車から見た風景は、畑ばかりだったが、この広い畑を、この人たちが作ったと思うと、とても絶景だった。

おじさんの家は畑の横に建てられたすごく立派な二階建ての一軒家だった。


「入れ入れ」


そう言いながら手招きをしているおじさんの後ろをついて行く。


「お邪魔します」


中には50代くらいの見るからに優しそうなおばさんがいた。


「あら。そちらの方は?」


「旅人さん拾ったんだ」


するとおばさんは優しい笑顔を浮かべ、迎え入れてくれた。


「いらっしゃい。疲れたでしょ」


すぐに温かいお茶を出してくれた。

そのお茶を飲むと心の中までじんわりと

温かい気持ちになる不思議なお茶だった。

しばらくして何か手伝うことを聴くと、

薪割りをお願いされた。


「腰を入れろ腰を〜!」


「こ、こうですか!」


「やるなあんちゃん!」


そんなやりとりを繰り返し、少しはまってしまった僕は日が暮れるまで薪を割り続けた。


「いやあ、これで1ヶ月はやらなくて済むわ、ありがとなにいちゃん」


お礼を言われることなんて久々で、少し照れくさかった。


そのあとおじさんと銭湯に向かった。

あたりには街灯もないのに、月の光であたりは明るかった。

銭湯の入り口を開けると中央に受付があり、左が男湯、右が女湯に分かれていた。

ほとんど人もおらず、貸切状態だった。

おじさんと背中を流し合い、温泉に浸かった。誰かと入る温泉はこんなに心地が良いものなんだと始めて知った。


「あんちゃん、なんで旅しとんの?」


「ぼく、自分を変えたくて始めたんです」


「なるほどな、変わったか?」


「大きな変化はないですけど、気づくことが多くなりましたね」


「そりゃ良いことだな。人間すぐには変わらないからな、少しずつ変えていければ良いんだよ」


「頑張ります!」


するとおじさんは笑いながら言った。


「頑張ることも良いことだけどな、自分の楽しいと思えることを一生懸命やれば、自ずと変われるもんだよあんちゃん」


ぼくはその言葉を深く胸に受け止め、これからも旅を続けよう。そう思った。


おじさんの家に帰ると、テーブルにはたくさんのご馳走が並べられていた。


「うっわこんなに…本当にありがとうございます」


「良いのよ。うち子供いないから、あなたが子供みたいなもんよ」


そう言いおばさんは優しい笑顔で微笑んだ。


「ほらっ、飲め飲め!」


ぼくはおじさんと一緒に乾杯をしたあと、ビールをいただいた。


「うまいか?」


「最高です…」


今まで飲んだお酒は、上司に無理やり飲まされたり、いやいや付き合わされた宴会で一気飲みをしたりと、美味しいと思ったことは一度もなかった。

だが、この家族と飲むお酒は、今まで飲んだ中で1番美味しくて、暖かかった。


「なしたおめえ!」


ぼくは知らぬ間に泣いていた。


「本当に…美味しくて」


「あらあらティッシュティッシュ」


おばさんがたくさんのティッシュを持ってきてくれた。さらに涙が止まらなくなった。

そのあと僕らは最高の晩御飯を楽しんだ。



翌日、ぼくは近くの町まで送ってもらうことになった。すごく悲しそうなおばさんを見て胸が痛くなった。


「また来ます!必ず」


そう言い残し軽トラックに乗って街へ向かった。おばさんは見えなくなるまで手を振っていた。


「じゃあなあんちゃん!元気でな」


おじさんはそういうと直ぐに家へ帰って行った。

この家族に出会って、人の温もりに触れて、ほっこりした余韻が残ったまま、僕は新しい街で新しい出会いを求めて、

がむしゃらに走って行った。

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世界に色を付ける方法 千輝 幸 @Sachi1228

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