御披露目直前SP

世界三大〇〇

姿を見せないアイドル達

 改札口。


 ーこんにちはー

 ーお気を付けてー

 ー今日はありがとうー

 ー頑張ってー

 ー毎度ー


 新しいサービス、GVSの運用を開始して1週間、往来の数だけかわいらしい少女達の声が響いていた。だが、その姿はどこにも見えない。うろうろと改札口を歩き回っている人は、チェック柄のシャツに新しめのジーンズという格好の男が大半を占めている。時々見受けられる、絶対領域を光らせたニーハイの少女も、声を出すことはほとんどなく、ただ歩くだけなので声の主ではない。


 ーはじめましてー


「今の声、かわいくないか?」

「奈江ちゃんの声だ。当然だろ!」


 GVSとは、自動改札機がピッという音の代わりに、少女達の声を響かせるだけのサービスにすぎない。初めのうちは、急に鳴り響くその声に驚く人もいたものだが、ほんの数日後には、この駅の名物の1つに数え上げられるようになっていた。通りすがりの観光客にとっても、ピッという味気ない音の連続よりはよほどマシというものだった。


 ー行ってらっしゃいー


 何か新しいものを発見できるかもしれない。そう思えるだけでも、目当ての品を手に入れた時と同じかそれ以上の期待感、高揚感が芽生えるのだった。だが、その声のバリエーションは、まだまだ少ない。無機質とは言わないまでも、気紛れに繰り返されるその声は、決して多くの人の心をつかむものではない。その中でも、特別な声というのがいくつか存在する。それは、この街に頻繁に訪れる人達の間では少し話題になっている、『課金アイテム』の1つだ。


 ー秋葉原へようこそ!ー


「来たー! 今のがゆとりちゃんの声だ!」

「おおっ、勇者だ。勇者様のお通りだ!」


『課金』をすれば更に味わいが増され、思い通りの声でお出迎え、お見送りがしてもらえるという訳だ。この街で勇者と呼ばれるのは簡単で、月額300円のサービス料を払う、それだけだった。そして、時々訪れる勇者様が通った後に響き渡るその声に、非課金勢もご相伴に預かり、ほんの1ミリの幸せを静かに感じていた。


 ー行ってらっしゃいませ、勇者様ー

 ーもう、知らないんだから。遊び過ぎよ!ー


 その、特別な声の担当は、天才のゆとり、天然のまりえ、天使の奈江の3人だった。揃って元子役で、当時は、そのかわいらしさでお茶の間を賑わせていた。その3人が4年振りにこの街に飛び出して来たのには、ちょっとした事情があった。『under the roof』という、9人組のアイドルユニットとして来月ステージデビューすることが決まったのだ。メンバーのうち、前歴のあるこの3人が、先行してそのかわいらしい素顔を公開し、同時にこのサービスが始まったのである。

「やっぱ、奈江ちゃんが最高だよな!」

「いやいや、勇者様と言ってくれる真の姫君は、まりえちゃんだけだぞ」

 だが、インフルエンサーと呼ばれるオタク達の中にも、その言葉とは裏腹に、勇者と呼ばれるものは少なかった。彼らは口には出さないが、心の中では思っていたのだ。


『VRッ子やAIcoが参入すれば、月額100円迄は値崩れするだろう』


 この小説は、『under the roof』を率いて、ある時代の流れに戦いを挑んだ1人の学生プロデューサーの記録である。その時、VRアイドルやAI搭載のアンドロイドアイドルが主流となったエンターテイメント業界において全くの流行遅れとなっていた生身のアイドル達が、このプロデューサーを迎えてからわずか1年で、VRやAIを駆逐した奇跡を通じ、その原動力となった、人間的な成長や、信頼・愛、そして「かわいい子にはかわいいという」ことの持つチート能力を、余すところなくラノベ化したものである。

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御披露目直前SP 世界三大〇〇 @yuutakunn0031

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