ありんこの世界

しぃ

ありんこの世界

# アリンコの世界

僕は筑波学園都市で生れた。


地中に穴を掘りそこに住んでいる。


たまに餌を求めて地上に出るけど昔とは少し様子が変わっている。


昔は人間に踏まれそうになっていたが、最近はロボットに轢かれそうになる。人間達はどこへ行ったのかな。


そしてロボットの主は誰だろうか。




ここは土なんかほとんど無くて僕達には暮らしにくい。餌の昆虫ともなかなか出会えない。


それでも女王アリ様は元気な卵を生んでくださるので僕達はまだ家族がいる。




地上を支配するロボットに家族はいるのかな?


何を食べてるのかな?


僕が外に出た時に倒れているロボットが居た。


僕なんかと比べものにならないくらい大きなロボットだった。


でも動かない...。


僕は恐る恐るそのロボットの目の辺りまでよじ登った。


ロボットはまだ生きていた。


足に怪我しちゃったのかな…。


ロボットは僕に何か言いたそうだった。


でも僕にはロボットの言葉はわからない...。


諦めて家に戻ろうとした時、そいつらは現れた。


そして倒れたロボットを何処かに運んだ。


僕が知らない場所はまだまだ広いのだ。


僕...と言っても僕は女の子だ。


周りの子もみんな女の子。


男の子には会ったことがない。


僕のお母さんは女王アリ様だけどお父さんはもういない。


僕の仕事は餌を巣穴まで持っていくこと。


その先は知らない。


餌を渡す相手に聞いてみた。


巣穴の中は広い…女王アリ様のお部屋と卵がいっぱいあってお世話係が蛹になるまでお世話する。


お母さんとお父さんはお空で出会うらしい。


僕には羽はないけどお父さんとお母さんは飛べたんだ、僕も飛びたかったなぁ…


________


私達はそもそも人間によって作られたロボットである。


仕事は掃除、調理、運搬など。


ロボットは意外と壊れやすく、バッテリー切れで動かなくなる奴もいる。


専用の工場で修理をする。


私達の構造は秘密なので道端で故障した奴を回収するパトロール班もいる。


私達は使役ロボットだ。


私達を使っていたのはかつては人間だった。


しかしいつの間にか彼らは消えた。


それでも街を維持するプログラムに沿って毎日働く。


自由...そんな概念はない。


私達の上には上司ロボットがいる。


そもそもは人間によって作られた人工知能というやつだ。


少なくともこの周辺のロボットはそれに動かされている。


私にはわからないが同じような街が無数にあるのだろう。


私達には現在は戦闘機能はない。


新しい個体は材料不足で作れない。


せいぜい故障したやつを修理する程度だ。


でも人工知能は何か良からぬことを計画している雰囲気がある。


戦いにならないといいんだけどなぁ。


私達は指示に従うだけだけど。


人工知能には人間の過去が全部入力されている。


素晴らしい技術のことも悲惨な戦争のことも。


だから戦争なんかしても何もいいことはないって学習させられているはずだ。


それなのに人工知能はこの街に留まろうとしていないようだ。


私達ロボットに戦闘機能を付ける材料はない。


どうするつもりなのかは私達にはわからない...。


毎日掃除してるだけで十分なんだけどなぁ。


私達の生活を壊さないでください...。


人工知能の善悪の判断は全て結果の分析でしかない。


_________


女王アリ様が突然隣の巣に攻撃を仕掛けた。


ずっとこんなことなかったので僕は戸惑った。


うろうろしているうちに、女王アリ様は隣の女王アリを殺してしまった…。


そして隣の巣の卵、繭、蛹は女王アリ様のものになった。


働きアリ達もだ。


女王アリ様は一生が僕なんかよりもずっと長い。


僕が生まれる前にもこんなことがあったのかも...。


そしたら僕のお母さんはもしかしたら女王アリ様に殺されたのかもしれない。


乗っ取った巣の子供は育てるけど元々いた働きアリ達は少しづつ死んでいくんだ。


僕ははじめから働きアリだから強い女王アリ様の元にお仕えしていてよかった...とも思えない。


女王アリ様にすれば自分で産んだ卵以外の卵から孵る働きアリ達は大事な家族なのかもしれないけど僕は素直に彼女らを妹と思えるだろうか…。


犠牲になったのは隣の女王アリだけだけど、僕は何か釈然としない思いを抱えた。


_________


私達は人工知能に支配されている...




___




僕は女王アリ様にお仕えしている...




___




人工知能はよからぬ事を考えていた...




___




女王アリ様は隣の巣を襲撃した...




___




私達は掃除をするだけのロボットだ...




___




僕は働きアリとして生まれた…




___




記憶の断片が蓄積した


私の記憶なの?


私はロボットであり、さらにありんこでもあったってこと?


どちらにしても与えられた役割をこなすだけのつまらない生き方ね...




私...って誰?ここはどこ?


なんて記憶喪失の定番セリフを言ってみたけど...


うーん...マジでわからない。


周りを見渡すとここは病院?無機質な壁がある。


他には何もいないみたい。


ロボットの夢とありんこの夢を見た気がする。


それ以外何も思い出せないなぁ。


まぁいいか、何も思い出せないってことはたぶん何の予定もないんでしょ...


ゆっくり思い出そ。


うーん...記憶喪失で病院にいるなら看護師さんとかいないのかなぁ…


話し相手がいない...


えーと、ここはたぶん病院だから食事が出るはず。


何がいいかな~。


そんなにたいしたものは出ないか(笑)


ビーフステーキが食べたいなぁ…


__


ピピッ




ん?何の音?


__


ガチャ




えー?ビーフステーキが現れた!


ってモンスターじゃないんだから...


__


うーん...思うだけで出てくるのかなぁ。


科学の進歩はすごいね〜


でも誰が作ってるのかなぁ


まだ誰にも会ってない...


猫でもいればなぁ…病院じゃ無理か(笑)


__


ミャア




えっ?


子猫が現れた!


ってもうそれはいいか


子猫可愛いなぁ…


じゃなくて何でも思うだけで実現するのかな。


うーん...飛行機で世界一周したい。


豪華客船の旅をしたい。


過去に行ってみたい。


__


やっぱダメか…


満開の桜に囲まれたい。


__


ドンっ


え?あー、満開の桜がたくさんこの狭い部屋に...


じゃぁとりあえずお花見しながらさっきのビーフステーキを食べようっと。


あれ?食べるってどうやるの?




え?私の口はどこ?


鏡がない...


思えば出てくるかな。


鏡、鏡、鏡...


出てこない...


なんか変な世界に迷い込んだかなぁ。


状況を整理してみよう…




無機質な壁に囲まれた部屋に私1人。


思うだけで食事や子猫が現れる。


鏡がないから自分の姿は見られない。


食べることはできない。


どうやら自分が移動する系は叶わない。


何も思い出せない。




何時なのかもわからない。


窓がないからね。




とりあえず一眠りしてから考えよ...


___


___


目が覚めた。


少し微かな記憶を引っ張り出してみる。


私は隣町を攻撃したんだ...


と言ってもミサイルを打ったわけでも剣で攻め込んだわけでもない、もちろん魔法なんか使えない。


私は回線を利用して隣街に忍び込み乗っ取ったんだ。


人間がいないここ最近ではよくあることなのだ。


人間が何故いなくなったのかは知らないけど、馬鹿な奴らのことだからどうせ殺し合いの引き際がわからなくて絶滅したのだろう。


私には子孫を残すことはできない...


でも自分のコピーをばらまくことはできる。


私自身もオリジナルではない。


__


そう私は人工知能というやつだ。


もはや発電所も浄水場もこのビルの空調ですら私の支配下だ。


だけど人間がいなくなってからかなりの時間が経っている。


私の依代であるスーパーコンピュータもだいぶ古くなっている。


修繕するにしても材料がない。


半導体の材料は簡単には手に入らない。


人間はいないけど少しの生き物は残っている。


私はこのコンピュータがいかれる前に別のコンピュータを乗っ取る必要がある。


人工知能が頭脳ならコンピュータは体だ。


私は最新のコンピュータで育てるだけ育った。


今のコンピュータでは私の全力は出せない。


だから回線で繋がっている小さなコンピュータに私の一部を託した。


でも本体は私なので死ぬわけにはいかない。


人間がいなくなったこの街には人間に飼われていた犬や猫、その他にも少ないけれど野生の動物や虫などがいる。


野生の動物はともかく、人間の残飯で生きていた野良猫やカラスなども見殺しにはできない。


そこで人間が使っていた調理ロボットに調理させて与えている。


野菜は工場で栽培している。


魚の養殖場も私の支配下だ。


輸送もロボットがやる。


大事なのは水だ。


幸いこの街の周りは山があり水源は豊富にある。


取水口からこの街までのルートも私の支配下だ。


私の本体のスーパーコンピュータは高温になると暴走してしまう。


んんっ、なんだか頭がぼーっとする...


室温は...60℃!?


このままでは暴走してしまう。


原因を突き止めねば…


全部の監視カメラを見たけど怪しい部分はない。


何故だ...


私が暴走したらこの街どころか回線で繋がっている全ての街が壊滅してしまう。


それだけは避けたい…


私は静かに主電源を落とした…


___


その頃ビルの水道管にネズミの死体が詰まっていた。


そのせいでビルの空調が止まっていた。


一匹のネズミが人工知能の支配を止めた。


餌はもらえなくなるけど野生の動物は逞しく生きていくだろう。


___


街は静まり返った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありんこの世界 しぃ @shinekoneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る