Episode:Ⅴ 不穏
例えば、と彼が言う。
「例えば、眼の前にスイッチがあるとするだろう? あの教室とかにある押せばカチッと音をさせて電気が付いたり消えたりするあのスイッチ。あれを押せば自分の環境が日常が…自分の持ってて知ってる世界が、全て変わるとしたら──君は、そのスイッチを押すかい?」
少し困ったように目尻を下げて彼が笑って問う。
眼の前のスイッチを押せば世界が変わる──ライトノベルなどの創作では当たり前の設定だ。王道と言っても過言ではないくらいの。
僕だったら──どうするのだろうか?
「俺は──押す
「押さなか、ったんですか?」
「あぁ押さなかった。……押せなかったよ、俺には」
肩を竦めて彼が言う。
不意に彼の手が真っ赤に染まった。まるで、血に濡れたが如く。
「なっ……」
「…………血に染まりし、
彼が何処か達観したように呟く。
その手を汚す血が、彼のものなのか、はたまた他人のものなのか、ボクには見当が付かなかったのを覚えている──…。
刻人(ときびと)と現代異能怪奇譚 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin
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