第3話「終わった後に始まるもの」

らいぶはボクが思うより一瞬で終わってしまった。

もしかしたら長かったのかもしれない。

だけど、ボクはそのこともわからなくなるほど彼女に夢中だった。

頭に何度も何度も思い浮かべては、ひと目会えたことを幸せに思う。



「グレープ君?グレープ君!らいぶ終わったよ?」

「………え?」

サラさんに言われてボクはようやく我に返った。

「うわわ、心配させてごめん。大丈夫だよ。」

「もう、ずーっとボーッとしてるから、びっくりしたよ。」

「じっとしてるのが趣味で…」

「へぇー」


「ねぇサラさん。」

「何?グレープ君!」

「ボク、フルルに会いたい。どうしたら会えるかな?」

「んー、フルルちゃんはアイドルだからなー。会うのは難しいかも。」

「そっか…」


「でも、マネージャー?っていうのをしてるマーゲイに会ってみるといいよ!ぺぱぷのらいぶをするためにいろいろしてるすごい人らしいから!きっとぺぱぷとも仲がいいと思う!」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう!」

「マーゲイなら、多分今頃ステージの裏にいると思うよー!」



ボクはサラさんとお礼を告げて、ステージの裏手まで走っていった。

そこでは、見慣れない毛皮を来たフレンズがブツブツと独り言を言いながら枝を使って地面に何か書いていた。

「やはり…今度はジェーンさんをセンターに……歌は誠実さが伝わるような率直な歌詞にして……」

「あ、あの……貴方がマーゲイさん?」

「はい?」

彼女はくるりと振り返る。マーゲイさんのようだ。

忙しなく耳をピクピクさせて、こちらを見ている。

「貴方、ペンギンね!しかもフンボルトペンギン!」

「え!?あ、はい!」

「ふーん……」

ジロジロと舐め回すようにマーゲイさんはボクを見る。

「顔立ちも整ってるし……スタイルも悪くないわね。フルルさんよりも前髪の色が濃いから差別化もできる!でゅふぁは…っ」

「あ、あの?」

「貴方、アイドルやらない!?きっとに人気者になれますよぉ!」

「あ、あいどる?いや、そんなことよりも聞きたいことがあるんだけど」

「はいはい!何でも聞いてくださいね!」

「ボク、フルルに会いたいんだ!でも、どこにいるか知らなくて。マーゲイさんに聞いたらわかるって」

「───っモッチロンですよぉ!ついてきてくださいぃ、会わせてあげますからぁ!」

そう言うが早いか、マーゲイさんはボクの手を掴んで走り出した。ボクも慌てて歩調を合わせる。


控え室、と書かれた部屋の扉をバァンと開けてマーゲイさんは中に入る。

中でゆったりしていたペンギン達は、マーゲイの突然の行動に対して「あぁ、またか」みたいな、慣れた反応だった。

「どうしたのマーゲイ。また何か新しい企画を思いついたの?」

「いえ、違うんです!見てくださいこの子を!」


一瞬の沈黙


「ダメよ、マーゲイ。いくら可愛いからって無理やり…」

「本人の意思を尊重した方が良いんじゃないか?」

「あ、いや。違うんだ。ボクは──」


「──フルルに会いたくて」


「ふぁーい?」

部屋の奥でじゃぱりまんを食べていたフルルは、こちらを向いて首を傾げる。

なんて愛らしいんだろう。


「フルルのファンの方ですか?」

「マーゲイ。たくさんフレンズが押し掛けるから、控え室にファンは入れないんじゃ無かったのかぁ?」

「アイドル候補だから良いんです!セーフですよ!」

皆が何か言ってるけど、ボクの耳を素通りしていく。

ボクはフルルの元に駆け寄ると、思いのままに口を開いた。



「あ、あの…っ!好きでした!

ボクと…

付き合ってください!」



「「「「「えぇー!!?」」」」」


一同が唖然とした。

ボクは興奮のあまり、自分の突拍子もない行動に気付けていない。



「告白!告白ですよ!」

「ア、アイドルって恋愛禁止じゃ!?」

「───ッ!」

「コウテイが気絶しちまったぜ!?」

「え、えっと…どうしましょう!?」



「いいよ〜」



「「「「「いいの!?」」」」」




「君とは夢で会った気がするから。ねぇ、一緒にじゃぱりまん食べよー?」

「うん、うん!食べよう!一緒に!」


「し、信じられないわ…。あのフルルが恋愛なんて……」

「恋愛というよりは、お友だちって感じですけどね」

「ともかく、邪魔したら悪いだろう。私達は席を外そうか。」

「だな。ほら、行くぞマーゲイ!オレのダンス練習に付き合えー!」

「はいっ、了解です!」


そう言って皆は気を利かせてくれた。

部屋に残ったのはボクと、フルルの二人だけだ。

幸せで緩やな時間が、ボクらの間を流れる。

そうやってしばらくの間、二人でじゃぱりまんを食べていた。





「ねえ、フルル」


「んー?」


「どうしてボクの傍に居てくれたの?」


「んー、グレープ君が寂しそうだったから〜」


「そっか。ありがとう」





「グレープ君は、どうしてここまで来たの?」


「会いたかったから、かな」


「そっかぁ〜。そういうの、恋って言うんだよねー。」


「恋?うん、そうだね。ボクの……」



まるで紫色のすももみたいに甘酸っぱいような

ボクが、桃色フルルに抱く、



李色グレープの恋。


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李色の恋 犬野サクラ @sakura_inuno

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