第2話「浜を出て、森を超えて」

その後、ボクたちは森の中をひょこひょこと歩いていた。

アデリーさんはボクの前を先導してくれている。

彼女の薄紅色の後ろ髪を追いかけながら、ボクは不慣れな人の脚を前へと動かした。

ときたまに彼女は後ろを向いて、ボクの心配をしてくれる。


ボクの息が上がってきた頃に、アデリーさんは休憩を提案してきた。ボクはそれを受け入れて、近くの倒木に腰を下ろした。彼女もボクの隣に座る。

それから、懐から透明な入れ物と白い紙で包まれた袋を取り出すと、それをボクに突き付けた。

「はい。飲み物と、食べ物です。」

「わぁ、ありがとう!」

紙袋からは袋の外からでもわかるほどいい匂いがする。ビリビリと破って開けると、中にはほんのりと水色に染待った、丸いふわふわしたものが入っていた。

ボクはそれを躊躇ためらいなくがぶりと食い付いた。中からじゅわぁ、と魚の味が口に広がる。

「美味しいね!何これ?」

「じゃぱりまんです。みずべちほーの。」

ボクは美味しくてついがっついてしまった。

そしてむせた。

「けほっけほっ……」

「あーもう、何やってるんですか。はい、水。」

アデリーさんは容器の蓋を捻って外すとボクに差し出した。

ボクは受け取ると急いで一口飲む。

「ふぅ……、ありがとうアデリーさん」

「別に。良いですよ。」

そう言いながら、アデリーさんは容器の蓋を閉め直した。怒ってるわけじゃないんだろうけど、淡々とした態度にちょっと緊迫感を感じてしまう。


「もう少し休んだら、また歩きましょうか」

「うん、わかった。」





それからどれくらい歩いたかわからない。けれど、段々と木の数が減ってきて視界が開けていくに連れて、目的地が見えてきた。

アデリーさんの話していたらいぶ会場だ。

大きな桟橋の先にとても大きな建物。きっとあれがそうなんだろう。

「ほら、もう少しですよ」

「うん」


もうボクは歩き方のコツを掴んでいて、最初のひょこひょこ歩きは卒業していた。桟橋をかたかたと音を鳴らしながら歩いていく。

だけど、アデリーさんが途中で足を止めた。

「どうしたの?」

「……いえ、私は用事を思い出したんで、これで。」

「え、そうなんだ……。後ちょっとだけなんだけど、なんだか心細いなぁ。」

「大丈夫、他のフレンズもいますから。皆優しくしてくれると思いますよ。」

「そっか。ありがとうアデリーさん!」

「どういたしまして。……お話しできると良いですね」

「うん!じゃあねー!」


アデリーさんは桟橋の上で手を振りながらボクを見送ってくれた。

ボクはそれに手を振り返して応えながら先へと進む。

ここにフルルがいるんだ!

ボクは高鳴る胸を抑えて、らいぶ会場に足を踏み入れた。



会場はたくさんのフレンズでいっぱいだった。

毛皮から判断して、ボクと同じ水棲系のフレンズさんたちが中心だけど、そうじゃない人もチラホラいるみたい。

こんなたくさんの人の中から、フルルを見つけ出すのは難しいだろう。誰かに聞いてみようかな。


「あの、こんにちは。」

「こんにちは!見かけない子だね、新しいフレンズ?」

「あ、うん。ボクはグレープ、よろしくね」

「私はメキシコサラマンダー!サラって呼んでね!」

「えっと、サラさん。ボク会いたいフレンズがいるんだ。」

「そうなんだー。だれだれー?」

「フルル、って言うんだけど…」

「なるほど!君もぺぱぷのらいぶを見に来たんだ!」

「え?」

「大丈夫!ここであってるよ!一緒に見よう!ほら、隣座って座って!」

「う、うん…」

彼女はぽんぽんと隣の席を叩いた。

ボクは促されるままに座る。

ここにいれば会える?どういうことだろう……。



急にわぁっ、と辺りがざわつく。サラさんに促されて前を見ると、ボクと同じペンギンのフレンズ達がステージに立っていた。



「皆!今日も来てくれてありがとう!」

「今日は人一倍多いな。」

「そうだなー、メチャクチャ多いぜー!」

「初めての方がいるかも知れませんし、改めて自己紹介しましょう」

「んぐんぐ……」


────見つけた。ステージの上、5人の左端に。


「よし。私はリーダーのコウテイだ!」

「ジェンツーペンギンのジェーンです!」

「イワビーだ!今日もロックだぜー!」

「プリンセスよ。来てくれてありがとう!」



「ふるる〜。みんなよろしくねー」



間違いない。やっと会えた。

あの子だ。ずっとボクの傍にいてくれた人。

向こうで見るより、ずっとずっと可憐で、ずっとずっと可愛い人。



──ボクは一目惚れしてしまった。

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