書評14.小説のユーザビリティ

カクヨムというのは一つの巨大な(そして肥大する)フォーラムだと私は思っています。

公開討論会ですね。

人間はぐんとして進化する性質を持っている(DNAによる進化ではなくて、文化ミームとしての進化)ことを考えるとき、フォーラムは、いわばミームの遺伝子プールとして重要な役割を果たします。

フォーラムとは活性化された個体の群が、ボウルに突っ込まれている状態です。

交換が活発化され、個体ごとの情報が平準化されることで、個体ごとの意識の中に、ある共通のが生まれます。

それがトレンドとして、ある一つの方向性を示します。

いわば「見えざる手」が働いて、ある一つの進化の方向性が浮かび上がるという状態です。

(まぁこの考え方はいささか市場原理主義、情報原理主義、進化論原理主義すぎるかもしれませんが)



カクヨムの「応援コメント」機能、いいですよね。

これ、ローンチ当初から実装されていたわけではありませんでした。

ローンチ後に、まず「応援」機能が追加されて、次に「応援コメント」機能が付きました。

ピンポイントで、簡単に書けるところがいいと思います。


小説も、いわば社会に対して提供している価値や機能だとすれば、読者からのフィードバックを集めて改善したほうがいいですよね。

それがカクヨム上では、定量的な指標としてのPV数やランキングであり、定性的な指標としての応援コメントやレビューだったりするわけです。

こうして、いわば小説のユーザビリティをテストしていくことによって、改善が重ねられていきます。

活用できるデータとしてはとてつもなく小さくて粗いですが、原稿用紙に向かって書いているよりはいくらかマシです。

(もちろん、大きなデータはプラットフォーム事業者の側に蓄積されます)


「情報」の流通は、基本的に社会全体の生産性を上げます。

個体がお互いに教え合い、学び合い、全体の知性やスキルやノウハウの底上げにつながります。

そして全体としての底上げを土台に、イノベーションが生まれます。

世紀の名作はカクヨムから生まれるかもしれません。

私のこの書評にしても、知識や情報の平準化の一機能に過ぎない、とも言えます。

そのうち、小説のオープンソース化も進むかもしれませんね。

(今でも「お題」で書き合ったり、プロットを共有したり、誰かの作品の続きを書いたりと、その流れは進んでいます。)



書評14.『クズの聖戦』 作者 坂口航

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885533963


主役は「魔導書」。

デスノートと同じように。


何かをしたわけでもないのに勝手に悟ってんでいる高校生、柳田國広(この名前、すごく民俗学者っぽいけどいいのだろうか)が、ある日唐突に一冊の魔導書を手に入れるところから物語は始まる。

魔導書を使って異世界に転移した國広は、そこで出会った謎の美女、リゼと共に旅に出ることになる。


特筆すべきは応援コメントの数の多さだ。

そこで指摘されるのは、「誤字脱字」、「読みやすくするための小技」、「文字量の適切さ」、「今後の展開の期待」、などなど。

まさに読者と作品をつくっていく過程がそこに現れている。

その裏側にあるのは、繰り返し投稿されている自主企画だろう。

自主企画をもとに、お互いの作品を訪問し合い、意見を交換する。

自主企画は、まさにフォーラムの媒介役。


かつての時代であれば、気の合う仲間と出会うという幸運に頼るしかなかった「同人」や「サークル」を、今は自ら望んでつくることができる。

この時代に生まれて、これを活用しない手はない。


『クズの聖戦』 はこれから、魔導書を用いた戦闘に入る。

作者にとっては「初めての戦闘シーン」とのことだ。

書きたいように書くには、書いて、書き直すしかない。

そしてそれが読者にどのように映るかは、読ませてみて、反応を見るしかない。

人間が何かをつくる限り、変わらぬこの真理。

今はその機会を、自分で気軽につくることができる。

我々は過去の人々よりも、速く賢くなり、速く上手くなるのである。

たぶん。


この作者も、これから急激に上手くなる。

野心的な個体が増えることほど、ぐんにとって有益なことはない。


書評14.『クズの聖戦』 作者 坂口航

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885533963

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