書評10.チートが使えない人生について
今の私は基本的に自分のことをゴミクズだと思いながら生きています。
まぁ昔は自分が世界で一番賢くて偉いと思って生きていたので、人生のトータルとしてはバランスが取れているかもしれません。
それでも私は何かを書いているわけです。
本当は音楽もやりたいです。
ラグビーのレフェリーもやりたいとずっと思っています。
外見をもっと整えて、人目に麗しい自分でいたいとも思います。
それのどれも私にはできません。
これは能力の問題ではないです。
たぶん、それなりの時間や労力を投資すれば、私にもできます。
実際に、一時的にはできていた時期もありました。
しかしどこかのタイミングで、どうでもよくなってしまうのです。
つまりそういう意味で、私にはできないのです。
そんな私が十代のころからいつの間にか続けてきていたこと。
それが書くことです。
書き言葉を使うこと。
いつの間にか、それだけが残っています。
本当は、音楽をやりたかった。
普段の仕事では、たくさんの人に会っています。
人に会い、人の話を聞き、人に何かを伝え、人を動かし、仕組みを運用していくのが私の仕事です。
しかし仕事をしながら、どこかで、自分に嘘をついているような感覚を持っています。
自分がいま最もやるべきことが他にあるのではないか。
そういう疑いにさいなまれながら、日々を暮らしています。
「お前には、音楽をやる理由があるだろ?」
『セッション』という映画の中で、音楽教師が生徒(主人公)に問いかけます。
具体的な理由なんか本人にもたぶんよくわからないまま、主人公は「ある」と即答します。
人の行動の理由なんて、突き詰めれば「ある」とも「無い」とも、どちらでも言うことはできます。
問題は本人が「ある」と感じているかいないかです。
私には音楽をやる理由はたぶん無いけど、書く理由はたぶんある。
カクヨムで読む作品も、「書く理由がある」作品を、読みたいなと思います。
書評を書くなら、思わず何かを書きたくなるような作品の書評が書きたい。
書評10. 『転生して気ままな人生を過ごしたい? だが断るっ!』 作者 南木
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885241909
教科書に載っていた芥川龍之介の一節を、私はなぜか今でも覚えている。
「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。しかし重大に扱わなければ危険である。」
この『転生して気ままな人生を過ごしたい? だが断るっ!』という作品には、一貫して「人生をばかばかしいものとして扱う態度」があって、そこが気持ちいい。
そしてばかばかしいものなのだけど、人生には危険なことが次々起こるから、仕方がないので主人公は力を発揮する。
この「しょうがねえなぁ」という態度が心地いいのである。
しかも、そこで発揮される力は、訓練によって獲得された「自分の力」だ。
「ばかばかしいなぁ」と思いつつ、人生は危険に満ちていることもわかっているから、あらかじめ訓練して自分を鍛えておいてある。
主人公の
人生にはしょーもない危険がたくさん満ちているから、ハルは自分を鍛えて少しでも生き抜く力を高めてある。
それなのに、しょーもない理由で転生してみると、その力を全部奪われていた。
「しょうがねえなぁ」ということで、ハルは転生先の人生もなんとか切り開いていかなければならないのである。
転生先の世界においてハルの能力はチートのように見えるかもしれないが、それは自分で獲得した力だ。
「絶対神」も実はハルのすぐ傍らにいるのだけど、これもハルをそれほど助けないというよりは、どちらかというと単に茶化す存在だ。
「神が自分のために何か手を差し伸べてくれる」と思うことの方が冒涜だ、という考え方がある。
なぜなら神は万能なので、そもそもこの世界を完璧な姿として創造されたからだ。
そもそもの最初の段階で完璧なものとして創造されたこの世界を、誰かの祈りに応えるためだけに、修正の手を加えるわけがないじゃないか、と。
「自分のための一時的な修正が必要だ」と思っている時点で、それは神の万能性を疑う冒涜的な行為なのである。
「奇跡」なんてものは起こらないし、起こるとしたら祈りなどとは無関係に、最初から予定されていた通りに起こるのである。
もしも神が我々の姿を逐一観察してくださっているとしたら、それは我々を監視するためでも助けるためでもなく、笑うために見ている。
(というのは一つの考え方であって、神の絶対性や祈りに関する解釈は千差万別なので、ここで抗議はおこなわないでください)
タフでクールなハルがその能力を存分に発揮して、精一杯の力でアタマとカラダをつかって現実を切り開く。
そしてまぁだいたいハルの思惑通りに行くのだけど、しかし思惑を超えた全然別の力が働いて、またもやハルは運命にもてあそばれる。
それはまぁ、人間とこの世界の縮図のようなものだ。
そしてこれほど笑える話もなかなか無いのである。
そんな話のつづきが読みたいなぁと、思います。
書評10. 『転生して気ままな人生を過ごしたい? だが断るっ!』 作者 南木
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