書評5.We found love in a hopeless place.
「変態」って何でしょうね。
まぁだいたい世の中には「普通」とか「標準」とされる領域があって、その領域から外れたものは全部変態だろうとは思います。
集合論の話ですね。
で、外れ方にも千差万別があって、「普通」の領域の右にずれたり左にずれたり、上下にずれたり、前後にずれたり。
自分の胸に手を置いて「うーん、私は変態なのだろうか」と考えだすと、「普通」がわからなくなってきます。
他人の本当の気持ちや嗜好なんて知りようがないから、何が「普通」かなんて、誰にもわからないものです。
そうすると、「まぁ誰もが自分の好みを持っている時点で、ある程度変態かな」なんて思います。
私も昔はラノベをよく読んでいました。
なにせラノベは幅広いので、まるっきり初めて触れるような嗜好に触れると、「うーむ、まったく世の中には多種多様な”萌え”が存在するものだなぁ」と私は感心していました。
別に、突飛な萌えを思いつける人はすごいという話ではなく、世の中の多種多様がすごいという話です
書評5.『鉄錆びの女王機兵』 作者 荻原 数馬
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885808737
英語において、船を代名詞で受ける場合には「she」が使われる。
自動車も同じだ。
「戦車に接続された四肢の無い女性」というイメージが初めに提示された時、私の脳裏に浮かんだのは「変態…!」という言葉だった。
別に糾弾しているわけでも引いているわけでもない。
自分の中に無い感覚にゾクッとしただけだ。
クルマの横にオンナを置くのは、よくある。
『ビキニ・カーウォッシュ・カンパニー』という映画もあるし、「おっぱい洗車」というエロビデオもある。
しかしクルマ=オンナ、というのは珍しい。
しかも、どこぞの戦艦擬人化美少女ゲームとは違って、雰囲気だけ引っ張ってきて何となくイメージの連想で「擬人化!」とか謳うわけでもない。
クルマの持つクルマの要素(今回は特に戦車の要素)、オンナの持つオンナの要素。
それぞれをまったく損なうことなく、合体して接続する。
それぞれの要素を保ったまま接続するのだから、接続それ自体は当然に強引というか、無理やりにならざるを得ない。
そこで、四肢が失われる。
四肢の部分で、クルマとオンナが接続される。
四肢が無くても、オンナの要素は特に失われないからね。
クルマがオンナの四肢であり、オンナがクルマの中枢神経になる。
この場合、「オンナからクルマが生えてる」ことに萌えるのか、「クルマがオンナを内包してる」ことに萌えるのか、それは私にはわからない。
オンナ中心に萌えたい人、クルマ中心に萌えたい人、おのおの好きな方で感じ取ればよろし。
しかし、萌えの上で四肢が無いのは必然なのだが、物語の上で四肢が無いのには理由がいる。
この『鉄錆びの女王機兵』という小説ではまずもって、そこが入念に語られる。
そして完成された物語であるためには当然、その理由の語りには、主題や人物を深堀りする要素が込められている。
ディアスとカーディルの二人きりの世界は純粋で、それでいて痛みに満ちている。
まるで鬼束ちひろや尾崎豊の痛々しく美しいラブソングのように。
パンドラの箱からあふれ出た絶望に満たされた世界で、最後に残った希望を、お互いに相手の姿に重ねる。
それが今のところ、この作品の主題になっている。
四肢が無いことによって、二人が結び付けられているのである。
ディアスは少々ロマンチストに過ぎるし、カーディルはそんなディアスにとっていささか都合がよいオンナであり過ぎる気もするが、それはいい。
ご都合主義は創作の特権だ。
私が気になるのは、もちろんこの後の展開だ。
連載中のこの小説は、この後、どのように進みゆくのだろう。
今のところ、二人の愛は絶望によって補強されている。
他に寄る辺の無い二人が、お互いにすがりつくことによって、愛の純度が保証されている。
それはいわゆる共依存の一つで、脳が溶けそうなほどに甘美なものだ。
しかしそれは二人が選んだものではない。
私としては、この後、二人の前に次々と手を変え品を変えた絶望が用意される以外の展開が読みたい。
二人が強さを手に入れ、この世界としっかり対峙できるようになった上での、二人の行動を読みたいのだ。
四肢が無いことによって、これからのきっと二人は以前よりも強くなるのだから。
お互いに相手に依存しなくても生きられるようになってからの愛のほうが私は美しくて尊いと思うし、そういう強さを持った人こそが何かを「変える」ことができる。
身勝手な読者のファン心理としては、私はそんなことを期待するのである。
なんか、また違った趣向の兵器合体をしている仲間が増えたりとか。
わかんないけど。
二人はいつまでもこの世から疎外されてお互いに依存しまくったままで、絶望に彩られた凄まじく壮絶で瀬戸際の刹那にすべてが込められた濃密な展開が次々と繰り広げられるのならば、それもまたいい。
書評5.『鉄錆びの女王機兵』 作者 荻原 数馬
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