第4話 目覚め
僕はその光景を目にした途端、凄まじいほどの恐怖とともに戻ってきた。
今は、朝ごはんの支度中だ。
ノエルは椅子に座って、足をパタパタさせている。
いつも通りなら発狂しそうになるほどに可愛いらしい仕草だが、先ほどの光景を見た後では、どうしても…
「ウッ!」
生々しく鼻に残る死臭を思い出して胃が収縮し、中のものが逆流する。
吐き出すのを必死にこらえ、『
僕は決して居眠りをしていたわけではない。
ここ最近、魔力の乱れがあちこちで生まれていてその影響から、生まれてくる子供は、稀に『異能』と呼ばれるものを発現する。
異能は凄まじい力だ。
魔法のように天変地異を起こすようなことはできないが、まさに人が及びうる次元に存在しない異常現象を引き起こすことができる。
例えば、僕の昔の知り合いの持っている異能にはどんな種族とも意思疎通ができる力や、条件付きだが5秒前の世界に戻る力もあった。
異能を持っている者たちを異能者と言う
そして、異能はジャンル分けがされている。
支援型、操作型、干渉型、大きく分けてこの三つだ。
いかし僕の異能はこれには当たらない。
恐ろしく貴重ゆえに、襲撃などを避けるため名簿を作ること自体が禁止されている、もう三つのジャンル。
創成型、変異型。
そして、時空型だ。
僕の異能はこの時空型にあたり、一応魔界内にいる二人の希少ジャンル異能者のうちの一人だ。
しかも、僕の能力の影響力は現在確認されている異能の中でトップだ。
しかし影響力が高いというだけで、能力自体が抜き出てすごい、なんてことはない。
僕の異能は、世界に自分にとって最悪のルートを必ず通ると仮定させるという能力だ。
要するに、一度、自分の最悪の事態が起きた未来を一部改変された状態で
しかし、この能力には欠点と言うより、欠陥がある。
意識的な使用が不可能なのだ。
自分でも気づかないうちに起動する。
普通の時間軸をたどっているはずが、一時的に仮定させた未来を
だからこの能力は厄介かつ危険なのだ。
もし最悪の事態が起きた未来を見てしまったら僕は未来に恐怖しながら進まなければならない。
未来は、希望があると仮定するから未来なのだ。
絶望が待っている未来を知って、前に進むことより恐ろしいことはない。
だから僕はこの能力を封印するために日ごろから魔力を枯渇させている。
魔力がない魔族は身体能力的に人間にさえ劣り、戦時なら真っ先に死んでいるだろう。
戦時ではないからこそできることでもある。
なのになぜか、『
毎朝、完全石化魔法を伝説の魔獣ベヒモスにかけて、魔力を枯渇させている。
今日も、枯渇させている。
もしかしたら何度も使っているうちに魔力の変換効率が上がっていたのかもしれない。
まあ今回はそれのおかげで助かった。
問題はどうやってあの状況を回避するかだ。
どこから未来が分岐するのかを考えなければならない。
偽物のノエルが出てきた瞬間にそいつを殺せばすべて丸く収まるのか。
殺せなければ、同じ光景が広がるだろう。
家から離れればいいのか?
いや町で同じようなことが起きてしまうのは避けたい…
運命というものはある程度の流れが決まっていて、それを崩すためには一つ、二つだけある解決策を見つけなければならない。
異能のおかげで、運命が変わったときは感覚的に分かる。
だから考えることは重要だ。
考えても分からなければ、動いてみて、また考える。
そうやって変えていくしかない。
何かがいつもと違うはずだ。
思考の海に、潜っていく。
不確定要素。
天気。ご飯。来客…
普段はあって、今日はないもの。
今日はあって、普段ないもの。
魔皇。魔獣。敵。武装。異能…
儀式的なものの可能性。
聖者行進。
満月には遠い。
ガルガの舞踏会。
使われて気づかないわけがない…
昨日から関係している何か…
いやそれはない。
いままでのパターン的にない。
ならば何か。
いつもとは違う決定的な…
「あ」
そこで気付いた。
いつも通りなら、そもそも『
つまり、問題点は魔力。
何かを掴んだような感覚を感じる。
間違いない。
この感覚だ。
解決の糸口になるのはこれだ。
つまり僕の魔力が残っていることが、あの悲劇を巻き起こした原因につながる手がかり。
なぜ残っているのか。
魔力変換効率ではないらしい。
何に使っている?
戦闘。
料理。
魔核稼働。
他。
他。
他。
他に…
思い出す。
年中使っていて無意識化でも常に魔力が吸い取られている魔法が存在した。
「
僕の脳内に近隣の地形と生物反応と魔力の流れの情報が流れ込む。
そしてヒットした。
なぜか、玄関前だけ、この機能がほぼ作動していなかった。
玄関前は時間停止効果がぎりぎり作動できるだけで、他機能はなぜかフリーズしている。
明らかに、誰かが故意的に魔法構築の阻害を行っている。
今ほど一生懸命に探してやっと気づくほどだから、相当にうまくしてやられている。
『
その阻害が行われていたせいで僕の使う魔力がいつもより少なくなって、『
そして、この阻害こそが今回の事態を巻き起こす重要な一因であることは疑いようもない。
魔方式を構築しなおす。
すると、頭の中にかかった靄のようなものが消え、思考がクリアになる感覚に襲われる。
これで、最悪の未来は回避した。
少なくとも未来は大きく変わる。
何がどう変わるのかは分からないが、いい方向に動くだろう。
待ちわびたノエルが少しすねた声で言った。
「ぱぱあー。まだー?」
さて、料理に戻ろう。
ノエルが傷ついていないのに最悪の未来とはよく言ったものだ。
僕は自分が思っているよりもあいつらを大事にしているらしい。
今度、こちらから仲直りを切り出してみよう。
料理を作り終え、食器を運んでいると、この未来ではあるものを失っていることに気づいた。
思わずノエルを見る。
「ぱぱ?どうしたのー?」
僕は呆然と呟く。
「ノエルの…いや、何でもないよ」
やはり、何かを助けるということは何かを捨てるということらしい。
ところで、あの時のノエルに似た化け物は何だったのだろうか。
おそらく今回の件の首謀者か、その関係者であることに違いないはず。
魔皇たちに調べてもらおう。
この事件はまだ終わっていない。
むしろ、始まったばかりだ
参謀パパと魔王少女の日常 コークミルク @airas1218
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