冷蔵庫

白川津 中々

第1話

 冷蔵庫の中を見る時、私は私の生を憂慮する。


 小さな箱の中には、豆腐と納豆と、醤油。それと、酒があった。米は買ってないから、納豆は豆腐にかけて酒のアテにする。温かいものが食べたい時は、湯豆腐にして、ポン酢なんてものはないから塩を軽くふって、これもまた、酒のアテにする。そうして、酒を飲む為なのか、飯を食う為なのか、どちらが主なのか分からぬうちに俺は寝てしまい、木々の騒めきで目を覚ます。気付けば夕闇の広がる時刻となり、「あぁ、もうこんな時間か」と独り言ちては、余った徳利をひっくり返して、また酔いに満ちるのであるが、そんな時、ふと浚われる記憶が、冷蔵庫なのである。無縁者が眠る冷土荒堆が如く、孤独に立つ白塊。粗末に置かれた、豆腐は残骨、納豆は蛆、酒は腐液のように見える。それは、私の行き着く先の、いや、生き尽く先の姿のようであり、その夢想が、私の根幹にある、情念ともいえる自愛の心を、やすりのようにザリと触る。そうして、冷や汗を流すと、堪らず冷蔵庫の中を確認し、そこにあるのはやはり豆腐と納豆と酒であると確認するのであった。冷蔵庫の中を見た瞬間は、やはり、「あぁ、馬鹿な考えであった」と胸を撫で下ろし安堵するのであるが、次にやってくる、あの夢想が現実となるのでは。という、根拠のない不安が病魔のように精神を侵食し、言葉にできない恐怖に涙するのだ。


 冷蔵庫の中身を覗く時、私は私の生を憂慮する。

 不安と、哀れさと、そして、来るべくわけのない助けを待つ、恥知らずな自傷行為に、人知れず、嗚咽を響かせるのであった。

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冷蔵庫 白川津 中々 @taka1212384

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