(さくらのイラスト)
桜木 彩
これは…4つの季節が巡る、山に囲まれた国のお話。
名前はメルディ。
国の中心には大きな桜の木が1本。
そして、国を囲む四つの山頂にはそれぞれ小さな祠があった。
小さなメルディ国の宮殿には王族しか入れない部屋がある。
そこには、それぞれの季節を司る精霊が順番に生活することで季節が巡っているのだ。
春を告げるのはエリカ。
たくさんの花たちと一緒に、目覚めの合図をくれる。
心の優しい女性。
夏を告げるのはカンナ。
農作物にたっぷりと栄養を与えてくれる。
少々妄想癖があるらしく、彼女の精神が不安定になると天候も荒れるらしい。
秋を告げるのはケイト。
オシャレが大好きだからか、寒くなる時期に向けて暖色系の果物を実らせてくれる。
冷える心に、少しでも明るい色を…。
冬を告げるのはナズナ。
彼女が歩くと足首についている鈴が眠りへ導いてくれる。
冬眠を必要とする動物達の安眠は、彼女に守られている。
そんな四人の精霊がそれぞれの季節と共に宮殿の部屋に訪れる。
メルディ国では、朝と夕に女王様が桜の木の下で歌を謡う。
精霊たちも女王様の歌が好きなのか、たまに祠を抜け出しては桜の木へ聞きに行っているみただった。
姫が9の年になった頃、女王様は精霊たちと会わせることにしました。
姫達が暮らしている宮殿の最上階に精霊達のための部屋がある。
重い扉を開けると、薄暗い室内の中央に寝台がひとつ置かれているだけでした。
四方の窓からは、メルディ国を囲む4つの山をそれぞれ見る事ができる。
メルディ国の象徴と言っても過言ではない桜の樹は、春になるとたくさんの民が宴会を開いている。
杯を交わし、歌い踊れの多賑わい。
そんな様子を微笑ましく思っていない人物が居たことを、この時はまだ誰も気が付かなかった。
季節は過ぎ、冬がおとずれた。
ナズナは、姫の頬に口づけをすると寝台に横になった。
ここからは、春に向けて様々な生命が栄養を蓄える季節がやってくる。
ある日、姫は部屋の窓を叩く音に目が覚める。
窓を開けると、外の冷たい風と共にカンナとケイトが入ってきた。
冷えた2人を温めようと、飲み物を用意する。
熱さに強いカンナは一気に飲み干し、ケイトは一口飲むとぎゅっと目を閉じた。
「どうしよう、エリカがまだ来ないんだ!」
「エリカから何か聞いてない…?このままだと、春が来ないよ…」
2人の言葉にカレンダーを見ると、確かにもう春になってもおかしくない時期だった。
急いで精霊達の部屋に向かうと、寝台に横たわるナズナしか居ない。
『もしかしたら…』と、エリカの祠に行く事にした。
外に出ると、吹雪で真っ白だった。
祠に辿り着くと、雪が積もっている。
3人で顔を見合わせる。
祠は、天候の影響を受けないはずなのに…。
女王様が、窓の外を眺めながら心配そうにつぶやいた。
「このままでは、あの子が弱ってしまう」
視線の先には、あの桜の樹があった。
重そうな雪を乗せて寒さに耐えている。
桜の樹…。
桜と言えば春に咲く。
もしかしたら、エリカは桜の樹に居るのかもしれない。
翌朝、桜の樹へと向かう。
樹の幹に手が触れると、ゆっくりと内側へと沈む。
指先が触れ、手首を掴まれる感覚がしたかと思えば、あたたかくて…雨の香りがした。
姫は、見知らぬ少年に手首を捕まれ導かれていた。
静かな空間だったが、一定のリズムでどこかから『とくん、とくん』と音が聴こえる。
少年が歩みを止め、姫に視線を向ける。
どうやら目的の場所に到着したらしい。
進行方向の先に、探していた精霊の姿があった。
少年に礼を言おうと振り返ると、姿はどこにもなく…。
真紅の華が一輪咲いているだけだった。
倒れているエリカは、どうやら眠っているだけだった。
肩を優しくたたき、声をかけるとゆっくりと瞼を開けた。
早く外に戻って春を呼ばないと…と言う気持ちを、『こうなった理由を聞くのが先だ』と上書きする。
エリカに現状を説明すると、『この子を守りたかったから…』と告げた。
木に登り、大地から浮き出た根に腰を掛け…
枝を引き寄せ、許可もなく必要以上に手折る。
傷付いた桜の樹を癒すには、冬を長引かせて内側からゆっくりと治すのが良いと考えたらしい。
しかし、何ごとも限度というものがあるわけで…。
桜の樹の胎内であろうこの空間も冷え切っている。
姫は、エリカと手を繋ぎ外へと向かう。
外に出ると、痛いくらいの風が2人を出迎えた。
急いで寝台のある部屋へと向かう。
「お帰りなさい」
「色々聞きたいことはあるけどね…」
精霊の部屋では、カンナとケイトが出迎えてくれた。
エリカが氷の様に冷たくなってしまったナズナの頬に触れると、ゆっくりと瞳を開けた。
「遅かったね…エリカ。綺麗な花を咲かせてね」
「うん。ありがとう、ナズナ」
エリカはナズナと入れ替わるように寝台の上へと横たわった。
「おやすみなさい」
「今までずっと眠ってたのにね…心配かけてまったく……」
「優しすぎるのも困りものですね」
3人の精霊と姫に見守られながら、エリカは春を招くために瞼を閉じた。
雪が溶け、姫は宮殿の外へと出た。
あんなにも灰色だった空も今では鮮やかな青色になっている。
エリカが気にかけていた桜の樹へ向かうと、住民達が集まっていた。
姫は、住民達に向かって語るのだった…。
次に春の精を怒らせるような事があれば、きっともう二度と春は訪れないであろうと。
(さくらのイラスト) 桜木 彩 @aya_sakuragi
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