TRUCK-MEN
あかさや
第1話
わたしは神の使いである。しかし、わたしの姿を見て多くの者は神の使いとは思わないだろう。なにしろわたしはトラックである。
神の使い……そしてトラック。この要素を提示すれば目ざとい者は理解できるかもしれない。
そう、なにを隠そうわたしは人間を轢いて異世界転生させるために存在するトラックだ。言っても信じられないかもしれないが、無〇転生の主人公を轢き殺したのはわたしだ。ほかにも有名な人間を何人も轢いて異世界に転生させている。
異世界転生につきものであるトラックは、実は誰も乗っていない。轢き殺す人間に不審に思われないために、誰か乗っているように錯覚させているが。
ここで暴露させてもらおう。
よく異世界転生もので神様の手違いで殺されてしまった、なんて話がよくある。
あれはまったくの嘘だ。
異世界転生をさせる人間というのは、手違いで殺されることなんてない。たまにそういう事例はあるようだが、多くははじめからそいつを狙っているのだ。少なくとも、わたしが担当した件では、本当に手違いだったことはない。
それなのに何故手違いだと言うのかといえば、確信的にやっているとわかれば、
特殊能力を与えるのもわざとやっているのをばれないようにするためだ。人間というのは馬鹿な生き物で、転生するのはその中でもさらに馬鹿なので、ちょっとズルい能力を与えれば簡単に騙されてくれる。もういい加減察しろ人間。
どうして異世界送りにする人間を轢き殺す役目にあるわたしがこんな暴露話をしているのかといえば、確信的に人間を殺していることはもちろんだが、わたし自身が人間を轢き殺す役目に嫌気がさしたからである。
誰かを轢き殺すときに人間が見せる顔――正直あれを見ているのはとてもつらい。恐怖に震え、泣き、絶望に襲われるその顔はいつまでもわたしの記憶に残り続ける。いままでも、わたしと同じようになって病んでしまい、異世界送りトラックの職を辞ししたやつも多い。恐らく、わたしもそう遠くない日にその仲間入りをするだろう。
だが、人間の社会と同じように神の社会も辞めるといってすぐ辞められるわけではない。嫌だから辞めるといっても、はいそうですかやめていいよ、なんて話にはならないのだ。とても世知辛い。
すると、神からメッセージが飛んできた。内容を確認するまでもない。わたしはまた誰かを轢き殺さないといけないらしい。三十過ぎの無職の男だ。無職は異世界転生させると何故か大活躍するので、神の間ではかなり気に入られている。わたしにしてみれば、別の世界で駄目人間だったやつがどうして異世界にいっただけで大活躍できるのか理解できないのだが。どうやらそういうことになっているらしい。
まあ、とにかく。
今日もわたしは人間を轢き殺して異世界に送るのだ。
辞められるのは――いつになるのだろうか?
TRUCK-MEN あかさや @aksyaksy8870
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます