町の工務店で働く建築士や現場監督が、異世界で工務店の仕事をこなしていくという、異世界ファンタジー×お仕事小説という内容の濃い物語です。
作者様の本業が建築士というだけあって、作中でも専門用語や建築業界の込み入った事情など、かなりマニアックな部分が細かく語られています。
自分にはよくわからない世界だから……とそこで敬遠してしまうのはもったいない!
この物語には、働いた経験のある人ならば誰でも少なからず共感できる悩みや苦労、楽しさややりがいがぎゅっと凝縮しているのです。
義理人情や誠実さ、相手への敬意は、どんな仕事をする上でも大切な要素ですが、綺麗ごとだけでは仕事は成り立たない。
時には駆け引きが必要だったり、より優位な条件を引き出そうと画策したり、毅然とした態度で相手を退けたり、不利とわかりつつも要求をのんだり。
異世界人という価値観や考え方の違う人々を相手にしながら目的を達成していくという主人公達の仕事の過程は、社会派のお仕事小説として王道の読み応えがあります。
それに加えて、やはりこの物語では建設現場が異世界であり、異世界の資材や建築法を取り入れ、異世界の人々と共に建物を作り上げていくというオリジナリティが光ります。
魔法という異世界ならではの技術が建築でも大いに生かされているわけですが、やはりその特性には長短があり、主人公達はこちら側の建築技術と異世界側の建築方法の組み合わせを模索していきます。
読み進めるほどに、魔法による建築の奥深さが都市計画といった国の施策にも密接に絡んでいることがわかり、その上で主人公達がこちらの世界の建築方法を持ち込む意義が改めて浮き彫りとなり、世界観がよく練り込まれていることに唸らされます。
また、こうしたお堅い話ばかりではなく、個性豊かな脇役陣が異世界で生き生きと動き回る姿にくすりとさせられることも。
特に建築界の権威であるはずの安西先生や自衛隊出身で「百人殺し」の異名がついてしまった長谷部氏などのはっちゃけぶりは回を重ねるごとに(良い意味で)ひどくなり、女性陣も負けじと逞しくなっていく様子は読んでいてとても楽しいです。
本作の悪役的立場であるレ・ブン商会の動きも気になりますし、天下一武道会的な関節技大会(になりそうな予感)もこれから開催されるなど、本作は面白さがますます加速する様相を呈しています。
連載を追いかけるなら今がチャンス!
お仕事小説と異世界ファンタジーのハイブリッドな面白さをあなたもぜひ体感してみてください。
大泉学園町で地域密着型の工務店を営むイケメン専務・舞波いすみが、恩師の紹介で請け負った案件は、日本政府が密かに管理する「扉」の先にある異世界の土地での建設工事だった。
舞波工務店は、かつて有名設計事務所のエースとして働いていた舞波いすみを始め、皆ベテラン揃い。
建築法や規制もない広い土地なら、のびのびと仕事ができる!と思いきや、異世界では魔法を使って建物を強化したり、雨風を弾いたりできるため、まともな技術や設計を身に着けた職人がいなかった!
いかにもファンタジックだが、確かにそんないい加減に造られた建物に住むのは敬遠したい。
さらに頭の固いお役人が現地人とトラブルを起こしてと、問題だらけの現場をいすみがどうまとめるのかに期待が高まる。
この作品の一番の持ち味は、なんといっても建築のリアリティだ。作家の本職も建築士というから、なるほど描写の詳細さもうなずける。
工務店のお仕事も学べる、働く大工さんが活躍する異世界ファンタジーだ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)
すごくワクワクする作品です。
2018年12月1日現在12万字超えですが、魅力的なキャラや駆け引きなど、異世界なのにとてもリアルで大人の仕事小説としても、大変読みごたえがあります。
作者様は、本物の建築士。
確かな専門知識を、非常に分かりやすく、異世界ものに組み込んだ点が出色。建物が見たいな~と思っていたら、ツイッター上に図面が! 画期的だと思います。
専門家が書く作品は、ともすると詳しすぎて難解になることもありますが、この作品は大丈夫。
すごくわかりやすいです。
文系脳の私の頭にも、するりと建築の知識が入ってきます。
ドワーフと一緒にレンガを積む場面など、とても面白いです。
物が出来上がっていく楽しさにあふれた作品です。
主人公の専務こと「いすみ」がとても魅力的で、彼を囲むキャラクター達も、いい感じです。登場人物は、「ちゃんとした大人」。
そして、建物だけでなく、建築業界についても描かれているのが、とても興味深いです。
レビュータイトルに「工作」を入れたのは、モノづくりの楽しさにあふれているからです。