第16話 ええっと。せいつう?


「やほー。上原ですー」


 あたしは氷川のすむマンションのインターホンに向かって手を振った。


「は、はやいじゃんか。304号だからあがってこいよ」

 と、やや上擦った声が聞こえる。


 うわぁ、かわいい。


 ほどなくして自動ドアが開く。あたしは氷川の部屋に向かった。


 エレベーターを上がれば氷川の住む304号室はすぐだ。玄関のインターフォンを押すと、氷川が顔を出した。


「あがって!」


 上原の声が上擦っている。


 どうやらシャワーを浴びたようで、なんだかうっすらシャンプーのにおいがする。ジャージのハーフパンツにTシャツの姿がまぶしい。


 うむ。


 マイフレンドよ。


 君のそのにおいはあたしにとっては媚薬に近いよ。


「今日はおうちの方は?」

「いねえって、心配すんなよ。夜まで帰ってこないから」

「それは好都合!」


 あたしは声を上擦らせた。


「なにがだよっ」


 あたしのテンションがあがったことがわかったのか、氷川のテンションも少しあがったようだ。


「あのさ、あたし着替え持ってきたから着替えさせてもらっていい?」

「あ、ああいいよ」


 あたしは氷川に案内をしてもらって、脱衣所を借りた。氷川には出てもらって鍵をかける。

 氷川の家はサッカー一色のようで、そこかしこに日本代表のユニフォームが飾られている。


 なるほど、一家そろってのサッカーバカだ。


 サッカーはなんというか、子どものメンタルを育てると同時に素直なままに保たせる。氷川が氷川の性格になっていることをなんとなく理解した。


 あたしはスカートを履きながら考えていた。


 もちろん、こっそりと足の周りの毛のチェックも怠らない。


 最近増えてきたし。


 チェックのスカートに、少し補正の入ったブラキャミに白のブラウス。あたしは本当にかわいい子だ、と鏡を見ながら再確認する。


 よし。


 あたしはやっぱりかわいい。


 もう今日はいくところまでいきたい。母さんには男友達との勉強会で遅くなると伝えてある。つくづくまじめに生きておくものだ。


「おわったよぉ」


 ガチャリ、とドアを開けてリビングにあたしは入った。


「お、おう……っと、おまえ、それ……」

「似合うでしょ」


 くるりっと回転してみせる。

 氷川の顔が見る見る真っ赤になっていく。

 そのまま、氷川が座っているソファーの前にたった。


「氷川」

「お、おう。なんだ?」


「あたしのこと、好きっていってくれてありがとう。あたしのことを受け入れてくれてありがとう」


 あたしはゆっくりと氷川に顔を近づけた。


「え?」


 氷川がややのけぞる。あたしはもっと近づく。


「ええ?」


 氷川の体がソファーの背にあたる。あたしはさらに近づく。

 まるで覆いかぶさるかのような体勢だ。いやそのまんま、あたしは覆いかぶさるつもりだった。


「あ、あの、上原」


 くちゅ。


 氷川の目は見開かれたままだった。


 あたしは彼の唇に唇を重ねて目を閉じた。


 舌を差し入れる。


 氷川の舌を探り出す。

 氷川の舌は固まったままだ。あたしは氷川の舌の側面を丁寧になぞる。

 氷川の体がビクンっと波を打った。


 そして戸惑いがちにあたしの舌に舌でふれた。


 あたしは舌をさらに絡めた。


 彼の体に右手を這わして、ハーフパンツの上から堅くなったそれをまさぐった。


「あぅっ」


 氷川の口から思わずため息が漏れる。

 でもあたしはキスをやめない。左手で彼の頭を抱えている。

 氷川の顔がさらに上気する。


「ねえ、氷川」


 あたしはやっと口を離した。


「もっと気持ちよくしてあげる」


 氷川は抵抗しない。

 そして。

 上気した頬とうつろな表情のまま。

 首を縦に振った。


☆☆


「氷川、もしかして。精通?」


 あたしは口の中に吐き出されたそれを、ティッシュにくるみながら聞いた。


「あ、なんだ、っていうか、あの、なにがおこった。めが、目がチカチカする」


 氷川は肩と体で息をしている。


「ああ、そうか。氷川のこれが一番搾りなんてね」


 あたしは笑って彼の隣に腰掛けた。


「わかんね、わかんね、今いったいなにが起こったのか、俺にはさっぱりわかんねぇ」


 なにが起こったかわかんねえといわれましても。とあたしは笑った。

 手で愛撫して、口で吸い上げただけだ。

 口を付けて2回ぎゅっと吸い込んだだけ。

 あっという間に出た。


「あはは。んと、お礼になったかなぁ」


 ガクガクとしている氷川の肩を抱えて、あたしの膝枕に横たえてあげる。


「気持ち良かったでしょ」


 体をさすりながら聞くと、彼はコクンコクンと二回うなずいた。


「すげえ、すげえ気持ちよかった。なにが起こったのかわかんない」

「うーん、歴史的な一瞬だねー」


 あたしは笑いながら言った。


「今のが射精。で、初めての射精のことを精通というって習ったでしょ?4年の保健体育で」

「ああ、ああ、これか、これが射精か」

「今日はさぁ、あたしにとっていろいろあった日で。氷川と友達になった日で。だからなにかしてあげたかった」

「あ、ああ。まじで気持ちよかった」


 ありがとう、と氷川は続けた。


「今日はさぁ、そんな感じでいちゃついていちゃだめかな」


 あたしは氷川の耳に口を近づけ、息を吹きかけながらささやいた。


「あとで、もう一回、し・て・あ・げ・る」


 彼の耳が真っ赤になった。

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小学生のあたしは気高き男の娘なので。 氷見ちゃん @heugamori

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