ある朝の日をのぞむ
Masumi Manyama
森の中で
大きな森の中に、小さな女の子が一人で住んでいました。
女の子のおうちは、家族が5人住めるくらい大きいものでしたので、毎日やることがたくさんです。女の子は毎日朝早くに起きて、まきに火をともします。カキン、カキン、高い音が森にひびきます。カキンカキン、カッカ。やがて音はやみ、あたたかそうな白い煙がえんとつから立ち上ります。すると、とびらがいきおいよく開いて、女の子が家から飛び出てきました。かた手に大きなカゴを持っています。
「おーい、朝だよ!おーきーてー!」
そういうと、ニワトリ小屋のとびらを大きく開けはなち、カゴに入ったエサをにわにばらまきます。しょくじに集まるニワトリたちの間を、女の子はくーるくるくーるくる回ります。おさないヒナたちがその後をいっしょうけんめいに追いかけます。
「うへへへ、くすぐったいよー」
かごのエサをまき終えると、また小屋に入り、たまごを2つ、そっとカゴに入れます。
「今日もありがとーう、ありがとーう」
たまごはほんのり温かくて、女の子のやわらかい手になじみます。ほんのりとわらのやわらかいかおりがします。
「うへへへへ」
森があまい風を受けてかすかにささやきます。
「おーい、おーい、いいこやおーい」
「おーい、おーい、さあ、優しい声を聞かせておくれ!」
女の子は真っ黒にすすけた白いスカートをひらひらはためかせながら、ゆらゆらにわをめぐります。その足の間を、ニワトリたちが大地にキスをしながら自由な朝をうたいます。
「コーコケッコー、朝よこい!お日さまお日さま待ち遠しい!」
「コケーコーコケーッ、ぼくらのいとしい朝よ、さあ顔を出しておくれ!」
女の子も、朝が大好き。たまごをもったまま、山の上を見上げます。
「うへへへ、朝がいっちばーん。お日さまは、まだかなあ?」
ブオォォォ
とつぜん、大きな風がみなををおそいます。
ブオォォォ
森がひめいをあげます。
「おーい、おーい。きしむよおーい。足が引っこ抜けそうだわい!」
「わたしの新葉たちがちってしまうよ!だれか、だれか!たすけておくれ!」
ニワトリの何羽かが羽をパタパタさせながらちゅうにうかびます。
「コケー!コケー!助けて!助けて!」
「空を飛べない鳥さんが空を飛んでいるわ。ふふふ。よかったね。わーいわーい」
女の子だけは、なんだか楽しそう。それでも、たまごの入ったあみカゴを大事そうに抱えます。
「あら、森さんがこわいこわいって言ってるわ。森さーん森さーん。だいじょうぶ?」
女の子のスカートには、真っ黒なすすの上から、今度は赤茶けた土がかぶります。お日さまはまだ出ません。
やがて風はやみ、ニワトリたちも落ち着いてエサをついばみはじめました。森もふたたびサラサラと穏やかになり、小鳥たちの楽しげなうたも聞こえます。
「コッコッコッコッ」
「ふふふふ。おいしいーい?おいしーい?」
カゴの上から、ふと近くにいたニワトリを抱きしめようとした瞬間、
「きゃーーー」
いたくおどろおどろしい声が森をつきぬけます。
べちゃ
女の子のすすだらけで、赤茶色の土のついたスカートに、今度は黄色いしみが広がります。
みるみる女の子の目に涙があふれます。すると、けたたましい泣き声が森にこだまします。
大きな声におどろいて、集まっていたニワトリたちも、いちもくさん。
「コケー!コケー!」
「コケー!コッコケー!」
あわてて小屋にもどっていってしまいました。しばらくして泣き声がやんでも、お日さまはまだ上りません。
ある朝の日をのぞむ Masumi Manyama @Maire
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