第5話 恋人、そして友達
「僕の名前は篠崎良太です。趣味はバスケットボールでバスケットボール部に入ろうと思っています。是非皆さんよろしくお願いします」
出席番号順に席をたち、その場で1人10秒前後で自己紹介を終えていく。
今はサ行、40人のくらすなので、どんどん僕の番にせまっていく。
そしてついに僕の番が来た。ゆっくりと席を立ち、緊張しつつ自己紹介を始める。
「僕の名前は松山乗丸です。趣味は読書やゲームです。是非皆さんよろしくお願いします」
幸いなことに僕の出席番号は後ろの方なので、出席番号が前の人たちが言っている事を真似てなんとか切り抜けられた。
こんな数十秒の自己紹介で緊張するのも直さないといけないな、彼女を作るために。
そう思うと、何故かキュッと胸が締め付けられた。
「彼女か」
◇
「え、なんでだ」
家に帰って彼女とは付き合い届けを出さないということを、僕が帰って来てからずっとにやにやしていた父さんに話すと、父さんはわけがわからないと思っているのが見ているだけで分かりそうな表情をした。
「お前なんで斎藤さんと付き合わないんだ? 好みなんじゃないのか?」
「わざわざ頼んでくれた父さんには申し訳ないけど、付き合うっていうのはそんなに簡単に決めていいものじゃないと思うんだ、お互いを知り、お互いが……その……愛し合っていて成立するものだと思うんだ。だから、僕はカップルごっこはやりたくないんだ」
「そうか、我が息子ながらいいこと言うな、でも俺も頑張ったんだけどなー」
「本当にごめんなさい」
「ハハハハ、なーんてねー、俺のコミュニケーション力だと簡単だったよ、お前とは違ってなー」
あーまたからかわれた。
でもこういうムードの時は父さんの悪ふざけがあるとすごい助かる。
でも、やられっぱなしは嫌なので言い返す。
「ぼ、僕だってそんなの簡単だもん」
「本当かー。でもお前、斎藤さんにも同じこと言って断ってきたのか?」
「まあ、うん」
「お前よく言えたなー、下級生と話すのでも萎縮してしまうお前が」
父さんに言われて気付いた。思えばあの斎藤相手に僕よくこんな事言えたなー。
それに斎藤はなんか他の人とは違く、初めてしゃべったのに話しやすかったな。
そこまで考えると少し泣きそうになった。
斎藤には嫌われてしまっただろうか。まあ、そうだろうな。
これまでは斎藤の笑顔を見るのが生き甲斐だったのにこれからどうしよう。
そうすると、まるで僕の心でもよんだように父が尋ねてきた
「あれ? 乗丸、後悔してんのか?」
相変わらずからかう口調で聞いてくる。
「してないよ、全然」
「ハハハハ、本当かー?」
斎藤と仲良くなれなくて残念だと言う気持ちはある。けれど、もし僕にもう一度同じことが起きても同じ答えを選ぶだろう。
「じゃあ自分の部屋に行くね」
「ああ」
そしてドアノブに手をかけると後ろで大きな叫び声がした。
「あ!!」
驚いて振り向くと、気まずそうな顔の父がいた。
「どうしたの?」
「悪い、お前が好みって言った三人全員にお前と付き合ってくれって声をかけたんだ」
「まさかそれで……」
「ああ、斎藤さんの他の二人にもOkをもらった」
まさか本当に同じことが起こってしまうなんてことは考えていなかったため、あまりに大きな驚きで大声を出してしまった
「ええーーー!!」
◇
「ピンポーン」
インターホンの音がなった。彼女が来ることは父から知らされていたので、制服を着て寝癖を直して学校にいく準備が終わっていた僕は不安や緊張を内にしまいこみ、ドアを開けた。
そこに立っていたのは黒髪で髪は首まで、優しそうな目でこちらを見た……
「さ、斎藤!」
「おはよう乗丸君」
「おはようって、何で僕の家に来たの?」
お詫びは僕が後でしっかりするつもりだったのに。
まさか文句を言いに。
「あの、昨日はごめんね。私、付き合うということを簡単に捉えていたよ。だから、私と友達になって」
斎藤はにこやかに笑いながら言ったが、僕にはそこに何故か不安があるように思えた。
「え、と、友達? なんで?」
「なんでって、友達になるのに理由なんかいるの? 仲良くしたいって気持ちだけが必要だと思うんだけど、私は乗丸君と仲良くしたい、だから友達になって。それとも乗丸君は私と仲良くしたくない?」
驚いた。斎藤が僕と仲良くしたいなんて、僕は昨日斎藤に申し訳ないことをし、すっかり嫌われてしまったと思っていた。
良かった、嫌われてなかった、その安心が僕の頭を支配し、
すぐに言葉を言わせた。
「ありがとう、こちらこそ友達になって」
「うん」
こうして僕と斎藤は友達になった。
僕の彼女は1人でいい 楽原 幽 @imosae
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