第15話◆初めての街◇
しばらく高速で移動し、森を抜ける直前で木の影に降りる。
なぜそのまま行かなかったかと言うと、この浮遊魔法がどれだけ珍しいか分からないからだ。出来れば目立ちたくはない。
門の前は商人や、冒険者達が並んでいるので少し離れた所で待つ。
数分待つと剣姫が来た。
「もういたのか!?」
「あ、はい」
「バーナバス達を抜かしてきたんだが……。それでも追いつくことは無理だったか。……君は人間か?」
「ちゃんとした人間です!」
「わかっているよ。それで、あの魔法は何だ?」
「浮遊魔法です。残念ですけど、ラビィの力を使わないとできないんです」
「君達は相性がいいようだな。聞きたいことはまだあるがバーナバス達が来たみたいだ」
『サーチ』を使ってみると確かに近づいてくるのを感じる。
しばらく待つと、木の間にバーナバスさんたちの姿が見える。
「遅い」
「はぁ……。はぁ……。いや、ヘスカトさん……? 約二十キロを本気で走ってきましたよ? それに、カマエさん達より……」
「どーも」
「あれ!? 走ってくる時いなかったのに!?」
他の人は疲労と驚きで話せず、バーナバスさんしか話せていない。
少し気分がいいな。
「私より早かったな。では、約束通りS-から始めようか」
「Sランカーって何か優遇とかあったりするんですか?」
「何が支給されると言うことは特にないが、依頼達成回数は月に一回で良くなる」
「下のランクだと多いんですか?」
ミランダさんが喋れるようになったのか、話に入ってきた。
「はぁはぁ……。私達Bランクは月に五回なんです。Sになると流れてくる依頼が難しくなるので回数が少ないんです」
「なるほど……。あと報酬とかは依頼次第ですか?」
「まぁ、それもギルドの受付から聞けるだろう。我々も街に入ろうじゃないか」
確かにそうだ。ギルドで聞けばいいものをこんな所で……。少しワクワクしてたからかもしれないな。
その後バーナバスさん達の息が落ち着くのを待って、ミランダさんに言われた通りに税を払い、街に入った。剣姫達は今回の依頼人の所に行かなくては行けないらしく、途中で別れた。
そして今ある事を聞いていなかったことで後悔している。
「ギルドどこだ……」
「……大丈夫?」
「多分? どうするかなぁ……」
人に聞くか? いや、周りは皆忙しそうだな。それに聞いたら金を取られるかもしれない。街の入口で、『サーチ』で探そうかと思ったのだが、もしかしたら街中で魔法を使ってはいけないかもしれない。ギルドに加入してない俺は言い訳できないからな。
などなど、色々考えた結果。
「とりあえず、街中の案内図的なのを探すか」
「ん。分かった」
「多分ここが一番広い通りだからこの奥に広場があったりするんじゃないか?それに結構大きいギルドみたいだからな。大通りにあるかもしれない」
と言う理由で歩き始める。『サーチ』も気付かれないように、五十メートルの範囲で薄く使う。
数十分歩き続けると、魔力が他の人間より高い人達が集まってる場所を感じとる。その集団がいる方へ道を曲がり行ってみると、八階建ての大きい建物が建っていた。
看板には『紅のギルド』と書いてあるのでまず間違いないだろう。
「ラビィ。入るぞ」
「おい」
「ん?」
急に肩を掴まれる。数人近づいて来るのは分かっていたが、この中に入るのかと思っていた。だが、どうやら違うらしい。
これはもしや……。異世界ファンタジーではテンプレの……。
「テメェ、いい女連れてんなぁ?」
「あー。やっぱり……。なんで絡まれるんだ……」
「あ? 何言ってやがるこいつ」
「紅のギルドは皆仲良いんじゃないのか?」
「はぁ? 欲しいものがあったら掴み取る。それが冒険者だろ」
それは盗賊だ。盗賊ギルドにでも入ってろ。
「ぞろぞろと、いつもこんなことしてるのか? さっさとやめた方がいいぞ。痛い目に会わないうちに」
「ゴチャゴチャうっせぇ! 俺達はAランクパーティーだ! 底辺の奴から何を奪おうと勝手だ! さっさとその女をよこせ!」
「やだ」
「ああ!? テメェ状況分かってねぇみたいだな……。お前ら! やれ!」
リーダーの様なゴツイ男の支持で魔法を打つ準備を始める。
普通は町の中で魔法使っちゃいけないだろ。ここは違うのだろうか?
とにかくギルドに入る前にここで、爆発とか起こしたらまた面倒になりそうだ。
こいつらには忠告通り、少し痛い目にあってもらおう。ラビィは渡さん。
「ほらよ! やっちまえ!」
火、水、石、風などの低級の攻撃魔法が飛んでくる。
俺はそれを一つ残さず、一歩も動かずに魔力で圧縮し潰した。
「な、なんだ!? 誰が魔法に何をした!」
「俺が潰したんだよ。さっきは散々言ってくれたよな」
俺は一瞬で男の間合いに入り込み、威圧をかける。
「ひっ……」
「強いやつは奪っていいんだよな?」
「い、いや……」
「じゃあ、お前から……。命を奪ってもいいよな?」
ここで、威圧を少し強くする。すると男は何も言えずに失神してしまった。
「はぁ。こう言うやつに絡まれないようにするにはどうすればいいんだろうなあ……」
「……お疲れ様」
「おう。まさかとは思ってはいたが、本当に来るとは思ってなかった」
「……それより中はいろ?」
「こいつらは置いといていいか」
その後、気絶した不良共は道の真ん中では邪魔なので、端に蹴って積んでおく。
入る前にチラッと見えたのだが、周りの人達が笑ったり喜んでいたりしたので相当悪さをして嫌われていたのだろう。
中に入ると受付があったのでそこに行ってみる。
「あの。このギルドに入りたいんですけど」
「ギルドに入団ですね。文字の読み書きは出来ますか?」
「はい」
そう言えばだが、この世界に来てから文字やそれぞれの種族の言葉は全て日本語に翻訳されているみたいだ。本とかを読んでいて、少し変な文章になっている所もあったので、間違いないだろう。
「お二人は夫婦ですか?」
「えっと……」
「……はい」
「では、こちらの紙に一緒に記入をお願いします」
ラビィさん? 夫婦って言葉に敏感なんですね。
渡された紙には、性別、使用する武器、魔法は使えるかなど、色々なことを書くみたいだ。
だがここで問題ができた。俺達の使う魔法はほぼ全属性。適性魔法なんてあってないようなものだ。Sランクの冒険者ならあるいは……。とも考えたが全属性は流石に英雄クラスな気がしたのでやめておく。
なので俺は水と雷。そしてラビィは氷と風。という事にした。
ラビィの武器化も全てなんて書いたら何が起きるか分からない。だが剣姫の前でも使ってしまって書かないわけにもいかないので、用紙には仕方なく杖と書く。
これでもかなり普通冒険者より強いな……。でも、どうせSランクだしこれくらいで誤魔化しながらいこう。
紙を書き終わると、丁度、剣姫が帰ってきた。
すると皆で、ギルド内にいた冒険者や受付さん達が一斉に挨拶をしていた。少し戸惑っていると剣姫に話しかけられる。
「やぁ、カマエ君。入団は終わったか?」
「いや、多分このままだと一番最初のランクからなんですけど。受付の人には伝えたんですか?」
「忘れていた……。それで、用紙は書き終わったのか?」
「はい」
「じゃあ貸してもらえないか? 私が代わりに行ってこよう」
「いや、大丈夫ですよ? 」
「この後は特に何も無いんだ。それに私の言葉でないと、どうせ皆が納得しないだろう。一人だけ心配な者がいるが、今はここにはいないし大丈夫だな」
剣姫が悩むほどの人間がいるのか。……なんでそんなやつ入れたんだよ。
「それ、大丈夫なんですか……? でも、ありがとうございます」
「私のことはヘスカトと呼んでくれ。軽くでも戦闘をして張り合い負けているのに、その呼び方は我慢出来ない」
「じゃあ呼び捨ては嫌なんで、ヘスカトさんと呼びますね?」
「最初から思っていたが、貴族みたいに話し方が綺麗なやつだ」
「変ですか?」
「はははっ、少し変だな。では嫁さんが威嚇してる事だし行ってくるよ」
「あ。こら」
「……だって……。楽しそう」
「はいはい。ほっといてごめんな」
そう言いながら、ラビィの頭を撫でてやる。こうするとすぐに機嫌が良くなるのだ。……この子チョロい。
俺は後ろから休憩所の様な場所に座ってヘスカトさんと受付の人が話しているのをぼーっと見ていた。
受付の人驚いてるなー。周りを見て見ると、聞き耳スキルみたいな物があるのか、数人が驚いて、こっちを見ている。何も無いといいなぁ……。
少しすると、ヘスカトさんが戻ってくる。
「これがSランカーのギルドカードだ。素材は黒魔鉱と言う物で作られていて素材費が高いため、再発行にお金がかかる。ステータスも見れるから無くさないように」
黒く光っていていいな。試しに魔力を流してステータスを開いてみる。
「開くのか。よかったら私にも見せてくれないか?」
「まぁ、ヘスカトさんだけなら……。誰にも言わないでくださいね?」
「もちろんだ」
この人ならまぁ、良いだろう。強く言っておけば性格的に誰にも言わないだろうし。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カマエ ヒョウト 人族
職業 冒険者 Lv.57
・スキル
全耐性Lv.MAX
鎌江流武具術Lv.- 鑑定Lv.4
・魔法
水(氷)Lv.6、風(雷)Lv.6
・加護
龍神の加護(魔眼として身につく。効果:魔力が見える)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
もちろん見せるのはステータス偽装をしてからだ。
「……君は一体何だ? 私はてっきり解放者か、それに近しい存在かと……」
「解放者?」
「そうだ。私も数年前に解放者になった。解放者と言うのはレベルは千を超え、ステータスが解放された生物のことを言う。英雄や賢者などは例外もいるがほとんどが解放者だ。冒険者や一部からはバケモノやら戦闘狂みたいな呼び方をしている者が多い」
「レベルはどこまで上がるんですか……」
「私が知っている限りでは、黄の賢者様だ。確か二千五百辺りだったはずだ」
一体どれだけの魔物を殺したらそんなレベルになるんだろうか。
流石にバケモノと呼ばれてもしょうがない。
「なんにしろ、カマエ君はこの世界のことを知るんだ。君はまだ弱い。英雄達が君を殺しに動かないことを願っているよ」
「……はい」
弱い? 俺が? レベル的な事だろうか。俺と剣姫は戦いでお互いに本気を出してないし判断しかねるが、他の英雄よりは……。という事だろう。
きっと英雄が殺しにくるのは、全ての国が俺を危険と判断した時だ。
ヘスカトさんは俺の力が悪い方向に進むのを心配してるんだろうな。
この問題に関しては力は使ってみたいが、人には絶対に本気は出さないから大丈夫だ。
「そうだ。ヘスカトさん」
「なんだ?」
「この辺で物を売る所といい宿屋はないですか?」
「道具やドラゴンの爪の様な素材系は三階で買い取る。宿屋は少し遠いからここの東区の地図を渡そう」
「ありがとうございます」
「……やっと宿」
ラビィの機嫌が一気に良くなったな。俺も浮遊魔法を使って少し疲れた。宿に行ったら少しラビィといちゃいちゃして寝よう。
その後はヘスカトさんが地図を用意している間に弱かったドラゴンの爪や牙、革などを売った。
やっぱりドラゴンの素材は高いのか金貨四枚を貰えた。日本円で四十万円と言った所か。
これで、宿で数日過ごせるだろう。無理そうだったら、また狩りに行こう。
一階に下りるとヘスカトさんが地図を持って待っていた。
渡された地図には印がされてあり、そこに宿屋があるようだ。
結構人気らしいが、連絡用の魔道具で一部屋取っておいてくれたらしい。仲良くなってよかった……!
「では、ヘスカトさんまた明日」
「ああ、これからよろしくな」
ヘスカトさんと別れ、ギルドを出る。
地図を見ると、この国は意外と広いようだ。中心に領主のいる屋敷があり、北区、東区、南区、西区と分かれているようだ。
間違えないように地図を見ながら歩いていると、俺の警戒用に張っていた『サーチ』に戦闘している者達の反応があった。
いや、正しくは、一方的にいたぶられてる感じだ。
こっちに来るな。多分ラビィも分かっているだろう。
「ラビィどうする?」
「……ヒョートは助ける?」
「逃げてる方が少し変なんだよな。人の魔力とは少しは違うような……」
「……これは獣人の魔力」
「こんな所にいるものなのか?」
「……こんな所にまでくるのは奴隷か、この大陸に逃げてきた奴ら」
「どっちだか分からないが、明日ここを通る時死んでるのを見つけるとかごめんだ。助けよう」
俺はいくつか曲がり角を曲がり、獣人のすぐ近くまで来た。
獣人の正体は黄色い耳と尻尾の小学生位の少年だ。
「何をしているんだ?」
「誰だ!」
「ただの冒険者だけど」
「はっ。だったらどこかに行け」
「いや、子供にそんなことしたらだめだろ」
「こいつは領主様の奴隷だぞ? 何をしようと領主様の勝手だ!」
「今助けてやるからなー」
「人の話を聞け!」
俺が声をかけると瀕死の状態の少年が急に叫びだした。
「人間なんかに……。俺は! 助けられたくない!」
「いや……。死ぬぞ?」
「死んだ方がマシだ!」
……逃げ出してきたんだよな? なんか理由あるんじゃないのか?
「俺は……。俺は……」
何かを呟きながら少年は倒れてしまった。
問題の匂いがプンプンするし、正直助けたくもないがつい口が動いてしまう。
「なぁ、あんた達。領主さんにもう殺したって言ってくれないか?」
「なぜそんなことを。お前はこいつの知り合いか?」
「いや。全く」
「なら、さっきも言ったがどこかに行け。俺達はこいつの血が見たい」
「狂ってるな……」
最初に来たのがこんな街とは不愉快だ。流石に限界だ。
「血が見たいなら、自分の血を見ろ」
身体強化をして、氷の剣を一瞬で作り出し、男共の首を飛ばす。
虐めていたんだから仕方ないだろう。
その後遺体を燃やし、殺した場所を綺麗に掃除し、少年は宿まで連れていった。
魔法を使ったのか、魔力が薄くなっていたので、魔力回復や体力回復のポーションを飲ませたりと深夜まで大変だ。
ラビィといちゃいちゃしたかったなぁ……。
異世界ってこんなに多忙でしたっけ? 色音れい @sikine_rei_cat
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