第14話◆剣姫VS氷兎◇
剣姫が叫びと同時にフランベルジュを抜き、飛び込んでくる。
ってか剣姫!? 世界最強の一角……。英雄と呼ばれる人間の一人だ。本当についていない。
全身を強化し避けることに徹する。ここで下手に攻撃なんかしたら、もっと間違われるだろう。
だが、剣姫が早すぎて攻撃が何発か当たり、切り傷になってしまう。『解錠』すれば余裕なんだろうが、あの攻撃力は出来るだけ人には向けたくない。ここら一体も更地になるだろう。
「何故攻撃してこない」
「だから、普通の人だからだよ」
「普通ならば、最初で死んでいたはずだ。私の剣技を軽々と躱していて何を言う」
「それは……。まあ、そうなんだろうけど殺す勢いの攻撃を受けるやつはいないと思うぞ」
「剣を抜け!ここからは本気で行くぞ!」
本気って……。敵にそういうことを教えるのは、優しいのか礼儀正しいだけなのかどっちなんだ。
宣言してからすぐに炎が腕と剣に集まっていく。
……あんなの食らったら流石に防御しても痛そうだな。仕方ないので剣を抜き魔力を繕う。
そして『金眼』も忘れずに開眼させておく。
「炎剣。……『炎舞』!」
一瞬で目の前まで来て切りかかってくる。
剣で受け流しているが、剣姫の剣に近い部分がチリチリと熱い。恐らくこれは、『氷華』と同じような効果があるのだろう。
それにしても速い。強化なしでは到底追いつけない。
仕方ない。話し合いをするには少し黙ってもらうしかないようだ。
英雄の一人だ。俺の魔法を食らっても大丈夫だろう。
火には水。水で剣姫の体を固定しよう。
俺は空気中に水を生成する。俺に操られた水は、極太のひも状になり剣姫に絡みつく。
「無詠唱か……くっ!」
切ろうともがいていているが、操っているのは水。切るどころが動きも制限されるため、抜け出すのに必死になっている。
絵面的にあっち系のアニメでよく出てきそうな感じだが、剣姫を拘束するために紐状にしたのだ。断じて実際にやってみたかった訳では無い。ラビィの前で破廉恥なことはNGだ。
「話を聞いてくれって」
「知るか! 殺すならさっさとやればいいだろう!」
「ミランダ、なんとかしてくれ! もう俺の手に負えない!」
「あ、は、はい!」
魔法を維持したまま、俺はラビィの方へ戻る。
「……おつかれ」
「ああ、疲れた……」
「な、なあ、君達」
「ん?」
振り向くと五人がこちらを向いて少し警戒している。
なんでこっちが警戒されてるんだか……。どっちかと言うと俺達が警戒する方だろ。
そう思っても仕方ないので、返すことにする。
「何か?」
「いや、ヘスカトさんと渡り合うどころか拘束するなんて普通の人ができる技ではないと思ってね。……君達は何者なんだい?」
「えっと……。名前は?」
どうやら喋りかけてきたのはこの男のようだ。……見た目や、雰囲気は一流の冒険者のようで、身につけている物の一つ一つがどれも高そうだ。
ランクも高いんだろうな……。
「ああ、すまない。僕達四人はSランクパーティ”銀の竜”なんだ。僕がリーダーのバーナバス。……で、そこの鎧着てるデカイのがプエルコ」
「誰がデカイのだよ」
「ただ単にデカイと思うけど、違う?」
「サウナ……。初めての人の前までそういう事言わなくてもいいじゃないか!?」
「いつものことじゃない」
「いつも、いじるなよ!」
「ふ、二人共〜っ! バー君止めてぇ……!」
何やら喧嘩し始めたな……。どこかの四人組を見てる気分だ……。
役職は、バーナバスとサウナと呼ばれた女性が、剣士。プエルコが、重戦士。もう一人の女性が、格好から恐らく魔導師をしているのだろう。
と言うかバー君ってなんだ。バー君って。なんかイラッとするからグーで殴るぞ?
少し時間が経ち、バーナバスがまとめ終わったのか、また話しかけてくる。
「すまない。いつもこんな感じなんだ」
「戦闘の時心配だな……」
「だ、大丈夫ですよ。皆、戦闘になると強くて頼りになるんですっ。私の出番なんてないくらいです」
「えっとー。ルミエさんは魔導師ですよね? それなら出番あるんじゃないですか?」
「えっとそれはですね。……ってあれ? 私名前言い忘れて、でも、あれ? あれれ??」
「えっと……。あ、名前を見れる魔法を使いました」
しまった。つい名前を言うのを待てずに『超鑑定』を使ってしまった。やはり、少し不思議がられるな。気をつけよう。
「偽造していたのに看破されて……。まさか『鑑定』の上位互換の『超鑑定』? それとも……。魔法書は読み漁って、大体の事は知っているのですけど初めてです! 教えて貰っても……」
と、言って目をキラキラさせながら近寄ってくる。
「……それ以上近寄らないで」
「ふぁう!?い、いつの間に……」
ラビィが、俺とルミエさんの間に入り威嚇をする。
威嚇をすると言っても、ラビィの威圧をもろに受ければおそらく気絶か運が悪ければショック死する。
その事についてはさんざん説明をして、教え込んだので頬を膨らまして立ちはだかるだけだ。
「あ、えっと。自己紹介してもらったんでこっちもしなきゃいけないですよね。俺はヒョウト・カマエ。それでこっちがパートナーのラビィです」
「パートナーって事は夫婦で冒険者になろうとしてるの? 服装も同じ様な感じだし」
「……そう。夫婦」
言い切ったな……。少し補足しないと勘違いされそうだ。
「えっと、サウナさんでしたっけ。夫婦というか、まだ結婚してないんですけどね」
「そう。後悔しないようにすればいいわ」
なんと言うか、サウナさんはクールな人らしい。少しばかりイラッとはしたが、流石に怒ることではないので何も言わないでおく。
「すまない。サウナは好きな人を亡くしててな。だからあまり、一緒にって言うのをよく思ってないんだ」
「なるほど。……俺達も十分に気をつけていきますね」
それから話す内容は無くなり、じっと待っていると、ミランダの声が聞こえた。
「ヒョウトさん! もう、大丈夫なんで、魔法解いてもらっていいですか?」
確かに少し前辺りから、無理やり出てこようとしていないので、操るのをやめる。
剣姫がびしょ濡れなので、『クリア』を使い、水や汚れなどを全て綺麗にする。
「邪神教と間違えた上に綺麗にしてもらってすまない。君は無詠唱で魔法を使うのだな」
「分かってもらえればいいですよ。おかしいですか?」
「いや、おかしくはない。だが、珍しい。無詠唱と言えば難しく、かなり時間をかけないと出来ない。だが、君は……」
「まぁ、そこら辺は秘密で」
「そうか、きっと思い出したくもないくらいの修行をしたのだな……」
やっぱり、変な勘違いしているがそっとしておこう。
「とりあえず無詠唱は置いといて、冒険者になりたいんですけどどうしたらいいですか?」
「そうだな。……まず、我々の【
「『いいのか?』と聞くということは、他にあるんですか?」
「ん? 知らないのか? あの強さでこの無知さは危険な気もするが……。いいだろう。他に聞きたいことがあったら、構わずに聞いてくれ」
「ありがとうございます」
「この世界には多くのギルドがあるが、特に大きく分けると三つのギルドがある。まずは、我々の【紅のギルド】我々のギルドは同ギルド内での、争いは必ず話し合いから始め、決まらなかったら一体一。又は同じ数での戦闘を行い、白黒はっきりとつけるようにしている。この他にも決まりはあるが、私の思いは家族の様に安心でき、争いの無いギルドにしたいと思っている」
結構、仲間思いななんだな。
他の二つも聞いてみないと分からないがここが一番いいな。
剣姫は続けて喋りだす。
「次は【
苦笑いしながらそう言った。
蒼はないな。ラビィといる時点でソロは絶対に嫌だからな。それに、争いとかは勝てるだろうがあまり好きじゃない。
少し間を置いてまた、剣姫は喋り出す。
「最後のギルドだが、私的にはあまりオススメは出来ないな……。
名前は【
「変な噂ってなんですか?」
「邪神教に所々味方していると言う噂だ。その他にも色々聞いたな。他にも小規模の冒険者ギルドがある。その全ては冒険者総合ギルドによって管理されている」
邪神教か……。今後【黄針のギルド】には気をつけておいた方が良さそうだ。
「ありがとうございます。俺とラビィは【紅のギルド】に入ろうと思います。ラビィいいか?」
「……ん。それよりはやく町に…」
「分かってるよ。この件で少し遅くなるけど」
「そう言えば、四千テーヴァは持っているんですか?」
ミランダさんが何やらまたわからない単語を……。持っているかを聞いたってことは道具か通貨だろうか?
「いや。……無いけど何かあるのか?」
「町の門番に、ギルドカードか通行証を持っていないと税として、取られるんです。なので今回のお礼です!」
そう言って、銅貨四枚を渡してくる。ここのお金の名前はテーヴァなのか。
「いやいや。そんなお金が欲しくてした訳じゃ……」
「いいんです。いつか私が強くなった時はあなたを逆に助けますからっ。その時返してください?」
……ミランダさんかっこいい。……こんなキャラだったか?
「じゃあ、ありがたく貰います」
「はい!」
「よし。それでは、今回のドラゴン討伐はカマエ君が済ませたから帰るとするか」
「え。なんかすみません」
「いや、あの大きさで中々見つからなかったんだ。逆に助かった」
「では、先に行っていてもいいですか?ラビィがもう待てなさそうなので」
「そうだな……。せっかくだし私以外の全員で誰が早く着くか勝負しないか? カマエ君たちがミランダ達より早ければBランク。バーナバス達より早ければSランクにしよう」
「入って急にそんなランクでいいんですか?」
「私と張り合った者を、低いランクにしておく方が危ないと私は思うのだがどうだろうか?」
「……分かりました。ありがとうございます」
「さぁ。始めるぞ?皆いいか?」
どうしようか。多分一位にはなれるが、あえて手加減した方がいいのか?
いや、やっぱり取ろう。高いランクの方が何かと便利だろう。
ラビィを見たが、勝ち負けどうこうよりも早く町に行きたいようだ。
全員が横に並び、やがて剣姫の声が響く。
「スタート!!」
俺とラビィ以外の全員が地面が弾ける程の力で走り始める。
だが、俺達は少しだけ違う。森の中を走る? そんなクネクネ走っていては方向も分からなくなってしまうし何よりめんどくさい。
焦らずに、俺は剣姫に質問をする。
「魔法使っていいですよね?」
「ルールを決めていないしな。それよりいいのか? 出遅れてるぞ?」
「大丈夫です。ラビィ。……『杖に』」
「ん。負けない」
「ほう。……杖のスミスだったか」
いや、全部です。内心そう思いながら、剣姫さんに少し注意しておく。
「では、少し離れてくださいね?」
「む? 私に注意か?」
「ええ。まぁ……。この魔法は」
俺は風を操る。薄く頑丈な風の膜を纏い、そして別の風で体を浮かせる。
「まだ制御が微妙なんです。それでは、いってきます」
そう言葉を残し、爆発するように垂直に飛び上がり方向に気をつけて移動を開始する。少し安定してきたら一気に加速する。
数分もかからずに、街に入るための門が見えてくる。
今更だが、こうして上からこの世界を眺めると木や草、動物、地形までもが日本と全く違う。
「皆、どうしてっかなあ……」
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