第13話◆◇やはりこの世界は俺に優しくない
短期の練習が無事終わり、俺達は地上に戻る準備をしていた。
魔力回復用のポーション、解毒薬、投げナイフなど。全てひつじが作ったものらしい。
それら全てを『アイテムボックス』に入れる。
「この三日でそこまでスムーズに使えるようになるとは見事でございます」
「『アイテムボックス』は基本魔法じゃないのか?」
「そうでございます。ですが、魔法学校でしっかり習わないと、独自で勉強しても普通の人間は上手く使えないようです」
「そうか。……よし、ラビィも用意ができたようだしそろそろいいか」
後ろを向くとジト目気味のラビィが立っている。
夜に相手をしなかったから拗ねているらしい。
「まぁ、ラビィ、地上に行って少ししたらな……?」
「……約束」
「ああ」
そう言うと腕にキュッと抱きついてくる。何この可愛い生き物。
幸せだなぁ……。好きな人と夜の話するとか一生無いと思ってたからな。
羊がいるのを思い出して、ふと我に返る。
「丁度準備が整いました。グッドタイミングでございます」
「そ、そうか」
まるで俺達が、見つめ合うのが分かってたみたいな言い方……。どう反応したらいいのやら。
まあ、いいか。床に魔法陣が光っている。やっと地上に戻れるのか。
「カマエ様これを」
「これはチャラ男の……」
ヒツジから渡されたのはチャラ男が使っていた剣だった。
「冒険者であるなら武器を持っていた方が良いかと思いまして」
「……分かった。貰っていこう」
最初はあいつが持っていたので、正直使いたくなかったが冒険者で素手と言うのも変だろう。仕方ない貰っていくことにしよう。
何か変な能力がないか心配になり、俺は『超鑑定』を使って調べてみる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『聖王の
・効果
自分が敵と認識した物体以外は刀身が透過し、貫通することが出来る。
魔法を断ち切れる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……とんでもない剣だった。
チャラ男、剣の練習しとけや。これ使えよ! 見た目も格好良いし!
もしもこれを使いこなしていたら、魔法が主軸の俺は死んでいただろう。あいつ馬鹿だな……。
剣の効果も確認したことだしそろそろ行くか。
「……その陣に乗ればいいのか?」
「はい。ですが、隠し迷宮ですので必ず渓谷、森林、砂漠などのあまり人が近寄らない所へのランダム転移になります」
「分かった。色々と世話になった」
「いえいえ、私も賑やかな時を過ごせました」
こんな奴だが、短い間一緒にいたら、妙にまた会ってもいいかと思えてくるから不思議だ。
「今度会いましたら、ラビィ様とのHな話をして頂けた……」
「吹っ飛べ」
前言撤回。次なんか会いたくない。
簡単な複合魔法をお見舞いしてやる。作り出したのは水素と火で水素爆発だ。
爆発する前に、俺とラビィは魔法陣に飛び込む。
視界が真っ白になり、徐々に見えるようになっていく。
転移された先は森林。いや、ジャングルだった。
「さて、ここどこだ」
「……分からない」
「どっちに行くか……。あ、ジャンプしてみるか。ちょっと離れててくれ」
「……ん」
「よし。……よっと」
俺は足に魔力を集中させ軽く地面を蹴り、上に二十メートル程飛ぶ。
周りを一周見回すとかなり離れているが、大きい街が見える
この距離だったら明日の昼には着きそうだな。
体が落ち始めたので風の魔法で少しずつ降りていく。
「……何かあった?」
「あったぞ。結構でかい街だ」
「……遠い?」
「明日の昼くらいには着くんじゃないか?」
「……走れば?」
「え? 走れば……今日の夜には流石に着くと思うぞ」
「……じゃあ走る 今日の夜したい……」
もうダメかもしれない。欲が理性をフルボッコだ。
俺の中の天使も悪魔と仲良くなっている。
……走ろう。
「魔物がいたら戦っていいか?」
「……ん。すぐ終わるから」
「じゃあ行くか」
そう言って俺達は足を強化して走り出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
走り出してから数時間。出会う魔物はチビドラゴ、ワックドラなど全てドラゴン系の魔物だった。
ここはドラゴンの生息地なのだろうか?
レイアル王国の近くにはこんな場所はなかったはずだが……。
練習ついでに走りながら魔物を屠っていると、ラビィが話しかけてくる。
「……ヒョート」
「どうした?」
「……あれ」
少し止まり、ラビィが指を指した方を見る。
そこには、今までの奴らよりも数倍大きいドラゴンがいた。家が一つ動いているような感じだ。
だが、迷宮の魔物と比べるとまだ弱い。
ドラゴンがどうかしたのだろうか? ラビィが魔物の位置を教えるなんて珍しいな。
「でかいドラゴンだな。あれがどうした?」
「……違う。アレの前の木の根元」
「人? なんでこんな所に」
「……ほっとく?」
「んー……」
俺よりも少し年上くらいの女の人が襲われていた。
あのドラゴンで剣の練習したいし助けるか。
「助けてくるよ。経験値も欲しいし」
「……ん、分かった」
俺はドラゴンに気づかれないように魔力を抑えて走る。
ドラゴンまで、十メートル位の所まで来たので剣を抜く。
女性を襲おうとしているドラゴンの首に十分の一以下の強化で攻撃する。
「鎌江流剣術『氷閃』」
その斬撃は首を
……やり過ぎたか。魔法を少し覚えたのはいいが、調節が難しい。
この技は切った所を凍らせると言う技で意外と強力だ。羊に『なにかすぐに覚えられる魔法はないか』と聞いた時に武器に付与させるやり方を教えてもらい、できた技だ。
よし、このドラゴンを解体してさっさと行こう。
「ラビィ、尻尾の方から頼む」
「……ん」
解体していると結果的に助けた女性に話しかけられる。
何だよ。かまちょかよ。
「あ、あの! 助けてもらって……。ありがとうございます」
「いや、別に。このドラゴン倒したかっただけだから」
「そ、そうですか……でもお礼を!」
「いいです。もう行きますね。名前も知らないし」
「……ヒョート。そんな風に無下にしたらダメ」
「まさかラビィに突っ込まれるとは……。はあ、名前は?」
「Bランクパーティー【バルキリー】のミランダです。私がお礼と言っても何が出来るか分からないですが……」
おお、パーティー。それによく見たら短剣を数本持ってて、女性用の軽装備をしいる。冒険者とかなのか?
お礼を困ってるみたいだしここの事とか話してもらうか。
「ならミランダ。……さん?ここはどこだ?」
「あ、ミランダでいいですよ」
「そうか。じゃあ教えてくれるか?」
「はいっ、でもそんな事でいいんですか? 有名な樹海ですし……」
「あーえっと……。ここの地域がどこかも知らないんだ。頼まれてくれないか?」
「ここが分からない……。まさか記憶喪失っ! だ、大丈夫ですか!?」
……助けない方が良かったか? 面倒臭い……。今確信した。絶対長くなる。
「いや、俺達は記憶喪失じゃ……」
「大丈夫です。私がいます! スタータールまで必ず送り届けますから!」
「話を聞けッ! 違うっての!」
正義感……。なのか? 何なのか分からないが、途中で逃げることをラビィに伝える。
この意見はラビィも同じ思いだったようで、すぐに了解を貰えた。
「ここはA+級危険地帯ドラシュバル原森林。帝国領です」
「帝国領か。結構遠くまで来たな……。王国領に行くには?」
「冒険者の街スタータールを通って、もう一つ街を越えれば検問所があります。そこで通行料を払えば王国領です」
「このドラゴンの素材とかは金になるのか?」
「えっ? 知らないで倒したんですか……」
「倒しちゃいけなかったとか無いよな……?」
「まさか! このドラゴンは雷地龍と言われていて、討伐ランクはSランクに指定されてる危険種です!」
名前が恰好いい! Sランク指定されてるって事はこの素材を売ったら結構な値段になりそうだ。
「なあ、何でそんな危険なところにいたんだ?」
「ああ、それは……」
ミランダさんが話しかけようとした時に俺の『サーチ』が、人の存在を捉える。
人の存在と言えど、ここは立派な狩場だ。歩いているなら見逃していた。
だが、複数人でかなりの速さで迫ってくる。
「五人、いや、六人。敵か……?ラビィ、どう想う?」
「え? え? なんですか? 何二人で話してるんですか?」
「……すぐそこまで人が迫ってる」
「ああ! 来てくれたんですね! ギルドの皆です」
「なら大丈夫か?」
「はい! みんな優しいので!」
それから数秒も経たずにその六人が草木から姿を現す。
六人のうち五人は圧倒的にミランダさんよりも強いのがわかる。
その中で最も強く、綺麗な女性に殺気をぶつけられる。
魔力の量が異常だ。本気を出されたら押されるかもしれないをやぬすすその、女性の放つ殺気で後ろの人達やミランダさんも喋れないようだ。
「何でそんなに殺気を出しているんだ?」
「私の威圧を受けて平然と……。その黒服。邪神教徒の幹部か何かだろう」
おい、クソひつじ。お前のせいで……!! 本気で呪うぞ。
にしても綺麗な人だ。髪も目も装備も全て真っ赤だ。
……ラビィに少し睨まれたので話を進めよう。
「普通の人だ。これから冒険者になろうと思っている」
「黙れ。今屠ってやる。我が名は剣姫、ヘスカト・マリダヴェル。……行くぞ!」
話が通じませんでした。
今バトルが始まる! 的な感じか? はぁ……。
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