10 秘密

「マドカ殿、皆さんに話があるので都合の良い時間に集合をかけてください」

 

 町に付き、盗賊達を引き渡したところで、リットさんから声をかけられた。

 まあ、どんな話かはだいたい予想はつくが。


「商売の都合もあるので、明日の朝でいいですか?」

「ああ。この町を出る前ならかまわない」


 一晩、それだけあれば十分だろう。




「で、話ってのは、アタシらとお別れってことかな? 近衛騎士リティリシア=ブカーム辺境伯令嬢」

「なっ!?」

 サクラさんの言葉に、露骨に驚くリットさん。

「身を隠してるつもりなら、お粗末に過ぎるな」

 一晩経った朝の宿。

 昨夜一晩での情報収集でも、それなりの情報は集まった。

 ちなみに夜は商売しているとはいえ、オレ達も町や村では宿に泊まる。

 仕事明けの朝は寝るし、各種家事をしてもらえる宿はありがたいのだ。

 なお、寝るだけの格安宿は避ける。

 町の中でまで、泥棒やらに警戒はしたくない。

「金髪の美人女騎士。立ち居振舞いからおそらく貴族。これだけで、名前と役職まで一発でわかった。なかなかの有名人だな」

 サクラさんが楽しげに笑う。

「そんな近衛騎士様が守る黒髪の10歳の少女となれば、自ずと誰なのかわかります」

「イチノ=ニア=リライア王女様かぁ。まあ、王女様がボロなローブかぶって、辺境にいるとは思わないよね。事情を知らなければ、だけど」

「サクラさんが面倒がって、政治方面の情報を最低限しか集めないなんて言わなければ、王女様の外見くらいは事前にわかったんですけどね」

「だって面倒だろ? アタシらの目的は安全に周遊する事なんだし」

「倉敷さんはむしろ、政治方面の情報を欲しがっていると思いますが」

「だからこそ、避けるんだろうが。知らなければ、面倒に巻き込まれないんだから。お前らだって、自分たちの情報が原因で日本がヤバい判断下したら嫌だろ」

 わいわいと話ていると、ようやくリットさんが立ち直る。

「ち、ちょっと待った! 待ってくれ。その、何から聞くべきかーー」

 立ち直りはしたが、まだ整理のつかないリットさんを制するように、チノちゃんが一歩前に出ると、ローブのフードを降ろした。

 ……その場の全員が、ピタリと制止し息を飲む。

 まず目に入るのは、サラサラと流れる長い黒髪だろう。

 元々日本人のオレ達は黒髪は見慣れているはずだが、それでも感嘆の息が漏れる。

 烏の濡れ羽色なんて表現があるが、まさにこの事かと生まれて初めて実感した。

 そして白い肌に、整った顔立ち。

 とても10歳とは思えない、威圧感にも似た迫力の様なものを感じる。

 これがカリスマって奴だろうか?

「改めて自己紹介をしますね。イチノ=ニア=リライアです。いままで通り、チノと呼んでいただけると嬉しいです」

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聖女《マドンナ》たちの幻想曲《ファンタジア》 猫謳歌《キャットウォーカー》 @Kazuki-mizusawa

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