第33話 Endlose Schlacht...。【終わりの見えないない戦い】
「ハァ~俺たちなんとか生き延びたな」
「あぁでもでも――」
「言うな」
「ごめん」
「たくあのクソ司令官休ませろよな~」
「確かに、装甲車の整備をしろとか」
倉庫にて兵士たちは愚痴を溢しつつも命令に従って見張り、及び整備を行っていた。
カッカッカカカッ! カカッ!――ガチャ! ガチャガチャ! ガチャ!
「む? おいなんか聞こえないか?」
「ん? ホントだな、何の音だ?」
「誰かいるのか?」
兵士の一人が自分たちは重火器を手に、恐る恐る音のする方へと近づいていく。
「なんで、こんなところに!」
「知るか! 撃て、撃て!」
「バカ! こんなとこで撃ったら跳弾するわ!」
そこにいたのは ラフムであった。
どうやって入ったのかはわからないが、奴は装甲車を食っていた。
「ともかく、すぐに連絡を――!」
ギロリと赤い灯火がこちらを向く。
兵士の一人が慌てて拳銃を撃つ。幸い跳弾はしなかったが、やはり普通の銃弾では傷一つつけられないようだった。
もう一人の兵士が警報をならし、彼はマイクへと向けてで全車両に伝えた。
「第6車両にてラフム一体を確認至急応援を求む!」
「ん?」
先程渡された銃を軽く調整しながら病室のベッドに座っていると兵士たちがあわただしく通路を走っていくのが目に止まった。
「何があった!?」
アデルは医者が目を離している隙をついて外へと出ると兵の一人を呼び止め、状況を確認する。
「あ、はいラフム一体隠れていたようです」
「何!! ……分かった俺も行く」
「無茶ですそんな体では、それにこの命令は我々の部隊に与えられたものです」
「そうか、なら勝手に行く。その銃借りるぞ」
「え? ちょっとアデルさん!」
「どうしました?」
廊下でのやり取りに気づいた医療兵の一人が医療室から現れ、立ちすくむ兵士へと問い掛ける。
「アデルさんが」
「え!?」
アデルの看病をしていた医療兵は彼からの話を聞いて慌ててアデルのベッドを確認すると素早くデスクへと向かい、通信機を繋げると司令室に通信した。
「こちら医療室です。実はアーデルベルトさんが――」
「そうですか……えぇ分かりました。彼に関しては私の方でどうにかしますので、貴方は自分の仕事を頑張ってください」
『了解しました。通信を切ります』
副官は通信機のスイッチを切り、大きく溜め息をつくといまだに煙を吸っている上官の方へと向かい、指示を仰ぐ。
「どうします?」
「増援を送れ」
「は? 増援をですか?」
「そうだ何度も言わせるな。今、奴に死なれては困る」
「困る……ですか」
「そうだ、わかったらさっさと兵士どもを叩き起こして戦いに加わらせてこい!」
「分かりました。では今すぐに」
副官が駆け足で部屋を出ていったのを確認した上官は大きく煙を吐き出すと
「そうだ、後で命令無視ということで何かしら処分をするとしよう」
そう、嬉しそうに呟いた。
◇
『ふふ、あいつに少しばかり私の仕事を押し付けるのも悪くはない……それともあれをさせるか? ……まぁとにかく奴は使える。もっとこき使ってやるとしよう……フフフフ』
司令官の笑い声を扉の向こうから聞いた副官は呆れて溜め息をつく。
「はぁ~無能な指揮官を持つと苦労する。……まぁ彼ほどではありませんが、今度博士に何かしら頼んでおくとしましょう」
副官は小さく小さく呟きながら先へと急いだ。
警備係に当たっていた兵士たちは連絡のあった車両の二つ前で待機していた。
「私が現場を任された臨時指揮官のホンク三等軍曹だ。我々はこれより第6車両へ前進する。敵の姿は一体だけのようだが、油断は禁物だ。いいか?」
「「了解!」」
「違う! “サー”だ! それからもっと腹から声を出せ!! いいか? 貴様ら!」
「サー、イエッサー!!」
「よぉし! ケツの穴を引き締めろ! これより突入するぞ!!」
「「サー、イエッサー!!」」
兵士たちはマシンガンを手にするとセーフティーを外し、前進する。
空の車両を抜け、一際広い車両へと。
「よし、先行部隊。突入せよ!」
「サー!」
軍曹の命令に従い、四人の兵士が先に確認に向かう。
手にしたカードキーを用いて扉を開けたその先の車両へと彼らが向かうと敵の姿はない。
「……ラフムはどこだ?」
『こちら先行班』
『どうした?』
「ラフムが見当たりません。探索の結果、車両の壁が喰い破られています」
『何? よく探せクソ共! 壁に穴があるということは確実に敵は存在しているぞ!』
「イエッサー……え?」
ふと、先行した兵士たちを影がおおい、目標(ターゲット)が姿を現す。
「な!! こちら先――グハ……」
触手のように波打つ尾が、兵士の腹を貫く。
『どうした? おい、どうした? 返事をしろクソ共!!」
通信機の先からは軍曹の叫び声が聞こえ、地面に転がった通信機の音に反応したラフムはそれを踏み砕いた。
「クッ! 我々も突入する!! しくじるなよ!」
「サー! イエッサー!!」
兵士たちは銃を構え、隊列を組むと雪崩れ込むようにして突入する。
「敵発見! 前方、数1!!」
「よぉし! お前ら! 気合いいれろ! アデルがこっちに来るそうだ。だが我々が負傷者たる奴に頼るわけにはいかん! 速攻で片を付けるぞ!!」
「サー!イエッサー!!」
「よぉし! 射線上にいるバカ共、生きていたらは身を屈めろ! …よし、構え! 一斉に放て!!」
「サー!イエッサー!!」
戦車の装甲を軽く貫く無数の弾丸が轟音と共に飛んでいく。
ラフムはそれをものともせず突進すると隊列の中央に向かって突撃、倒れてた兵の腕ごと銃を破壊する。
「グァァァァァァ!」
両腕から血渋木を巻き上げながら兵の一人が叫ぶなか、軍曹がライフルを振りかざすとラフムを吹き飛ばす。
「泣き声だけは一人前だなクソッタレ! おいそこのお前、奥へ連れて撒き散らしたクソ穴に蓋をしてやれ!」
「サー!」
二人の兵が扉の奥へと消えていくのを尻目にラフムの方へと向き直るとラフムはちょうど起き上がろうとしていた。
「手を休めるな! クソ共!!」
「サー!」
「そうだ。クソが本物のクソになりたくなけりゃあ奴のケツにありったけの鉛を食わせてやれ!!」
「サー!イエッサー!」
銃の轟音と軍曹の叫び声が周囲に響き、ラフムはうめき声を漏らす。
「ほら見ろクソ共! 奴は手負いだ。だが気を抜くな! 手負いの奴は最も面倒なクソになってるぞ!」
軍曹の叫び声を掻き消すように咆哮する。
「うぁぁぁぁぁぁぁ」
その声に怯えたのか錯乱した一人の兵が悲鳴を上げながら銃を乱射する。
「おいこら止めろ! 新米(ルーキー)!!」
軍曹が慌てて銃を取り上げ、素早く兵を突き飛ばすとその兵の頭があった箇所にラフムが飛び掛かって来る。
「クソが!」
軍曹は素早くライフル先に取り付けていたサバイバルナイフを突き刺し、振り上げるとちょうど避けたラフムの尾を切り飛ばす。
同時に軍曹の右腕が食われ、彼は全身から油汗を吹き上げらせる。
「クソ、クソ! テメェの頭(どたま)をかち割ってその肉をディナーの一品に並べてやる!!」
残りの弾を全弾ラフムへと向けて撃ち込み、リロード出来ない事に舌打ちつつ軍曹はナイフを何度も何度も突き刺そうとライフルを突き上げる。
「軍曹! 離れて!」
「黙れクソ共!」
軍曹はライフルが中央から砕かれるのを見てすぐに腰のナイフを取り出すとラフムへと飛び掛かり、ラフムへと噛みつくとその足を何度も何度も突き刺していく。
「クソ! クソ!! ガァ!」
暴れたラフムは壁へと激突、メキリと鈍い音が軍曹の体に響き鳴り、同時に彼の全身から力が抜けていく。
「軍曹!」
「ハァ……ハァ……テメェら、手を休めるなあのクソを殺せ息の根を止めろ。ハァハァ……いいか手を止めるんじゃねぇ……ぞ……」
現場司令官である軍曹の手から力が抜け、彼の目が閉じて彼の体から力が抜けるのを見て現場副指令官を任されていた兵は拳を強く握り締めると銃を手にとり、指揮をとった。
アデルは第6車両へ到達すると目の前に広がるのは赤い世界。
辺り一面に広がる血飛沫が部屋を赤く染め、地面には血だまりを作っている。
「うあぁぁぁぁぁ!!!」
「――クッ!」
アデルは身を屈め、自身に向かってきたアーマピアス弾を避けると同時に兵士の悲鳴が車両内部に響き渡る。
弾の飛んできた方向へ目を向けるそこには一人の兵士が襲われていた。悲鳴を上げた先程の兵士だろう。
彼は目を見開き、血だまりの中に倒れている。
その身体は鋭い爪や牙に引き裂かれたようにボロボロで腸(はらわた)の中身が剥き出し、散らかっている。
アデルも仕事柄様々な死体と出会ったが、ここまで酷いものは目にしたのは珍しく僅かに動揺した。
その隙を察したのかラフムが物陰から飛び掛かってくる。しかしアデルはその気配を察知し、攻撃を避けるとすかさずラフムへ向けて発砲する。
複数の弾丸が命中するが、ラフムは仰け反ることもなくその場で咆哮する。
「クッ……まだ死なないか」
鼓膜が破れてしまいそうなその鳴き声にアデルは顔をしかめつつもそばに倒れていた兵士からマガジンを受け取り、素早く弾を再装填(リロード)。
再びラフムへと向けて発砲する。
脚部に命中した無数の弾丸は奴の脚を引きちぎり、奴はバランスを崩してその場へ倒れる。
好機と見たアデルは赤く光る瞳に向けてありったけの弾を撃ち込んでいく。
弾が尽きれば素早く落ちているライフル銃を手にし発砲。
発砲、発砲、発砲、発砲発砲発砲発砲発砲発砲発砲!
全ての弾丸を仇とばかりに撃ち込み、彼は息を荒げながら引き金から指を話す。
そしてほんの僅かな時間の後、バランスを取り戻したラフムはゆっくりと立ち上がり、
キキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!
甲高い金切声を上げると血だまりの中に倒れ、赤い瞳から光が消えていった。
「ハァ……ハァ……ようやくか……」
ラフムが絶命したことを確信したアデルは緊張の糸を緩め、銃を杖のようにして肩で息をする。
そしてすぐ後にぞろぞろと兵士たちが銃を構え、やってくるとラフムが倒れている事、アデルはいることに気付き彼らはアデルの元へと近づいていく。
「アデルさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……ぁ……」
アデルは兵士たちが来ている事に気付き、小さく頷くと彼はふらつき、前へ進もうとするも倒れている兵士に足を躓き、バランスを崩す。
「アデルさん!?」
兵士の一人が慌てて彼を支える。
「グゥッ!」
アデルは大きくうめき声を上げ、それを聞いた兵士たちは驚き、慌てる。
「アデルさん? アデルさん!?」
「お、おいおいマズイんじゃねぇか?」
「はっ! まさか傷口が開いて……誰か早く担架(タンカー)を!」
兵士の叫び声がアデルの耳には遠く聞こえ、そして彼は気を失った。
Leben oder Sterben Sheik @Konpaku_nana4
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