第3話
さて奮戦空しく使徒に食われたわけですが、滅びた世界のことなんどすっかり忘れて、次はいよいよドラゴンボールですよ。
ええ、もはや説明は不要の名作『ドラゴンボール』の主人公である孫悟空の必殺技。
かめはめ波を出す為に僕は件のブースへと向かいました。
エヴァ程ではないですがこちらもなかなかの賑わい。
気のせいか外国人の方々が多いように見えますね。
さすがはドラゴンボール。 やはり人気は海外でもあるようです。
さてスタッフの方にチケットを渡し、VRを装着しました。
これは出てきた敵に対してかめはめ波をおみまいする至ってシンプルなゲームなのですが、技を出すためには正確な体勢で気を溜めなければなりません。
これがうまくできないとかめはめ波が出ないということらしいです。
しかしこれが意外に難しい。
なにより、VRを被っているとはいえ視線をものすごく感じるのです。
その中であの構えをしっかりと行って出すのは気恥ずかしいこともあって中々成功しません。
やはり他の日本人プレーヤの方々も恥ずかしいのか構えがいささかコンパクトになっております。
その点、外国の方々はオープンですね。
構えは微妙に違いますが、みなさん一生懸命かめはめ波を出そうと努力しております。
これはいかん。 いや、いけませんね。
本場、JAPANNの国の人間として、わざわざこの美しい国にやってきたのですから、大本たる日本人として正しいかめはめ波を見ていただかないといけません。
これは日本人たる私の使命、いや神命でしょう。
よろしいかな? 異国の人たちよ、完璧なるかめはめ波をいまからお見せしましょう。
さて背筋を正し、VRを装備します。
おお! 目の前に広がる荒野、そして立ちはだかる敵。
いやがおうにも気分が盛り上がってくる。
さて画面の説明通りに構えるとしましょう。
……あれ? これ難しい。 それと結構恥ずかしい。
見るとやるとではこんなにも違うのか?
焦れば焦るほどにかめはめ波はでない。
ま、まずい、このままでは大恥か
いてゲームオーバーだ。
気分は油断したらセルに仲間をぼっこぼっこにされてピンチになった悟飯の気分だ。
もしくは「お前の出番だ!」とかドヤ顔で宣言して予測外した悟空だ。
だ、駄目だ…このままでは…。
「か、カメカメハーー!」
「クゥワェファメヒャー!」
……! 聞こえる。 聞こえるぞ!
「クワェクワハー!「
「カンメカンメハー」
聞こえる…色々な国の同胞達が同じように叫んでる。
もしかしたら彼らも失敗しつづけているのかもしれない。
あえなくゲームオーバーになっている者もいるかもしれない。
だがそれが何だというのだろう。
俺は…いや俺たちは今ここにいる。
この眠らない街の中心部で俺たちはいま戦っているのだ。
尻を落とし、腰を曲げる。 ゆっくりと。
右側に両手を手首のところでくっつける。
最初の一文字は歯を食いしばり、
「か~…」
続く二文字目にあわせてさらに姿勢を下げる。
「め~…」
全身に力を込め、目線は一瞬だけ右側に、
「は~…」
感じる。 力を、人々の声が力となって両指の間にそれがたまっていくのを感じる。
「め~…」
ぎゅんぎゅんとする音を耳に、しかしながら集中力は身体の内側に集めていく。
まだだ! まだ速い。
逸る気持ちを抑え、VR越しに仲間達が呼吸を合わせているのに気づく…大丈夫…俺は…俺たちはまだやれる…イケる! イケる!
イケるーーーーーー!
いまだ!
「波ーーーーーーーーーーー!」
前面に出した両手から青白い光が飛び出した。
それは眩しく、明るく、そして恐ろしいまでに魅了する。
光はまっすぐにすすみ、敵を飲み込んでいく。
敵の姿はもはや消えていた。
やった…やったぞ…やったんだ。
「おめでとうございます!」
祝福の言葉と共にVRが外された。
興奮状態のかはたまた緊張していたのか、外されて明るい照明の下で俺は一歩後ずさる。
それをごまかそうとしてはにかみながら俺はブースを出た。
ふと左右を見渡すと同胞が…戦友達が同じようにこちらを見つめている。
言葉はいらない。 なぜなら通じないのだから。
だがそんなことは些細なことだ。
俺たちは確かにやったのだ…やりとげたのだ。
あのセルを葬った多重カメハメ波を。
交差した視線は一瞬だけ。 彼と彼らと俺はその場を離れる。
俺はこのときを一生忘れないだろう。
あの想いを、光を、異国の仲間達を。
そうあのとき俺は確かにかめはめ波をだしたのだから。
さて次のブースへと向かうとしよう。
この眠らない街の夜はまだまだこれからなのだから。
あの日、確かに僕はエヴァに乗り、かめはめ波を出した。 中田祐三 @syousetugaki123456
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