イザナ♂とツクヨ♀との運命のやじろべい

むとうゆたか

イザナ♂とツクヨ♀との運命のやじろべい

武藤ゆたか


  不気味なスカルが、ちりんちりんと唸るように、鳴いていた。

その音は「今日も殺した。明日も殺す」と唸っていた。

ぼくは、そのスカルの音が怖くてたまらない。血の匂いが充満するから。

いつまで続くのだろう。

「ツクヨ、おはよう」親が起こしにきた。今日も小さなリュックに

教科書を詰め込み、寝癖のままの髪を振り乱しながら部屋を出た。

朝の納豆をかきこみ急いで出掛ける。

道々の燃え盛る電気を流す電信柱を見ながら学校へ向かう。

小さなタンポポが道の脇に健気に咲いていた。

アスファルトに負けないかのように儚く。

 「よう、ツクヨ」クラスメイトのイザナが声をかけてきた。

「今日のおまえ、顔が暗いぞ。もっと元気に明るくいこうぜ。

なんかいいことあるしよ」

「うん、そうだな。あんがと」とぼくは言った。

「おまえら、今日はなんでもりあがってるんだ?」

後ろからもうひとりアマテがやってきた。

「うん、特に」

ぼくは戸惑いながら答えた。

学校にもうすぐつく。間に合いそうだ。遠くで車の急ブレーキ

の音が響く。吠えるように。


 私は今日、覚醒した。なにかが違う。服のせい?天気のせい?

違う、胸の膨らみとおしりがキュンとしまった気がするのだ。

だれかに触られた?そんなことはない。なんかくすぐったい。

ではなぜなんだろう。わからない。テレビをつけてみる。

『中東でまた自爆テロです。死亡者は多数。

多くの血が流れています』

と報道していた。

「やってられないわ」

わたしはうんざりしながら、朝食の納豆を食べた。おいしかった。

そうだ、菌活、菌活と思いながら、ヨーグルトを食べる。

鞄のなかに、教科書を突っ込みながら、

「いってきまーす!」と家族にいいながら、学校へ

むかう。今日もいいことないかなあ、イケメンが私に

告白してくるとかさ。そう思いながらくすっと笑った。

木々と風が気持ちいい。いい日になるといいな。

私は神さまにそうお願いしつつ、学校に向かった。

木々が葉を揺らす。コソコソと静かに。


 ゆっくりと飛行機雲が御巣鷹山の方に旋回していく。

ぼくも旋回してクラスに入った。今日の授業は国語だった。

難しくてよくわからない。クラスに気になる人がいるかって?

いるよ。でも背中が遠かった。遠くからその女の子を眺める

だけだった。いまは。教科書の片隅にパラパラ漫画を書き、

笑っていた。パラパラ、パラパラ、バラバラ、バラバラ。

クラスから外の校庭をぼんやりと眺めていた。

ただぼーっとした時間が流れていく。

 休み時間になった。

 「おまえさ、これ知らない?新製品だぜ」

イザナが僕にカタログを見せる。そこには三種類の携帯が

載っていた。

「これさ、新製品のスマートフォンて言うんだぜ。帰りに

見に行こう」アマテが言う。

オレはそれがなんだかわからなかった。新機種好きの

触手が伸びた。呪われた機械だとは知らずに。

「うん、行くわ」

ぼくも行くことにした。携帯会社のディスプレイには、

従来のガラゲーではなく、目新しい小型な光る板のような

ものが置かれてあった。

 それにそっと触れてみた。その瞬間、ビクッ、ピクッとする触感があった。

脳のシナプスがくっつく音だった。

「どうこれ?」

「うーん、親と相談だな」

「おれも頼んでみるわ」

ぼくたちはカタログをもらい、それぞれの家に帰っていった。


 わたしは退屈だった。高校生だというのに、

デートのひとつもしたことがない。クラスに気になる人が

いないではなかった。でもいつも後ろ姿。

「顔が暗いぞーっ。どうしたぁ?」

「わたしも元気ないように感じるけどどうしたの?」

ともだちが、休み時間に聞いてくる。

「うん、王子様は、いないかなって」

「無理無理、うちらには縁がないって」

「そうかなあ」

わたしは帰ることにした。帰りの道すがら、

携帯会社のノボリが目についた。

<新製品、発売!。スマートフォン登場!>

とのんきに、はためいていた。

「ねえ、寄ろうよ、あそこ新製品発売だって」

「うん。ま、いっか」とともだち数人と、店に入った。

そこには、黒く光る板状の物体が、鎮座していた。

「さわっていじってみようよ」

「う、うん」

気乗りはしなかったが、手に取ってみた。

 指先が、そっとその物体に近づく。いやな予感が胸をかすめる。

指の先端がスマートフォンに触れた。その瞬間、

店員が、ガシャンと水をこぼした。ガッシャーーーーン。

なんだろ?と思ったが、わたしはスマートフォンをいじった。

ピカッとディスプレイが光る。子宮がドクッと疼く。ドクッ。

「わたし、買うわ。親に言ってみる。」

友人が言う。

「わたしもーーーーそうする」

カタログを店員さんにもらい、家にむかった。


 母と父に、これどう思う?と思いきってカタログをみせてみた。

「ツクヨ、誕生日がそろそろだから、いいわ。買っても」

「ありがとーっ」

「大事に使うのよ」

「はーい」

 ぼくは、すぐ携帯ショップに向かい、スマートフォンを思い切って買った。

「なかなか、かっこいいな」ぼくは、いじくりながら、帰り道で思った。

でもどうやって使うのかはよくわからなかった。

新製品だもんな、と気にしていなかった。後に大きな災いが

くるかも知れなかったが、気にしなかった。


 私はカタログをおずおずと母と父にみせた。

「ど、どう思う?」

「ふーん、新製品ねえ。イザナはどうしても欲しいの?」

「うーん、直感かな。びくっときたというかー、勘だよ、かん」

「しょうがないわね、いいわ。誕生日はこれでいい?」

と両親は言う。

「あんがと」と私はお礼を言った。

うれしかった。その瞬間、

両親が見ていたテレビで危険な地震速報が流れた。

また日本らしい。

「あーこわ、コワコワ」そう言って携帯ショップに向かった。

「いらっしゃいませー新製品ですよー。」と店員さんが言っていた。

わたしはピンクゴールドのにした。なかなかいい。

「これが、スマートフォンかあ、ともだちにも勧めよっと」

と帰り道、トボトボと歩いて帰った。すると遠くで「ピカ」と

イナビカリが、地上に激しく落下していた。暗闇を引き裂いて。


 夜のテレビ番組を僕は観ていた。「黒人を警官が殺害しました。またです」「デフレが止まりません、みんなが失業と貧困になったようです」「日銀がまた、大量に円を刷ったようです。」こんな感じのニュースだった。

「あんまり、芳しくありませんねえ」ぼくは呟いた。そして眠りに

ついた。嫌な胸騒ぎがした。なにか、変だ。なにかはわからないけれど。

闇が覆う感じがする。


 ぼくは休日に渋谷に出かけた。代々木公園に行こうかと思ったけど、

なんとなく渋谷に出かけた。なんとなく気分で。

井の頭線を降りて蔦屋ビルを左に曲がり、ハンズとロフトに向かう。

どこの国にもない、日本のセンスのよい宝がありそうな場所だ。

ワクワクする。

 ハンズに入ろうとしたけど、ちょっと気が変わり道路を渡り右に曲がると

小さな脇道がありそこをずいずいと歩く。

 まるでなんでも殺せる重戦車のように。そこの電柱に

やたらシールと落書きがしてある。なんと書いてあるのか?

いまのぼくにはわからなかった。この落書き、ボックスにも

あるぞ。変だった。暗号のように、<サイン>のように、

薄気味悪かった。

 カフェ<フラミンゴ>に入ってみる。天井にはミラーボールが見える。

丸いテーブルが置いてある。

「カフェは落ち着けていいな」

ぼくは、右端のテーブルに座る。メニューを観る。

店員さんに、

「サーモンのバターソテーを一つお願いしまーす」

と注文した。音楽はまったりとジャズかボサノバが

流れている。いい雰囲気だな。ぼくはゆったりしていた。

ペリエも注文した。近くにはないスパークリングの

炭酸飲料だ。ぼくのお気にいりだ。

 店員さんはすぐ持ってきてくれた。僕は鋭利なナイフとフォークで

サーモンを口に運ぶ。

「う、うまい」

味が口の中にひろがりおいしい。値段も手頃だった。そこにナフキンがあった。

周りには誰も観ていない。そのナフキンを取り出しボールペンを

取り出しこう書き留めた。

<インターネット、根幹から規格をかえるみたい、セキュリティーの重大な欠陥がある>

<霊の合理化ってだめだよ。バランスを取り戻さないと、至急>

と書いて、食べ終わった皿の下に、店員さんに伝わる

ようにと書き留めたものを左端の皿の下に隠しておいた。

 突然音楽が変わった。そして救急車のサイレンが轟く。ピーポー、

ピーポー、と死者の行進のように流れる。怖い。怖い。怖い。


 わたしは休日なのに、その日はなんの予定もなかった。

「よーし、渋谷でもいくべ」と呟くとカバンを持って

出かけた。渋谷はなんか華やいでいる。まるで呪いの祭りのように。

「どこ行こうかのー?」

考えたけど気分がワクワクする行動をすることにした。

結局、タワーレコードに向かった。ここには

数々の板がなんでもあった。

 ショップのヘッドホンで視聴しながら、気に入った三枚の

板を一度にレジにだした。なにを買ったかは秘密なのだ。

ふふふ。買っちゃった。そのあとハンズへ向かう。

なんとなくただなんとなく道路を渡り小さな

脇道に入っていく。頭上をカアとカラスが鳴きながら回転して、

飛んでいった。階段を降りていくと、カフェがあった。

「いこっかな」

<フラミンゴ>と書かれてあるカフェに入ることにした。

わたしは右端にすわり、ソファに身体を沈めた。

「ペリエ一つお願いします」店員さんに注文した。

いい雰囲気だ。わたし向き。と思いながら、

ごくっとペリエを飲んだ。おいしい。幸せだなあわたし。

そこにナフキンが置いてあった。

片隅に<エンジョイ>と書かれてある。

 ボールペンをとりだしそのナフキンに漫画を描いた。

<星に住む、王様の絵>だ。書き終わると、左側のお皿の

下にこっそり無造作に忍ばせた。満足して、

帰宅の途につく。エスカレーターを登ると、右側に

パチンコ屋のネオンが見えた。今日はよかったな。と

思いながら、改札前のホールに不気味な絵が大きく

ある。怖い、怖い、怖い。


 ぼくはテレビをつけた。ニュースでは、『スマートフォンの新発売があり、

飛ぶように売れています』『大統領選挙が始まりました』

『交通事故が起こり、また死者が出ました』と報道していた。

「へー、スマートフォン売れてんだ、買ってよかったかもな」

と精霊に囁くと、精霊が応えたように思えた。ところで、

 精霊ってなんだろう?。ぼくにはわからかった。

「ツクヨ、ごはんできたわよー」

と両親が呼んだ。

「はーーい!」と言って食べに向かった。

 なにか多くの、コソコソと小さな囁きが聞こえた気がした。

相談しているような不気味でとても不思議な感覚だった。


 教室でぼーっとして外を眺めていると、やけに青い空が

澄んでいた。この後ろには広大な宇宙がある。銀河系か、月か、太陽系か。

やっぱり月だろうな。わたしはそんなことを、思っていた。

友達のイワとハナが声をかけてきた。

「なーに、ぼーっとして」

「う、うん。なんで空は蒼いのかなって」

「そんなことより、今年こそは、彼氏つくるぞー」

ハナが言う。

「でも、どうするの?」

とイワが聞く。

「うーん、クラスメイトのあの連中に、声かけようと

思って」

「そうねえ、なかなかかもね、あいつら」

「イザナはどう思う?」

と聞いてきた。

「う、うん、いいんじゃないかな」

私はあまり意識したことがないグループだった。

「らちあかね、いくぞ」

ハナが、男の子たちに、向かって行った。

「ねえ、きみたち、ちょっと相談があるんだけど」

と声をかけた。

「う、うん?なんだ?」

スサノとアマテは戸惑っていた。

「わたーしたちと、デートしない?、結構いけるわよ、

私たち」とハナが言う。

「どうすんのさ」

男のグループの中のスサノが尋ねる。

「そうねえグループで渋谷にいかない?買い物とか食事とか」

「それなら近場でいけるな」アマテが返した。

「よし、決まり!、渋谷に行くわよ。日時もきめちゃお」ハナが言った。

「六月五日の二時に、渋谷モアイ像前集合ね。約束よ」

「わかったよ、強引だけど、おれらもいくわ」

「あんがと!、じゃあ行こう」

その瞬間校庭にいた鳩たちがいっせいに飛び立った。

バタバタッ。バタバタッ。後方には黒いカラスが遅れて

飛び立った。スカルの音がチリーンと唸るように。


 ぼくはテレビを家族で観ていた。

『大統領選挙は、一方的な勝負になりそうです。片方の

陣営が勝利を確信しております。すぐに決まるでしょう』

『今日も人身事故がありました。身体はへしまがり、肉片が飛び散っています』

「つまんねーの、すんなり勝つのか」

そういうとぼくは、学校へ向かった。途中で自然の草花が暖かく

包んでいた。ぼくは葉っぱを拾いポケットに押し込んだ。

なかよくなれますように。そう思った。木々がサワサワと揺れていた。

 教室につくと休み時間になった。ぼくはアマテとスサノと

つるんでいた。

「最近どうよ?」

スサノが聞いてくる。

「ニュースがあるぜ、やっぱりインターネットの規格が根本から、変わるみたいだ。なんでもセキュリティーが完全なものになるとか」

アマテが言う。

「オレ、旧約聖書読んでたんだけどあれは嘘で、アダムはリンゴを食べなかったらしいぜ、なんでも楽園から追放されなかったとか」

「おまえら物知りだなあ、おれ何にも知らないよ」

ぼくは仲間たちの物知りに感心していた。

「ねえ、きみたち相談があるんだけど」

いきなり女の子に話しかけられた。スサノが答える。それから話し合った。

ようはグループで渋谷にいくことになった。向こうの

グループを観ると妙に気になる娘がいた。おとなしそうな、

けどなんとも魅力的な雰囲気を醸し出している。

「あのこ、なんていう名前なの?」

ぼくは尋ねてみた。

「あのこはね、イザナっていうんだよ。性格いいわよー」

「そうか、気になったもんで」

そしてぼくらのグループと女の子のグループは

渋谷で落ち合うことになった。

なんかワクワクする。でも不吉な予感も心をよぎる。

「じゃあ、またよろしく」と言ってぼくらは

帰宅した。ぼくの背中に、悪霊が見え隠れするような気配がする。死神だろうか。感じる。気のせいだといいのだが。

「まあ、なんとかなるんじゃないかな、うまくいくさ」

 ぼくは呟くと、教科書を入れたカバンをしょって、

まっすぐな道を歩いて帰った。月が大きく妖しく光っていた。


 ぼくらは渋谷のモヤイ像前に三時に集合した。集まったのは

男子三人と女子三人の計六人。

「さあ、どこにいこうか」アマテが言う。

「オレは今日はショッピングしたいな」

スサノは言った。

 「わたしはねー、ビレッジバンガード行きたいな」

ハナが提案すると、

「わたしは、ユニクロ!」とイワが言った。

「イザナはどうする?」と聞かれた。

「わたしはねー、ロフト」

「いいねえ~ロフト、いこう、いこう」スサノはハイテンションだ。

ぼくはなんか憂鬱だった。なぜかわくわくしない。

なにか曇り空で、騒がしかったからだ。ぼくは人混みは嫌いだ。

 それでもえっちらとぼくらは渋谷探索にでかけた。

「これ、アプリって言うんだって」

イザナがスマートフォンを出した。

「なにが、できるの?」

スサノが聞く。

「地図やカフェの位置がみれるらしいよ」

「そっか便利だな」

そうぼくがいうとみんなは歩きだした。

まず服を買いにユニクロに向かった。

「うわー広くてきれい」

「おまけに安いんだぜ。コスパいいよな」

ぼくらは店内を、ぐるぐると廻った。

「試着してみるか」アマテが言う。

「いや、こんどにしよう」

ぼくはぼーっと色とりどりの質のよくできた服を見渡していた。

「ツクヨ、どうした?ぼーっとして」

「うーん、なんかみんなと、話したくて」

「じゃあ、カフェ行くか」とアマテは言った。


 道のすがらぼくは歩きながら話した。

「博報堂って会社が、電通って会社を抜くんだって」

「へえー」

「鬼は天使になるってよ、小説にあった」

「ふむふむ」みんな聞いていた。

「お金の増殖はとまり、三つの円がバランスを取り戻す

んだって」

「おまえ、ものしりだな」スサノが言う。

「いや、本やネットで、読んだことだよ。みんな」

「なんでも、人間、アダムとイブは、リンゴを食べずに、楽園を追われなかったとか」

「てことは、重労働もなしか?、あとは楽園?」

「そうらしいよ。聖書は表しか書かれてなくて、本当はそうらしい」 

 みんな、ぼくのつぶやきを、聞き耳立てて、聞いていた。

「なんか、ツクヨ君てものしりだね」イザナが言う。

 ぼくは、少し照れた。

「そんなことないよ」

「君はなんていう名前なの?」

「わたしはイザナ、よろしくね」

「ぼくはツクヨ。よろしく」

「おうおう、いきなりカップルたんじょうか?はやくねー?」

スサノが突っ込む。

「そ、そんなんじゃないよ」

「ならいいけどなー、ふふふっ」

ますます照れた。イザナも頬が紅い。

 みんな思い思いに、話しながら渋谷の街を歩いていく。

 その瞬間、 

<ガッガガガーーーーン!>

 いきなり、車同士が激突した。道路の周りの

人が集まっていた。前のウインドウが血まみれになっている。

「おい、事故だぜ」

「こえーな、渋谷も」

「うん」イザナは呟いた。

 ビレッジバンガードまでは商店街を抜け、

すぐの所にあった。通りに鋭いナイフが狂うように売っている

雑貨はもので溢れている。

異界のものやドグロ、妖怪のたぐいもある。

「なに買う?」アマテは聞いた。

「うん、決めてない」

「じゃあ、みんなで買いたいものを、おのおの買ってこようっ!」とスサノは言って

みんな店内をみた。

「わたしは、これ」ホノニははやばやと決めたそうだ。

<トトロ>というぬいぐるみだ。かわいい。

イザナは、悩んでいた。

「わたしはこれ」

<日本の伝統ものセット>お徳用だった。

「へー、いいな、それ。日本の伝統ってすごく長いよね」

「うん、いいでしょ」

「私はねー、これ」

ハナが持ってきたのは、

音楽の板、三つだった。

「なんでこれ?」

「五二八ヘルツの高周波が、アナログと同じに録音できるみたいだよ。全部の音楽がソルフェジオ周波数になるんだって」

ハナは嬉しそうだ。

 ぼくは、これをえらんだ。

<宇宙と地球、自然動物オールインワンセット十九個お徳用>

「へー、ツクヨ、変わったもの買うなあ」

「うん、やすかったし、セットだからいいと思って」

 スサノは店内をまわり、まだ決めかねていた。

「オレはこれ」

<霊界退治最強お祓い札九個、とくに犬に有効>

「すごいもの買うなあ、スサノ」

「まあな」

ぼくはこれでよかったのか、わからなかった。

最後に、ハナが持ってきた。

「わたしはこれ、ハートマークのキーホルダー、ピンクとみどりと紫の」

「へえ、いいし、かわいいな、ハナは」

「うん」

ハナは顔を染め、照れていた。

かわいいな。ぼくはすこし思った。

 でももっとも気になったのは、

イザナという女の子だった。乳がふっくらしていて、

大きくなく、ちょうどいい。スタイルも抜群だった。

 ちょっと近づいてみた。いい匂いだ。

うなじと髪の毛がキレイだった。ちょっと小指を触れてみた。

「あっ」

イザナは驚いたようだった。

「ごめん、さわっちゃった、きにしないで」

「ツクヨさん、だっけ」

「うん、これからよろしくね」

「はい」

 目を見つめ合った。なにかその瞬間糸が結ばれたような電流が全身を流れた。

運命らしき、ささやきが聞こえる。コソコソ。コソコソ。

 ぼくらは会計を終え店の外にでた。犬が死んでいた。

血だらけの犬が、死んでいた。血反吐を吐いて苦しんで死んでいた。

ぼくらは恐ろしくなり、そこを離れた。

 

 ぼくは、スマートフォンのスイッチをいれ、八個から十八個入れたアプリでカフェを探す。

飲食店のアプリでまず探し、そのあとカフェのアプリを起動

させる。これは人工衛星で位置がわかるらしい。便利な世界だ。

 道端の電柱に見知らぬ文字や記号が落書きで書かれている。

ぼくにはわからなかった。不思議な感覚である。

ハンズの道をわたりカフェに向かう。位置はこの辺だ。

落書きが書かれている。シールも貼られている。なんだろう。

 ぼくらは、カフェ<フラミンゴ>に到着した。紅い店内の中、

丸テーブルにみんなで座る。

「みんな、メニューをきめようぜ」

スサノが言う。ぼくらはメニューを決めた。

なぜかみんな、<魚のソテー、ハーブいり、サラダ付き>と<ペリエ>を頼んだ。

「なんでみんな、同じもの選ぶんだ?」とぼくは聞いてみた。

「だって、みんなの好み、おんなじなんじゃない?、気分だよキブン」

アマテが言う。

「そっか。女子もおんなじ?」

「うん」「みんなおなじ」

 ぼくは不思議だった。妙な世界だ。

店員さんに注文をいれる。

「わかりました」と店員は応えた。

「なんか、はなそっか」

「うん」アマテは応える。

「おれさ、ネットでみたらさ、『アマのイワト』という

はなしが、面白いらしい」アマテが言う。

「へえ」みんな関心があるらしい。

「わたしはね、こんな写真を撮ったんだ。

「『富士の虹』の写真だよ」みんな

食い入るようにみていた。

「綺麗だな、虹って」ぼくはつぶやいた。

「おまたせ致しました」店員さんが料理を持ってきた。

おいしそうだ。いい香りが漂っている。

「いただきまーーす」

「うまいね、おいしい」みんな嬉しそうだ。

「カフェってさ、雰囲気いいよね。ムード音楽流れてさ」

アマテが言う。

「うん、居心地いい、ツクヨくん、ナイスチョイス」

ホノニがいった。

白い皿に盛られた料理は、おいしかった。

一通り食べたあと丸いテーブルの皿は片付けられ、ペリエ

が残った。

「みんなこれからも逢おうよ」

「そうだね、気が合いそう」イザナが言う。

「お土産も買ったしね」

「うん」

「じゃあ、アプリのライン交換しようよ」

スサノが言う。

「そうしよう!!」

みんな嬉しようだ。ぼくは特にイザナとの交換が

したかった。

みんなで見せあい、無事ラインの交換はできた。

「アプリは便利だね。絵文字も使えるんだよ」

ハナが言った。

「これで、交換終わり!」

ぼくは、こっそりイザナのラインにハートマークをつけて、

忘れないようにした。こっそり。こっそり。こっそり。

「もうすぐ、貧困も格差も終わるよ。ピケティという人が

言ってた、なんでも抜け道の国に資産税が全世界に公平にかかるらしい」

「若い人も、高齢者の人も手厚く福祉が充実して、国家が護るんだって」

ぼくはそう言うと、<ペリエ>をグビッと飲んだ。

「アメリカという国と、韓国という国も、福祉が充実するんだって」

「ふーん」アマテは聞き耳立てていた。みんな聞いている。

「じゃあ、何千年も続いた重労働も終わるんだ。動物工場みたいな」

「うん、そうらしい楽園だからね」

「お金の増殖やドル紙幣も変わるってさ、ピラミッドが終わるとか

なんとか」さらに、ぼくは言う。

「人工知能とロボットは人間に反乱しないってさ、そういう思考ができない

機械になるって」

「旧暦になるって。暦が変わるとか」

ぼくは<ペリエ>を飲んだ。みんなもゴクゴク飲んだ。

「ツクヨくんておもしろいね。なんか普通の子じゃないっぽい」

そう言うと、イザナはじっとまっすぐ、ツクヨを観る。

ぼくは、照れて下を向いた。なんかかわいい。この娘。

胸がキュッとしている。照れる。

「行こう」そう言うと、ぼくらは席を立った。

会計は「十五〇〇円です」お金をはらい店を出た。

不気味な重苦しい雲が空を覆っていた。雨が降りそうだ。

「まあ、なんとかなるでしょ」スサノはつぶやいた。

僕たちは、渋谷の街を散策しながら最後にロフトに

寄った。無印良品もある。

「ここ知ってる椅子や文房具と雑貨があるんだよね」

ハナが言う。

見学して、ぼくらは一通りみたあと、エスカレーターで

二階におりウインドウショッピングをした。愉しい。

 「私、これ買う」

 イザナは、スカルのシールと星のシールを買って、

外に出た。よく見ると店の角に小さな地蔵がある。

 ぼくはそっとさわって五円玉を置いた。イザナは八円を置いていた。

 モヤイ像の前まで来るとスサノが、

「今日は楽しかったね、みんな解散!ラインで交換して、

連絡取り合おう!!」

「はーい」みんなそれぞれ帰宅していった。影が黒い影を落とすかのように。

闇が近づいている。毒蛇のような。ヌルヌルと。


 わたしは、家についた。ともだちがクラスでできた。

「みんなで、渋谷、楽しかったな。また逢いたいな」

そう呟いた。

「あの男の子、ツクヨって言ったっけ。きになるなぁ、なんか個性的だった」

そう思うと、子宮がキュッギュッと鳴って、胸騒ぎがした。

「イザナーごはんよーっ」

親と一緒にテレビを観る。

『大統領選挙は、候補者が、酷い女性蔑視やセクハラの言葉や壁をつくるなどと言っています。

なんて候補でしょうか』

『人々は、スマートフォンを観ながら、考えているようです。

なんでもわかるヒントを得られる道具です。飛ぶように売れています』

「また、シリアのアレッポで、自爆テロです。首が転がり、

足がもげ爆発で九一九人が死にました、悲惨な戦場です」

「怖いわね、あいかわらず」

「そうね、うんざり」

私は戦争なんてなくなればいいと思っていた。

「お風呂わいたわよー」

「はーい」

 服を脱いで裸になり風呂に浸かる。

なんか胸がすこしだけ大きくなった。乳首も立っている。

「大人の女性かぁ。少し近づいたかな」

 あのツクヨっていう男の子の顔を思い出しながら、

裸で、湯船に浸かった。

遠くで、イナビカリが、唸るように聞こえる。怖くなり風呂に潜った。

ザブン。ザブン。ザブン。


 クラスにぼくは出た。つまらない授業を教科書に落書きしながらぼーっと空を眺めていた。

一筋の飛行機雲が右に流れていく。

こんどは、いつあの娘に逢えるだろう。

そんなことを想いながら教科書に相合傘を書いていた。

もちろんツクヨとイザナの名を書いて。

 休み時間にスサノがラインを見せた。

「ツクヨ、今晩、一緒にサイゼリアでもどうか?」って。

「うーーん、あんまり乗り気じゃないなぁ」

「いこうよ、ツクヨ、おれ行きたい」

アマテがいう。

「わかったよ。彼女くるの?、イザナっていったっけ」

「もち!」

スサノは嬉しそうだ。

「じゃあ、行くって返事しとくな。時間はいつにする?」

「早く帰れるし、六時十九分がいいんじゃないか?」

「よし、送っとく」そう言うとスサノはラインに打ち込んだ。

簡単に。そして死の香りとともに。


 わたしは、なんだか憂鬱だった。あの男の子ーツクヨの

のことが気になっていた。運命という物があるなら何か

線が繋がっている、きが、きがするのだ。でも自分からは、

勇気がなくて話しかけれない。じっとスマートフォンの、

ツクヨの写真を見ていた。

ハンサムでもないなぁ。でもなにか違うんだよなぁ。

空を眺めていると一筋の飛行機雲が右に流れていった。

イワが、スタスタと、やってきた。

「ねえ、あいつらに、食事行こうって送らない?」

「うん、食事でも誘おうよ」とホノニが言う。

「じゃあ、あいつらに送るね」

イワはそう言うと、<ポン>とラインのセンドボタンを押した。

<今日、食事でも、サイゼリアでどうですか?>

「返事くるかなぁ?」わたしは自信がなかった。

ただあの男の子ーツクヨには逢いたかった。ただなんとなく。

<ポン>すぐ返信がきた。

<今夜、みんなでサイゼリア行こう。集合時間は六時十九分ね>

「やだーー。あいつらはやいね」

「わたしらに、ほれたかな?ふふふっ」

イワがニヤける。

「オトコってスケベだからね。怖いよね。でもあいつらは紳士

だよ」とわたしは言った。

「いざとなったら、金玉に針刺せばいいのよ。オトコなんて」とイワは言う。

「そうだね、当たってるっ」とわたしは言ってみんな爆笑した。


 夜が来た。街は帰宅途中の学生や、中学生小学生、主婦おばあちゃんなどで賑わっていた。

だが暗闇が覆っていた。まるで死神のように。暗く、苦痛を招くような。イタイ。


「やあ」

アマテが最初にきた。ぼくは返事を返した。

スサノもきた。

「女どもは来るかな?」

「ごめーん、間に合った?」

ホノニが来た。

「私たち、楽しみにきたのよー」イワが言う。

「どうも」イザナが来た。

 ぼくはチラチラとイザナを見ていた。かわいい。なんてかわいいんだろう。

なんか心がウキウキした。

ぼくらは、サイゼリアの階段を登り、店員さんにテーブルに

案内させてもらった。

 壁には、イエスの最後の晩餐の絵と、天使の絵それと貝の上に乗ったビーナスの絵が

大きく飾ってある。天井には天界の神々の絵が地上を見守り話している絵が貼ってあった。

なにか静かなザワメキがサワサワと聞こえるような絵だった。不気味だ。


 席にすわり、ぼくらは注文した。

「えっと、小エビのサラダと、ムール貝でしょ、あとバッファロー

モッツァレラというチーズ。生ハム、それとエスカルゴ。計五品ね

「承りました」

「それとー、ノンアルコールワインの、

<MICHELE CHIARILOのBAROLO>というワイン。これにします」

とぼくは注文した。

「わたしは、<Signatures のEN BOREAUX>という

ノンアルコールワインを」イザナは注文した。

 

 食事はすぐ出てきた。みんな思い思いにワインを注ぎ、

乾杯をした。「かんぱーい!」

「さっ食べよ、食べよ」

スサノが言う。

「おいしーっ」イワが言う。

みんな、モグモグ食べている。おいしそうだ。

「サイゼリアって、昔から美味しくて、コスパいいよね」

「ほんとそう。ワインも美味しいし」

「ガストもおいしいぞ。僕は好きだな」

「ガストもいいよね。よく行く」とぼくは言った。


 ぼくらは会話しながらノンアルコールワインを飲み食べていた。

「イルミナティって、変わるんだって」

ぼくは話し始めた。

「巨悪の塊で、ついに変わるときが、きたみたい」

「もっと、聞かせて」イザナが言う。

「大統領選挙で、どちらかが、勝つでしょ。すると、

その負けた方のグループや一族が、根こそぎ殺されるって」

「そうなんだ」ホノニがいう。興味がありそうだ。

「その時、ドル紙幣の、ピラミッドのシンボルが、変わる」

「それは、いつ?」

「たぶん、すぐ」ぼくは続けた。

「そうなんだ」

「そのあと、イルミナティは改革され、統合されるんだ」

「なんでも、Mという神の怒りに触れたから、らしいよ」

ぼくは言った。

「その後、お金は、自然とバランスを取り戻すんだ」

「お金のことがまだある。利子が無くなり減価する。自然の

摂理と同じように、お金が腐っていくんだ。な、自然だろ。

地域通貨もあるかもしれないし、利子は減るかもしれないが、

根幹は腐っていく。こんなかんじかな」

「ふーん」アマテはいう。

「人間は奴隷から開放されて、リンゴを食べない『楽園』に住むんだ」

「もう、重労働や苦痛はないの?」イワが聞く。

「うん、無い。もうなくなるんだよ」

「どこから、そんな知識を?」ホノニが聞く。

「これさ」とぼくは<石版>ーーーー<スマートフォン>を見せた


「ま、難しいはなしは、ここまでにして乾杯しようぜ」

「かんぱーーーーい!!」

みんなで一緒に、ノンアルコールワインを飲んだ。

 ほろ酔いのあとぼくらは会計にむかい扉をあける。


 左側の扉にはスサノが右側の扉にはツクヨがそこの中央をアマテが通った。

突然ライトが倍の明るさになった。まるで光があたるように。

まるで天使が微笑むように。虹がかかるように。


「救われた、奇跡よ」イザナがそっとつぶやいた。


 家に帰るとニュースがテレビから流れていた。

『大統領選挙の結果が出ました、なんと意外にも、

 あのスキャンダルまみれの候補が勝ちました!!、これは

 意外な結果です』

 コメンテイターは言う。

『これは想定外ですね。報道を見る限り相手候補が圧勝すると

思っていたのですが、世論調査でもそうだったのですが、

びっくりしました。意外な結果です』

『これは、世界が変わる始まりかも、しれません』

わたしは階段を登り自分の部屋でぼんやりしていた。

「今日の食事会、楽しかったな。なんか美味しいワインだった。

光が急に明るくなったのには驚いたけど」

「なんてったっけ、あの男の子・・・・・・ツクヨって

言う名前の人だったっけ」

その瞬間ラインが<ピカ>となった。

『イザナさん、こんど二人でお逢いしませんか?、学校近くの

公園でいいので、よろしくお願いします(星マーク)』

「うわっ、ほんとにきたよ、うーん、どうしよう?」

<はい、行きます。昼の三時に、公園のベンチでいかがですか?>

と送る。

<了解しました。ありがとう!、では水筒一つ持ってきますね>

わたしは読むと嬉しくなり心がキュンとなった。

「なんか、いいことの予感かも、そんなきがする」

そうして眠りについた。深い眠りに。まるで眠り姫のように。


 ぼくは公園に向かった。学校の近くの公園だ。

彼女ーイザナはもうベンチに座っていた。

「あえてうれしいです。いきなりだったかな?」

「う、ううん、いいよ。うれしかった」

「そう、よかった」

公園ではブランコで親子連れが遊んでいる。無邪気に。

日差しはまあまあだった。

「あのこれからなんですが、映画とかカフェとか一緒に

行きませんか?、九回から十九回、少しづつ出かけていきたくて」

「はい、ぜひ」

彼女は微笑みながら照れてうつむいていた。

「手をつないでもいいかな?、嫌ならいいよ」

とぼくは勇気を出して言ってみた。

「はい」

小指と小指が触れ合い、手と手が固く握られた。

イザナは身体がビクッと震えた。ぼくもビクッと震えた。

突然公園の鳥が一斉に飛び立つ。山にはきれいな虹がかかっていた。とても美しい。


 ぼくらは、こうしておつき合いすることになった(らしい)。

スマートフォンを観ると『ドル紙幣が変わることになりました』

『暦が旧暦になります』『中東で和平が成立しました』

とニュースが届いていた。

 家に帰り、夜空には大きな花火が、夜景に打ち上げられていた。

ドーーーーン、ドーーーーン。

 人生にはリスクはつきものだ。だがベストを尽くせば、

運命は開けるとぼくは思った。これは小さな東洋の島国、

日本のあるこじんまりとしたおとぎばなし。

<すべては、仰せのままに>

天上の神がささやいた。ぼくは神々に六回ウインクをした。


おしまい。

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イザナ♂とツクヨ♀との運命のやじろべい むとうゆたか @yutakamuto1969

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