どうせ生まれるならこんな顔がいい!

ちびまるフォイ

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「お腹の子、見てみますか?」

「はい!」


妻のお腹の上にカメラがあてられると、胎動している赤ちゃんがモニターに映る。


「これが赤ちゃんですよ」


「先生、男の子ですか? 女の子ですか?」


「それはこれからエディットします」


「エディット?」


モニターが切り替わり、赤ちゃんの容姿設定画面に切り替わった。

俺はコントローラーを持たされる。


「このコントローラーで赤ちゃんの体格から容姿まで思いのままに決められますよ」


「あなた、かっこいい男の子にしてね」

「お、おう!」


設定画面の赤ちゃんをくるくると回しながら、

目の大きさはプリセット16番のどこどこがいいとか、

眉毛の角度はプリセット2番のどこどこがいいとか言いながら進めた。


髪の色から足の大きさまで細かく設定し終わるころには、

もう何日もかけてぐったりと疲れてしまった。


「あなた、やったわね。これ以上ないくらい最高の男の子よ」


「ああ、なんだか達成感があるよ」


「私もよ。胸がこう……ズキズキするような」

「ズキズキ?」


「先生! 陣痛がはじまってます!!」


看護師が慌てて妻を分娩室に運び込んだ。

あれよあれよという間に産声が上がって赤ちゃんが生まれた。

生命の神秘と書いて「ごつごうしゅぎ」と読むのを知った。


「見て、あなた。目元なんか、あなたにそっくりね」

「口元は君の口にそっくりだよ」


「エディットしたんだからそんなわけないでしょう」


医者はするどいツッコミを入れたが、晴れて親バカになった耳には届かない。


生まれてきたときこそ、どれも似たような顔だったが

成長していくにつれ苦労した設定顔へと子供が近づいていく。


「頑張って設定したかいがあるよ。これは将来は俳優さんかな」


「いいえ、この子はアイドルになるのよ」


「それじゃアイドルになって、俳優デビューという道がベストかな」



「「 HAHAHAHAHAHA!! 」」



子供が設定した顔にどんどん近づいていくのが待ち遠しい。

写真はPCがパンクするほどに撮りためた。


ついに、幼稚園デビューとなったとき。


「おい、あれ……」


息子と同じ「ドブネズミ組」にいる園児が、どう見ても息子と同じ顔だった。

双子にしか見えない。


「そんな、まさか、私たちが設定したパラメータと完全に同じ設定で作ったの?」


「そうらしいな……」


向こうの親も自分の子供が、他人の子供と完全に一致していることに気づいたようで

他人と同じ服を着ていたような気まずさを感じさせていた。


「あなた、どうする?」


「どうするって、今さら入園辞めますはないだろう。

 断られ続けた末にやっと勝ち取った入園なんだぞ」


「このまま入園させるっていうの!? あなたそれでも人間!?」


「そこまで言う!?」


「だって、考えてもみてよ! 双子でもないのに同じ顔なのよ!?

 こんなのいじめられるしかないじゃない!!

 幼いときに受けた心の傷は大人になっても癒されないのよ!

 あなたはこの子の将来とエヴァンゲリオン劇場版Qの次作がいつ出るのか気にならないの!?」


「気になるけど……」


「もう設定しなおすしかないわ!!」


「えええ!?」


そんなわけで容姿を再設定することに。

そんなことができるのかと思ったが結果はあっさり出た。


「あ、できますよ」


「先生、本当ですか!?」


「そういう需要けっこう多いんでね。

 大人になったら子役時代の時の顔ちがうとかあるでしょう?

 あれも、途中で顔を設定しなおしたんですよ」


「それじゃ、設定しなおします!!」


妻は食い気味でコントローラーを奪って設定をはじめた。

今度は顔カブりがないようにと力を入れるあまり、時間は前の倍以上かかった。


「できたわ!!」


「お、おお……」


時間をかけて完成した次の容姿は、前より完成度が低く見えた。

いや、単に最初にできた顔をずっと見てきたから見劣りするように感じるだけかも……。


「わかってるわよ。私だって前の容姿のほうがよかった。

 でも、容姿が原因でいじめられて非行に走って、筆箱にナイフとか入れて

 学生時代にバンド始めたりして、SNSに痛いポエムとか投稿したら嫌じゃない!!」


「そうだな。背に腹は変えられないな……」


第二の容姿で設定しなおすと、ふたたび幼稚園へと向かった。

これですべての悩みが取っ払われた。



が、ドブネズミ組に入るなり、まったく同じ顔の子供が待っていた。



「うそ……!?」


我慢できなくなった妻は相手の親の胸ぐらをつかんだ。


「どういうつもりよ!! せっかく設定しなおしたのにまたカブせるなんて!

 いったい何のいやがらせ!?」


「ちっ、ちがいますよ! 本当に偶然なんです!

 うちの子と、おたくの子で顔がかぶったから、我々も同じことを考えたんです!」


「それじゃ、お互いに顔を変えたらまたカブっちゃったの!?」


「私もこんなに価値観が近い人がいるなんて思いもしなかったです……」


相手も申し訳なさそうにしている。

俺は荒れる妻の肩にそっと手を置いた。


「もういいよ」


「あなた……でも……」


「どんな顔だっていいじゃないか。

 どんな見てくれだって、俺たちの子供であることに変わりないだろう」


「…………」


「君は、俺と結婚するとき、容姿だけで選んだのかい?」


「……そうね、私まちがっていたわ」


妻もやっとわかってくれたようで、つかんでいた胸倉から手を放す。


「大事なのは容姿じゃなくて中身だとわかってくれたね。

 同じ見てくれでも、中身がちがうならそれは別の人だ。

 もう容姿にこだわることはない。大事なのは中身なんだから」


「ええ、そうね!」








「それじゃ、次は性格設定を調整しなくっちゃ!」

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