ミライノタメニ


 自らの体の異変に気づいたのは、胸から生えたその刃を目にしたからだろう。どうして?という疑念が始まりにあった。だが、次の瞬間には消え失せて交戦の準備に入った。

 敵はヒロフミさん。先手を取られたのは痛すぎる、自らの油断を嘆く他無いだろう。だが、幸いにして隣にはソロモン王が居る、数の理は此方にある。


 視線を隣に逸らす。だが、彼女は居なかった。


「え……?」


 其処で、初めて声が出た。


「ご、め、リ……ャ」


 彼女の体が食いちぎられて地面へ伏して居た。下手人は2人、振り向き、その敵を見据える。


そして、理解した。


「ドウ……マン……ッ!」


 何故、このタイミングかは分からない。だが、私はクロウに裏切られたのだと理解した。愛した人に切られたのだ、胃の中から色々な物が逆流しそうになる。こんな事始めてだ。


 ……?


 ふと、雑念が過った。本当に初めてだったのか?


 何か、大切な事を、忘れている。


 ピシリと、体にヒビが入る。あれ程に固めていた防御が容易く抜かれた。やはりヒロフミは異様に強い、異能を持ち合わせて居ないのに、技量のみで空間ごと断ち切られるとは思わなかった。


「カ、ハッ……」


 血が……出ない。体が熱を失う。死が脳裏にチラつく。油断が過ぎた、油断が過ぎた、油断が……。


「LuLa」


 知らず。


 口から言葉が漏れた。


「やはり、ですか」


「来るぞ、死の神が」


「私、普通の人間なんですが、切れるのか不安になってきましたね」


「負ける気は無いんだろ?」


「切れずとも、手はありますので」


 2人の男が見据える。リーリャの中にあった物が溢れ出す。黒き死の神が溢れ出す。羽化前に卵を破られてしまったと、怒りを込めて世界を睨む。


 自らのナカにあった物と視線が合った。


「あ、は……」


 知らず、笑いが溢れた。思い出した、思い出した、思い出した。


 リーリャは、リーリャの元となった少女は。


 あの黒き神を見初められ、飲まれたのだ。神は自らが滅ぶ事を予見していた、だからこそその精神ソフト肉体ハードを最新の物に作り変えて、世界の昇華に対応する為の殻を作った。その殻こそがリーリャであり、そして卵の孵化を行う場所としてCLOSEを選択したのだ。


 ただの人が、あそこ迄の大規模な死霊術など行使のしようがない。だが、自らが死其の物であったならば話は別だ。思えば、雲外鏡と出会った時に出た幻影は、本当の自らだったのかもしれない。


 なら。


 死の神が抜け落ちて尚残る、彼への思いは。


 一体なんなのだと言うのだろう?


「リ、リャ」


 ズルリ、と、血で濡れたソロモンの手が私の顔を拭う。其処でようやく自らの瞳が涙で濡れている事に気づいた。彼女は……どうやら無事なようだ。既にブエルによって再生は始まっている。私の体もついでに修復しているのだが、どうやら回復は間に合わないらしい。


 当然だ、中身がそっくりそのまま無くなったのだから。


「クロ、ウ、を、信じ、て……」


 何故、彼の名前が?


「送る、か、ら……ッ」


 一体何処へ送ると言うのだろうか?


「信じて、あげ、て……」


 彼女は、何を理解したのだろうか?


「ガープ!!!」


 ダン、と、力強く大地を叩く彼女の手。其処にはいつか見た悪魔の姿があった。


「生、きて」


 意識を手放すソロモン。同時に何処かへ飛ばされる感覚、最早死を待つだけの私に一体何が出来るのだろう?分からない、分からないが……。


「しん、じ、る」


 視界が光満ちる中、私はそう呟いた。



 クロウの背に、光が開いた。


「アリア、プランBだ。残りは万事任せる、俺は恐らく戻れない」


「承知致しました、マスタークロウ。ですが、貴方は必ず戻ってくる事でしょう」


 恭しく頭を下げるアリア。誰よりもクロウを愛し、導いた彼女だからこそ言える言葉である。

 同時に、葛乃葉は吠える。


「一体何をする気ですか!?」


「言っただろう?神の発生を止めて、この世界を正しく変える」


 其処で、化けの皮が剥がれたかのように叫ぶ葛乃葉。


「だったら!リーリャは死ぬ必要なんて無いでしょう!?」


「いいや、此処で死ななければならない。そうでなければ、大円満とは行かないんだよ」


「貴方に一体何が見えてるって言うんですか!?」


「今見えるのは、可能性だけだ。だが、この可能性はやがて大きく芽吹く。ファットマン!俺がアンタに最高の"ラスボス"を用意してやる!だから戦力を集めて肥え太れ!生半で倒せるような物だと思うな!死力を尽くして肥え太れ!」


 その言葉だけで、男はただ頷いた。


「待つとも!私は力の信奉者、そしてキミは力だ!力は嘘を付かない!キミは嘘をつかない!!!」


 その言葉は偽りの無い、彼の心からの叫びだ。何処か晴れ晴れしさすら感じる、全ての悩みを振り切った言葉。


「葛乃葉、組織が揺れて混乱が起きるだろう、上手く治めろ」


「無茶言いすぎですよ!聞いてる限り朱雀の姉さんも敵に回るような事してるんでしょうが!!」


「そっちは問題ない、問題はCLOSEがトップに居続ける事が出来るかどうかだ、はっきり言って組織状況は滅茶苦茶になるだろうが……お前達ならやれると信じている」 


「雑が過ぎる!!!」 


「……それは、まぁうん……なんかごめんとしか言えない」


「そういう所ありますよね、マスター」


「散々ケツ持ってきたんだ、最後ぐらいちょっと好き勝手してもいいだろ」


 クロウのそんな言葉に、軽くため息をついて首を振るアリア。


「私は、常に支えてきましたが」


「それも……悪いとは思ってる」


「思ってるから、その行動ですか?」


「……大人なりの、責任のとり方があるだろう」


「子供なりの責任のとり方の方が、私は良かったです。だって、こんなにも世界には大人の子供が溢れているのに、貴方だけが大人であろうとするのは……腹が立つ」


「……ごめんな」


 その言葉を最後に、クロウとグレモリーは消え去る。つまり、問答は終わりだ。これからは、成さなければならない事が山積みである。


「あああああああああああああああッッ!!!」


 叫び声と共に頭を壁に叩きつける葛乃葉。何を言いたいのかは分かる、そしてそれが言葉にならない事にも。だから、彼女はアリアに問いかけた。


「アリアさん、クロウは何を成そうと?」


 アリアは、凛とした表情で答える。


「救済を」


 葛乃葉は問いかける。


「アリアさん、クロウは私と貴方に何を成せと?」


 アリアは、目を瞑り答える。


「救済を」


 葛乃葉は、歩き出し問いかける。


「アリアさん、リーリャは救われますか」


 アリアは、彼女に追従するように歩き出し答える。


「救われます」


「ならば、迷う事は無いですね」


「そういう事です」


 2人が出ていった部屋で、小太りの男もあるき出す。


「ああ、やはり彼は良い、力とは……そうでなければ」


 誰も居なくなった部屋に、静寂が訪れた。それは、まるで今の世界の行末を暗示しているようでもあった。



************************************************


ディープ・クローズとしてのお話は此処で一旦終わりです。

次はディープ・クローズの前日談から始め、此処を越えての話を続編として書きますので、それで物語の大体の回答になると思います。(まだもうちょっと書くのに時間かかりますけどね!!!)

それより前に、いくつかちゃんと書きたい話もあるので、その為の一旦の区切りを自らの中で付ける為にディープ・クローズ自体は此処で完結です。


あえてボカしたキャラ毎の行動や、リーリャの出生に至るまでの話、四聖全員の話なんかも続編の方で明らかになる予定です。


ディープクローズが中年が覚悟決めるお話なら、続編は少年が少年のままに突き抜ける対比的なお話になります。クローズの作中のモブとかも結構出てくるので、投げっぱなしになってたモブどうなってんだろ?とか思いながら見て貰えると面白いかもしれないです。一応次回作の方にもCLOSEメンバーしっかり出て来ます。


リーリャはどうなるのか?あんまり語られてなかったヒロフミは裏でどんな事をしていたのか?学校の用務員って結局何者だったのか?とか、伏線色々残ってますがしっかり回収します。信じて!


まぁ、そんな感じで。一旦アバヨ!!

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ディープ・クローズ 七尾八尾 @SevensOrder

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