魔女と少年

@chunlan1998

第1話 唐突な出会い

俺は、いつもケンカばかりしている。

そしてその日もいつも通りケンカをしていた。

殴って、蹴って、殴られて、蹴られて。

そして、最後にはゴミのように路地裏のゴミ置き場に捨てられた。

口の中は切れてるは周りはゴミは臭いはで、気分は最悪だ。


まあ分かってはいた。

いくらケンカをしなれていてそこそこ強いと言っても、さすがに応援を呼ばれたあたりから無理だとは思っていた。

死ななかっただけマシだろう。


それにしても、全身のいたるところを強く殴られたようだ。

少し動くだけで全身が痛いし、息をするだけで口の中で血が滲む。

(これは…まずったか)

この怪我のひどさは過去最大かもしれない。



意識が遠退き始め、瞼が重たくなりだしたとき、遠くから足音が聞こえた。

それはゆっくりとこちらに向かってくる。

先程ケンカした奴らがとどめでも指しに来たのだろうか。

いや、それにしては音が軽い。

…まあ誰でもいい。

ここで死ぬのなら、そういう最期なのだろう。

とにかく今は、すごく眠い。





「お前か、さっきから魔力をだだ漏れさせているのは。」




ーー驚くほど、この場には相応しくない凛とした声だった。

端正な顔立ちが俺を見下ろす。

過去にこれほどまでに美しいと思える人を見たことがあっただろうか。 

彼女の目はまっすぐと俺を見ていた。

俺は何故だかその視線から目が離せないでいる。


「お前、すごい怪我じゃないの。」

そう言って彼女はしゃがみこみ、俺の血だらけの手に自分の手を重ね、

「今から私がすること、決して誰にも言ってはいけないよ。」

と、イタズラっぽく笑った。

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