校庭を抜ける一陣の風

亀虫

それでは、校長先生のお話です。

 ごほん。えー、残念なことにですね、この学校内でタバコを吸っている生徒が複数いました。校則どころか、法律でも禁止されていることです。それを破ってまでタバコを吸うなんて、なんと嘆かわしいことでしょう。今回は大目に見て停学処分で済ませましたが、今度見つけたら間違いなく退学です。この話を聞いている皆さんもよく覚えておいてください。決して彼らの真似をしてタバコを吸おうなどとは思わないように。さもなければ退学ですよ、退学。


 そこ! 何をこそこそと笑っているのです? ちゃんと真面目に私の話を聞きなさい。私は真面目に話しているのです、君たちも真面目に聞くのが筋ってものじゃありませんか? だから笑うのをやめなさい。わかりましたね?


 それにしても、今日は風が強いですね。こんなところで私のお話を聞くのは寒くて辛いでしょう。でも、君たちが真面目に聞いてくれればすぐに終わる話です。だから真面目に聞いてください。残念ながらまだ笑ってる生徒がいるようですが、早く笑うのを止めなさい。これではいつまで経っても私の話は終わりませんよ。


 ん? 頭? 何を言っているのです。私語を許した覚えはありませんよ。バカバカしい話もやめなさい。何ですか? そんなに私が言っていることがおかしいですか? でも、君たちが自分勝手に話していることのほうがよっぽどおかしいのです。そのことをわかっていただきたいものですね。

 

 えーと、話が逸れましたが、タバコは百害あって一利なしのとんでもない代物でありまして……。あっ、ほら! そこ! しゃべるのを止めなさい! 何度言ったらわかるのですか! 仏の顔も三度までです、いい加減にしないと君たちも停学にしますよ!


 はあ? 何ですって? ズレてる? この私がですか? 私の言うことがずれていると言いたいのですか? 私はそれほどズレているとは私は思いませんが。社会のルールを守ることは常識中の常識ですよ。あなた方が社会人になったときに当たり前のルールすら守れない人のままだったらどうするつもりですか。警察のお世話になって、刑務所に入れられるというオチですよ。


 話じゃなくて、頭? ははあ、なるほど私がイカれてると言いたいわけですか。君たちから見れば、確かにイカれていると言えるでしょう。ですが、世間的にみれば君たちの方がイカれてます。それをわかってほしいと私は思います。


 君たち、静まりなさい。笑ってる人が増えましたね。非常に残念でなりません。今のやり取りのどこに笑う要素があったのでしょうか。君たちはこのままじゃ確実に社会の落ちこぼれです。一生懸命話している人を嘲笑うなんてことは残念な人が行う下衆な行為です。今すぐ慎みなさい!


 ヅラ? そこ! 何を意味不明なことを言っているのです! 私の頭はカツラではありませんよ! 地毛です! ズレてない! 失礼ですよ! これだから最近の若者は、と言われるんです。自覚しているのですか!


 わっ、風! 酷い突風ですね! 君たちも私の話なんかもう聞きたくないでしょう? だったらさっさと黙りなさい。私からのお願いです。静かにしてください。

 

 頭? だから地毛だと言っているでしょう、そこ、爆笑するな! えっ、そこに地毛が転がってますよ、って? あっ……いや、違う、私はヅラなどではない、断じてハゲてなどいない! 君たちも髪の毛が抜け落ちることくらいあるでしょう! それと同じです! 髪の毛は入れ替わりの激しい箇所なんですから、当たり前でしょう!


 あぁーっ、もう! さっさと黙れっつってんだろう! 生徒全員で笑うな! おい、田口先生も何一緒になって笑ってるんだ! 首にするぞ! は? 「これじゃ鶴の一声ならぬツルツルの一声だ」って? 馬鹿にしてんのか!? あっ、吉江先生までクスクス笑うのか! もう、うるさい! うるさいうるさい! 私はハゲてない! 毛根も死んでない! あぁもうこんなの嫌だ! 突風も生徒も教師も大嫌いだ! お前ら全員退学だ、退学、退学、退学―!!

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校庭を抜ける一陣の風 亀虫 @kame_mushi

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