4.結末

 それから数日は、変わりなく過ぎていった。

 ダニエルが食事を作り、二人で食べ、黙々と本や羊皮紙のたばを読む。


 一度、気が向いて町に出ると、アウグストが意外にも町の人々にしたわれていることと、遺跡には毎朝役所の者が巡回し、盗賊が転がっていれば捕まえるということを繰り返していると、知った。


 未読分も少なくなり、それにともない、少なくとも現在、書庫の本に書きしるされている中には、人をよみがえらせる術はないと見当がついた。

 深い失望があったが、知識をかして自分で見つけられないかと、そんな思いも芽生えてきた。

 ただそれは、罪悪感からではなく、欲なのだと、知りたいと焦がれる欲なのだと、薄々気付いていた。


 最後の一ページを読んでも、やはり、記されてはいなかった。


「答は出ましたか?」


 穏やかに尋ねられたのは、青空の下でだった。

 全て読み終え、書庫を後にしたダニエルを追うようにして、アウグストも外に出ていた。

 兄が死んだのも、よく晴れた日だったと、そんなことを思う。


「ここの本には、人の蘇生法なんて書かれてない」

「ここにない本は、写本の一切ないものと考えて間違いないと思いますよ。もっとも、原本のみのものも、ここにはありますが」


 つまりは、世間に出回っている本は、ほぼそろっているということだ。

 ――活版印刷が普及するのは、いま少し後のことになる。


「それなら、蘇生法は書かれてないんだろう。俺は、自力で探し出す」

「それが結論ですか」

「文句あるか?」

「いえ。立派です。それなら、最後の夕食くらい、私が作りましょうか。それとも、今からすぐに出て行きますか?」


 ダニエルが出て行くことが前提の言葉に、気後きおくれした。

 今更いまさら、手遅れだろうか。そう思うが、確かめることもなくあきらめるのも、いやだ。

 勇気を振り絞って、顔を上げた。


「前の、後継者っての、もう無理かな」

「え?」

「ここに残って、蘇生法を探すのって、駄目、かな」

「……………歓迎します」


 長い間を置いて、にっこりと、アウグストは微笑ほほえんだ。

 胸の内の、恐れが消える。


「ただし、ちゃんと私のことをうやまってくださいよ」


 いたずらっぽく言う師に、さてどう答えたものかと、つか考え込んだ。

 青空の下で見上げた書庫とアウグストと、今日でお別れでないことが、思った以上に嬉しかった。

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夜明けの向こう 来条 恵夢 @raijyou

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