エピローグ「Over the Rain□□□」
真っ白な色のない砂漠。
その中に独り――たたずむ少年。
銀がかった金髪/微睡むような瞳/一糸纏わぬ姿にただ一つの装飾――首から下げた糸の先に
右手に弓を/左手にバイオリンを構え、音色を奏でる。
少年のかたわらに
傷ついた灰色の翼/交差する骨組み――さながら砂の十字架。
少年の奏でるバイオリン――朽ち果てるものへの
まるで何もかも錆びついて凍りつくような冷たい音色――砂漠の熱気すら冷たく氷に閉ざされてしまいそうな、寒々しい旋律。
ふいに
赤錆びたオイルに
《おめでとう! 君は真実に辿り着いた。世界の真実にね》
場違いに明るい声音/心の底から楽しそうだと言わんばかりな男の声――それを無表情に見つめる少年。
《君へのご褒美に一つ、良いことを教えてあげよう。君が砂漠に閉じ込められた背景には某国の思惑があった。某国は〝聖戦士たち〟を焼き払うため鳥の群れを遣わしたが、それだけでは足りない。地に潜った〝聖戦士たち〟を駆り立てるには、やはり兵士が必要なのだが、彼らの国は臆病でね。自分たちが傷つかないために〝砂漠の兵士〟を利用しようと考えた。だが、そこで問題があったのさ》
割れるような
《某国は門を開く代わりに、〝砂漠の兵士〟に働いてもらう予定だった。〝お前たちを懲らしめる門を開けて欲しいなら、戦え〟とね。ところがここで不味いことになった。〝砂漠の兵士〟はあろうことか、某国の敵である〝東の大国〟と密かに取引きをしていた。いま門を開いてしまうと、砂漠の黒い泉から湧き出す富が、〝東の大国〟へと流れてしまう。それは困る。そこで君の出番となった訳さ》
驚くでもなく少年は、ただ冷めた目で無線機を見つめている。
《君の国は、もっと力が欲しかった。某国の弱みに付け込んで、進んで汚れ役を買って出た。彼らに恩を売るためにね。その役目を背負わされたのが、君さ。君というジョーカーはそれほど強いカードだった。そして君が逃げ出さないように、みんなでよってたかって鳥籠に閉じ込めたのさ。……この砂漠の鳥籠にね》
鳥籠――その言葉に少年が反応を示す/おもむろに口を開く。
「僕は、鳥籠を出たい」
《私がその手助けをしよう! 願いこそ真実だ。あらゆる願いを抱く者との公正な取引きこそが、私のモットーなのだからね》
なぜ壊れた通信機から声が聞こえるのか?/なぜこの声は少年も知らない砂漠の真実を知っているのか?
どちらにも関心は示さず、変わりに少年は一つ
「あなたは、オズの魔法使いなの?」
その言葉に通信機が笑い声を上げた――壊れた楽器のように。
《いかにも。君が望むなら私は怖ろしくも偉大なオズ大王であり、どんな願いも叶えるランプの精であり、あらゆる障害を撃ち砕く魔弾の悪魔になろう! だが、願い事はなるたけ慎重に決めるのお勧めするよ。叶えられる願い事は三つ……そして願いには代償がつきまとう。さて――君は何を願うのかね?》
ますます激しくなる
「僕の一つ目の願いは、砂漠から出ること。二つ目はもう砂漠に戻らないこと。そして三つ目は――」
少年の脳裏に過ぎる、おぼろげな記憶。
三つの願い/三つの欲しいもの/三番目に欲しいもの。
最後に残された/最後に見つかった――もっとも大切な願い。
それが誰の言葉だったか――思い出せない相手/だが――
鳥を殺した日――確かに虹を見た。
七色に輝く光――微かに聞こえた声/どこかから届いた歌声。
忘れられた歌――いつか聞いた少女の歌を。
大切な女の子――約束/再会/願いが込められた――虹の歌。
胸の中にザーザーと冷たい
「逢いたい人がいるんだ。大切な子が……多分、その子のことが好きだった。もうその顔も思い出せないけれど……でも――」
――もう一度、あの子の歌が聴きたい。
果たして――その願いはどこかへ届いたのか。
ザーザーと砂嵐――砂と
その声は天高く――誰も知らない空の彼方へと飲まれていった。
そして、少年は砂漠を出る――――
Fin & To be continued………………
EULEN SPIEGEL 3 - Holy Week Rainbow.
夕映えと小鳥のメモリア‐特甲猟兵物語‐ 神城蒼馬 @sohma_k
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