勉強ローンでお支払いはご遠慮ください

ちびまるフォイ

中学生あたりから始まるエリート教育

「お支払いはカードにしますか? 現金にしますか?

 それとも……ワ・タ・シ?」


「じゃあ現金で」


「あ、まだありました。勉強ローンでもお支払いできますよ」


「勉強ローン?」


「お金の代価として勉強するんです。

 こちらでお支払いしますか?」


勉強すれば金を払わなくていい。

それを聞いたらためらう理由なんてなにもない。


「勉強ローンでお願いします!」


「科目は?」


「えーーっと……数学、かなぁ」


学生時代の通信簿をぼんやりと思い出して、

数学の成績がよかったことをなんとなく思い出した。


「勉強ローンでのお支払い、ありがとうございましたーー」


コンビニで適当な昼食を買い、代金を数学での勉強ローンとなった。

のちに、自宅にテストの会場と日付案内が届く。


「550円ぶんの勉強ローンテストがあるのか。頑張らないとな」


テスト範囲は550円規模なのでそこまで広くない。

忘れかけていた中学数学から高校までをざっと洗い出してテストに臨んだ。


結果は見事試験をパスして、勉強ローン支払い完了となった。


「なんだ簡単じゃん! 今ままで金を使っていたのがバカみたいだ!」


その夜はテストが終わった解放感と、お酒の勢いと、純情な感情の1/3が作用して

夜遅くまでネットで買い物をしていた。


翌日、酔いもさめた頭でパソコンの画面を見ると

おぞましいほどの金額が勉強ローンで購入されていた。


「や、やばい……調子に乗って買いすぎちゃった……」


購入キャンセルしようにも、勉強ローン支払いにキャンセルはできない。


「しょうがない、腹を決めて勉強しよう。

 これでも学生時代は数学が得意だったんだしなんとかなるだろ」


前向きというか開き直るというか。

とにかく現実を受け入れて前に進むのが俺の長所。


会社帰りに書店で「はじめての高校数学」を購入すると、

実際のテスト範囲が発表されるまで予習に努めた。


後日、テスト範囲と勉強ローンのテスト日時が送付された。



試験日:6月10日

 範囲:超数学におけるフェルグラント定理の量子幾何学論



「……は?」


暗号かと思って、ローマ字に分解したり縦読みしたりしたが

購入金額が高すぎてもはや異次元のテスト範囲になっている。


鈍い俺の頭にも今の状況がいかにピンチか把握するには十分だった。


「もし、これ試験参加しなかったらどうなんだろう……」


お金払ったら許してもらえるのかと思ったが、

勉強ローンで一定金額以上の支払いをする場合に、それを断ると。



[ 死刑 ]



「この国どうなってんだ!?」


軽すぎる人の命の扱いに海外への高飛びも考えたが、

数学に対して英語の成績は絶望的過ぎるので断念した。


残された方法はただひとつ。


「替玉受験しかない……!!」


幸いだったのは、すべてネット経由での買い物だったこと。

俺の顔を見た人は誰もいないので替玉だと気付けるはずがない。


有名大学の数学科、それもかなり成績優秀な人間をスカウトしてきた。


「なるほど。それでこの塔大エリートの僕に白羽の矢が立てられたんですね」


「どうかお願いします。勉強ローンが払えないと死んじゃうんです」


「あなたのようなバカがやりそうなミスですね。

 いいでしょう。アッと驚く結果をご覧にいれますよ」


「頼もしい!」


「それじゃ、先に料金とテスト時に出す個人情報を」

「はい」


俺はエリートに替玉代と自分の個人情報を渡した。


「それじゃ、当日はくれぐれもよろしくお願いします」




審判(テスト)の日、当日。

試験会場から連絡が届いた。


「え!? 会場に誰も来ていない!?」


約束したはずのエリートはお金だけ受け取ったうえ、

俺の個人情報を使ってクレジット使いまくる悪行の限りを尽くしていた。


クレジットカードは慌てて差し止めたものの、

勉強ローンとして追加されてしまい、テスト範囲はより難易度を増す。


「うそだろ……だまされるなんて……」


アッと驚く結果ではあったが、こんな結果は望んでいない。

死刑を待つ囚人のような足取りで、やむなく試験会場へと向かった。


「お待ちしておりました。さぁ、勉強ローンの試験を始めましょう」


「あのーー……今日はちょっとお腹の調子が悪いので

 1問ごとにトイレに行ったりするのは……」


「ダメです。勉強ローン試験でのトイレは認めていません」

「うぐぐ……」


「この試験をマークシート式に変更するというのは……?」

「無理です」


「テストを後日開催というのは……?」

「不可能です」


「うわぁぁん! もう八方ふさがりだよぉぉ!!」


もう机に突っ伏して泣くしかなった。

試験官は指を1本だけ立てて言った。


「ただし、1つだけ認めていることがあります。科目の変更だけは可能です」

「意味ねぇ……」


数学が国語になったところで、テストそのものの難易度は変わらない。

数学以上に得意だった科目なんて……。





採点が終わると、結果に試験官は驚いていた。


「そんな、まさか科目を変えただけで満点だなんて!

 勉強ローン完済おめでとうございます!!」


感動のあまり拍手を送る試験官を背中に、

俺はジャケットを肩にひっかけながら夕日に向かってダンディに歩いて行った。


「ええ、保健体育の教科書なら穴が開くほど読んでいたものでね!」

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