あとがき

僕はゲロと全裸を讃える 

 この作品にはやたらゲロを吐く描写が多く、またなにかと登場人物が全裸になります。

 なぜこんな汚い作品になってしまったのか、自分なりに考えてみました。



 数年前の出来事です。

 東洋医学の勉強会に参加していた際に、先生が言いました。

「ゲロを吐いたらそのことに感謝しなさい。その食べ物を消化できないと身体の中のサムシング・グレートが判断したのだから。食べ物自体に毒があるのか、消化する体力がないのかはわからない。しかしゲロという形で吐いたからこそ、毒を消化しないですむのです。ゲロを吐くというのは身体の偉大な反応なのです」

 

 その時の先生の服装や会場の様子はすっかり忘れてしまったのですが、この強烈な言葉だけは今でも鮮やかに思い出せます。

 

 また、日本の誇る天才学者、南方熊楠みなかたくまぐす

 彼は少年時代、ケンカで負け知らずだったそうです。

 なぜかというと、自由自在にゲロを吐く能力をケンカに使っていたからです。


 ゲロを自由自在に吐ける特殊能力持ちの主人公が活躍する小説を書こうと思ったこともありましたが挫折しました。


 そんなわけでゲロそのものはやはり汚いのです。

 が、ゲロを吐くという行為そのものに対する見方はかなり変わりました。


 次は裸に関して。

 人が強制ではなく、自ら進んで全裸になる状況とはいかなるものか、と調べました。


 以下、思いつくままに挙げてみます。


 アメノウズメが岩戸の前でストリップをしたおかげで太陽は再びこの世を照らしています。

 

 アルキメデスは風呂に入った際に浮力の原理を発見し欣喜雀躍。

「ヘウレーカ」と叫び、シラクサの街を全裸で走った逸話があります。


 陳平ちんぺいは漢の高祖である劉邦を支えた名軍師ですが、彼も全裸になって命拾いしたことがあります。

 黄河を渡るため船頭を数人雇った陳平ですが、船頭たちは彼の身なりを見て金品を奪って殺そうと思いました。

 異変に気づいた陳平は迷うことなく全裸になり、船を漕ぐ手伝いをはじめました。

 船頭たちは彼から奪うものが何もなくなり、陳平は全裸で危機を切り抜けました。


 山岡鉄舟が若い頃、彼を慕う血気盛んな若者が夜な夜な彼のもとに集まりました。

 ただ困ったことに、血気盛んなだけあって時々辻斬りをしでかすのです。

 困った山岡は一計を案じました。

 以下、小倉鉄樹著『おれの師匠』より抜粋。


 ――まず師匠が真っ裸になってフンドシまで外して座敷の真ん中で四斗樽の底を叩き出す。すると一座の連中が山岡の周りで真っ裸になって「えいやさ、えいやさ!」と拳固を振り回して豪傑踊りを始める。

 踊り疲れると酒を飲みだす。酒が回るとまた師匠が樽を叩き出し、皆んなが踊り始める。

 そのうち疲れてゴロゴロその場に寝てしまう。

 その内の一人、中條景昭が後年に語る。

「今になって思えばまるで山岡にバカにされていたようなものだ。なにせ山岡が志気を鼓舞するのだと言って真っ先に素っ裸になって樽を叩き出すのだから、それに乗って皆が裸で踊りだしたのだ。まさか裸体じゃ辻斬りにも出られるものじゃない」――引用終わり。


 全裸で事を収めるのはどこかユーモラスですが並の男ではできません。


 ともあれ、僕たちは人を値踏みする際に、家柄、学歴、社会的地位、乗っている車、着ている服装、住んでいる家、腕に巻いている腕時計。

 そういったもので判断しがちです。


 しかしそれらの虚飾をはぎとられたら、その人には何が残るのでしょう。

 自分を飾り立てるものをすべてかなぐり捨て、裸の自分になった時、その人の真の価値、真の力がいやでも浮かび上がってくるのではないでしょうか。


 僕は今、真の自分の価値を探っている途中です。


 読者の皆さまが裸になった時の真の自分の価値、自分の力。

 この作品を切っ掛けに、そういったものを考えていただけたらこの『祓ってポン!』の存在価値も少しはあるのかもしれません。


 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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祓ってポン! はらだいこまんまる @bluebluesky

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