第5話 温かい家庭

私は小鳥の声で目を覚ます。

可愛らしい掛け布団を体の上からどけ、ゆかに足をつける。


ふわふわな絨毯は優しく私の足の裏を包み込む。私はそっとドアへ手を伸ばす。


すると同時にドアが開く。


「…っ。どこへ行くつもりだ」


倒れかけた私をそっと支えて低めの声でそう問われる。


そっと上を見ると蜂蜜色の瞳が私を見下ろしていた。


さらさらした白髪はハーフアップにされている。後ろ髪は短い。


男の人は私のことをひょいと持ち上げると、抱き上げる。


服からはとても落ち着く匂いがする。

それよりこの人は誰なんだろう。


「あの、あなたは」

「ミカエル。ルシファーとはもう会っただろう。あいつの兄弟。」


つまり王子…?

ミカエルさん私を抱えながらどこかへ向かっている。


ミカエルさんの歩きはとてもゆっくりで落ち着いていた。ゆらゆらと揺られながら後ろへ流れていく赤い絨毯を見つめる。



しばらく歩いた後、ミカエルさんはメイドさんに私を預けると「また後で」と言って少し微笑んで去っていった。


メイドさんに預けられた後、私は大きな浴室へ連れていかれた。


浴室には全体的に天使の彫刻が施されていた。浴槽にはお湯がいっぱいに入っており、ライオンが口からお湯を出していた。


そして私は髪や体を洗ってもらい、体を拭いた後、白い清楚なワンピースを着た。腕の部分は透けており、今の季節にあったものだった。


髪は綺麗に三つ編みがしてあり、可愛らしい花が私の黒い髪を彩っている。


「…レイチェル様、こちらへ。」

メイドさんは大きな扉をギギギと開くと中へ入るよう促した。


私は促されるまま中に入ると、目の前にはたくさんの料理と、王や王妃と思われる2人。そしてミカエルさんとルシファーさんがそれぞれの席に座っていた。


私は見たことのない料理やずらりと並ぶ執事やメイドを見て驚く。

そしてなにより家族で食事をとる、ということが衝撃的だった。


「レイ。」

ルシファーさんの優しい声が私を呼ぶ。

椅子の前でぼうっと突っ立っている私を見かねて声をかけてくれたらしい。


「緊張なさらないで。今日からあなたは私たちの家族なんだから!あぁ、待ち望んでいた娘だわ…!あぁ、あなたどうしましょう」


頭に銀色の王冠をのせた女の人が綺麗な白い髪を揺らしてそう言った。


「母さん。落ち着いて。」

ルシファーは軽く笑いながら興奮気味の王妃を落ち着けようとしている。


…私はドキドキしながらも用意された席へとつく。


前には王や王妃様がおり、左右にはミカエルさんとルシファーさんがいた。机は円状になっており、みんなの顔が見られる。

この国の王族は皆白色の髪に蜂蜜色の瞳を持っているらしい。とても綺麗でついつい見つめてしまうくらいに。


王は私が席についたことを確認すると、低く威厳のある声で私の名を呼んだ。


「レイチェル。」

「まぁあなた、そんなに怖い顔をなさらないで。怖がられますよ」


王妃様は王の肩を優しく叩く。


「レイチェル。突然の事でびっくりしたでしょう。私はマリア・ラノーンド・エルトリア・ルシェール。この国の王妃であり、王子たちの母です。」


にっこりと微笑みながらそういう姿はまるで聖女のようだった。


「…レイチェル、私はルシェール王国第124代目国王ガブリエル・ラノーンド・エルトリア・ルシェール。」


王妃様の言葉が刺さったのか少し緊張した面持ちでそう仰った。


「…わ、私は…その…。元ルノード王国第14王女のレイチェルです。

あの、私はなぜここに…。」


私は必死にそう問いかける。


「……そうだな、その話をせねばならないな。しかし今は食事中。後ほどゆっくりと説明しよう。」


王はそう言うと、再び食事を始める。


「えぇ、えぇ、たくさん食べないと。」


王妃様は私の食べている姿をじっと見つめている。


「…母上。彼女が食べにくのでは。」

ミカエルさんは食べ終わったらしく口を拭いながらそういった。


「あらごめんなさい。とても可愛らしくて。」


可愛らしい。

今まで言われたことのない言葉。


「…そんなこと、ないです。わ、わたしは呪われた…」


「それは違うよレイチェル。」

ルシファーさんは少し悲しそうにそう言った。


「ルシファー。」


ミカエルさんが目を伏せながら名前を呼ぶ。


「ま、まぁ、そんなに暗くならないで。ルシファー、その話はまた後で、ですわ。」


王妃様が慌てながらそう言う。

「うん、レイ気にしないで。

さあ、たくさん食べて。まだまだあるよ?」


「ありがとう、ございます。」


_________________


「じゃあ、お話しようか。」


食事が終わった後、私はルシファーさんに連れられてルシファーさんの部屋へ行った。


「えぇ、と。何から話せばいいかな。まずは君の王国について話そうかな。」


淹れたての紅茶を飲むと、そっと一息をつく。


「君の王国はね。我がルシェール王国によって滅んだよ。これは昨日も言ったかな。滅びたと言っても何人かの王子は逃げ出したし完全に滅ぼすことが出来たわけじゃないんだけど。」


少し悔しそうにそう言った。

…滅びた…?


「あの、なぜあなたたちはあの国を滅ぼそうと思ったのですか…?」


私は唐突なカミングアウトに驚きつつ、おずおずと尋ねる。

するとルシファーさんは口角を少しあげてこういった。


「ふふ、それはね。」


「君を連れ出すためだよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

漆黒の天使は愛されている 白兎 @Papipo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ